49. 飛竜の巣の排除について

 数日後、マーシャルワンがエッセンスの街から戻ってきた。

 どうやらエッセンス伯爵様から飛竜の巣を除去する許可をいただいてきたようだ。


『基本的には飛竜の排除ということで問題ありません。ただ、巣を排除された飛竜がエッセンスの街方面に向かわないことが条件となります』


『ということは、先に飛竜の巣の配置とどれくらいの竜が棲み着いているかの調査か?』


『そうなりますね。ルリ様、追加の機械兵を連れて来ていただきたいのですが、よろしいですか?』


「はい、もちろんです」


 今回追加されることになった機械兵は、バリバリの戦闘型だった。

 空中戦に特化しているらしく、空を自在に飛び回りながら敵を倒していくらしい。

 空からの脅威にまで備えているのが、なんともクラウピアらしいね。


 私がその空戦特化機械兵を15体連れてきたあと、いよいよ作戦開始となる。

 作戦開始とはいっても最初から飛竜の巣を責めるわけではなく、まずは飛竜の全体数の把握だ。

 それに、どんな種類の飛竜が棲み着いているかも調べるらしい。

 一言で『飛竜』といってもかなりの種類があるみたいだね。


『マーシャルワン、本日の諜報活動完了いたしました』


『報告を』


『はい。飛竜の巣ですが、大きく分けて4種の飛竜に分かれているようです。1種目は地竜を餌にする岩翼竜、2種目は蛇竜に引きつけられてきたであろう緑竜、3種目は緑竜を餌にする青雷竜、最後の1種がそれらすべてを餌にする氷壁竜です』


『……困りましたね、飛竜の方でも生態系が成り立っていましたか』


『はい。どれか1種を倒してしまうとそこから生態系が一気に崩れます。4種すべてを効率よく討伐する必要があります』


『確認できた個体数は?』


『岩翼竜が4、緑竜が6、青雷竜が2、氷壁竜が1です』


『となると、氷壁竜はあまり積極的な行動を起こしていませんか。まずはそこから崩しましょう』


『かしこまりました。ですが、氷壁竜相手ではいまの装備だと不安が残ります。拘束炎上弾の使用許可を求めます』


『……わかりました。ただし、森に延焼した場合はすぐに消火するように』


『ありがとうございます。それでは準備に入ります』


 目の前で繰り広げられていた報告によると、飛竜は4種類生息していたらしい。

 それで、手始めにその4種の中でも生態系の頂点に立つ飛竜を倒そうということだ。

 そのために高速炎上弾という特殊な装備を使用したいと。

 うん、よくわからない。

 ただ、私が拘束炎上弾というものをクラウピアから持ってくることは確定らしく、私がマーシャルワンと一緒にクラウピアへと行くことになった。

 そこまで大がかりな装備なんだ。

 クラウピアに着くとドクターワンの研究室まで直行だ。


『お邪魔しますよ、ドクターワン』


『なんじゃ、マーシャルワンか。ドクタースリーと一緒にエッセンスという街へ行っていたのでは?』


『ちょっと訳ありでして。拘束炎上弾を使いたいのですが用意してもらえますか?』


『む。拘束炎上弾か……』


 ドクターワンが口ごもってしまう。

 なにか問題でもあるんだろうか?


『どうしたのですか、ドクターワン。まさか、拘束炎上弾が使えないわけではないですよね?』


『いや、使える。だが、なにを相手にする?』


『今回のターゲットは氷壁竜が1匹です。それがなにか?』


『氷壁竜か……少々荷が重いかもしれぬな』


 ドクターワンの歯切れがすごく悪い。

 拘束炎上弾ってそんなに出来の悪い兵器なのだろうか?


『まあ、ここで議論するより実物を見せた方が早いじゃろ。こっちに来るといい』


 ドクターワンの案内で、私たちは兵器実験場まで案内された。

 そこで拘束炎上弾の効果を見せてくれるらしい。

 ただ、ドクターワンの自信のなさは気になるんだよね。

 なにがそんなに問題なんだろう?


『いくぞ。実験を開始せよ』


『実験開始、了解。拘束炎上弾、発射!』


 かけ声とともに、かえしの付いた矢が発射され標的に刺さる。

 そして、矢に繋がった鎖から先端の矢までどんどん赤くなっていき、矢の刺さった部分を焦がし始める。

 なるほど、これが拘束炎上弾か。


『ドクターワン、なにが問題なのでしょう?』


『もうしばらく見ておれ。……そろそろじゃ』


『そろそろ? ……矢の部分に火が!?』


『やはり失敗じゃな』


 突き刺さった矢の部分から火の手が上がり、やがて矢が抜け落ちてしまった。

 これが拘束炎上弾の欠点らしい。


『現状、拘束炎上弾を当てると、いずれは炎上弾そのもの熱で矢が抜け落ちてしまうのじゃ。それ故に拘束時間もそれほど長くはない。氷壁竜が相手となるとその拘束時間はさらに短くなる』


「どうしてでしょう、ドクターワン」


『ルリの嬢ちゃんは知らぬのか。氷壁竜は体を何層もの氷の壁で覆い隠した竜じゃ。氷は熱に弱いし、氷壁竜が本気で守ろうとするのも内部の第一層目の氷壁ぐらい。その前の氷壁にしか刺さらない拘束炎上弾では長時間の拘束が望めないのじゃ』


 つまり拘束炎上弾を受けた氷の層は、切り離してしまえばなんの問題もないと。

 これって一朝一夕には解決できないよね?

 どうすればいいんだろう?

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