48. 追跡調査終了

 追跡調査に出ていた機械兵たちは3日後に戻ってきた。

 相当遠くまで行っていたようだ。

 さて、一体なにがいたんだろう?


『ご苦労。なにがいたのかわかったか?』


『はい、マーシャルワン。ここから岩山の奥深くまで進んだところに蛇竜の生息地がありました。蛇竜は視覚や聴覚以外にも様々な方法でこちらを捉えてくるので、どの程度の数が生息しているかはわかりませんが、放棄されていないのは確かです』


 蛇竜、要するにでっかい蛇である。

 姿まで確認してくることができなかったらしいが、おそらく頭だけでも3メートルクラスの大物だろうと推測されている。

 それだけ大きな存在がいるらしいのだ。

 ちょっと怖い。


『我々の装備で殲滅できそうか?』


『不可能ではないですが、事前にほかの生態系も確認すべきでしょう。蛇竜は蛇が巨大化した種族とはいえ『竜』の名がつく存在です。それが、一カ所に固まりコロニーを築いているのにはわけがあるでしょう』


『なるほど、一理ある。わかった、次は蛇竜の生態調査だ。ドクタースリー、お前も調査隊に同行するように』


『了解した。しっかし、巨人族まで滅ぼそうとした理由ってなんだろうな?』


『ルリ様。申し訳ありませんが、クラウピアからもう数体の機械兵を連れて来ていただけますでしょうか?』


「わかりました」


 私が次に連れてくることになったのは、観測兵という隠密行動や計器の類いが優れている機械兵と、討伐兵というその名前の通り外敵を排除するための機械兵だ。

 どうやら、戦闘になることも想定しているみたいである。

 ちょっと物騒になってきたかな。


 クラウピアから来た増援が戦闘用の機械兵を含みだしたことにより、この遺跡の安全性はまだ担保されていないとされ、考古学ギルドは一旦撤収することとなった。

 私もその撤収作業を手伝い、エッセンスの街と遺跡の間を何回か往復する。

 その間にクラウピアの機械兵たちは蛇竜の生態について調査結果をまとめてくれていた。


『ルリ、蛇竜のことだが聞いていくか?』


「うん。教えてくれるなら。よろしく、ドクタースリー」


『わかった。まず、今回の蛇竜だが、大きさだけでいえばかなりの大物だ。クラウピアの記録にもこれだけの大きな蛇竜はほとんど記録に残っていない。それが数十匹の群れでいるんだからちょっとした驚異だわな』


 数十匹……それって驚異とかそういうレベルじゃないんじゃない?

 早めに排除しないとエッセンスの街が襲われるんじゃ?


『でだ、その蛇竜がそんなに群れていてあまり遠くまで活動していない理由だが、どうにもその地には蛇竜を餌にする別の竜が棲み着いているらしい。そいつらは蛇竜の這いずる音に敏感で、音がすると地中から飛び出して蛇竜を仕留め穴の中に引きずり込むんだ。なかなか爽快だったぜ』


「いや、そんな大きな存在を引きずり込むとか危険すぎてしょうがないでしょ。蛇竜を餌にしていた存在の正体はわかったの?」


『そっちも大体の見当はついた。地中を生息地とする地竜の類いだ。そいつらが蛇竜を取り囲んでいて一定の範囲から逃げられなくし、餌場にしているってのが俺の見立てだ』


『竜』と名前のつく相手同士の食物連鎖か、ちょっと壮大すぎてついていけないかな。

 でも、それなら、この遺跡やエッセンスの街は安全なんだろうか?

 それをドクタースリーに聞くと、首を横に振ってから渋い口調で話し始める。


『確かにこいつら自体はそう脅威にはならない。蛇竜は逃げ場を封じられているし、地竜は餌場を確保し餌も豊富だ。少なくとも蛇竜がいなくなるまでは地竜が移動することはないだろう』


「じゃあ、安全なんじゃない?」


『そう結論を急ぐな。確かに、蛇竜と地竜の関係性が崩れない限りエッセンスの街は安全だ。そして、この関係性は俺が調べた限りだと千年以上は続いている。地竜も食べ過ぎはしないし、蛇竜も種族を絶やすことを諦めてはいないようだ。だがな、この関係性は外的要因によって簡単に崩れ去るものなんだ』


「外的要因?」


『その周囲を調査した結果、まだ真新しいものだが飛竜の巣を発見した。蛇竜と地竜の間に飛竜が割り込めば二者の関係性は崩壊する。いまはまだ最悪の事態になっていないようだが、時間の問題だろう』


「それってかなりまずい問題なんじゃない?」


『まずいな。それで、飛竜の狩猟および巣の破壊の許可を得るため、マーシャルワンがエッセンスの街に行っている。俺たちの国じゃない以上、勝手に竜退治ともいかないからな。エッセンス伯爵は聡明な方に見えたし、すぐに許可が下りるだろ』


 飛竜の巣か……とんでもないものが出てきたな。

 エッセンス伯爵は確かに賢い人に思えたし、すぐ判断してくださるだろう。

 その前になにも起きなきゃいいんだけど。

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