39. 山の中にあった遺跡は

 クラウピアに行って事情を説明した結果、坑道整備用の機械兵を貸してくれることになった。

 穴を掘ると同時にトンネルの周囲を固めてくれる、すごい機械兵だ。

 もっとも、クラウピアが機能を停止したあとは機能チェック程度にしか動かしていなかったそうなので、実際に使うのはこれが久しぶりとなるらしい。

 機械兵だし大丈夫でしょう。


『ルリ様。この山を掘ればいいのですか?』


「はい。大丈夫ですか?」


『可能です。ただ、どの程度の傾斜をつけて掘ればよいか指示してもらわないと難しいです』


 ああ、傾斜か。

 私は深く考えないでいたけど、まっすぐ掘ったらどの辺に出るのかさっぱりわからないものね。

 リザーブはそこのところわかるかな?


『そうですね。まっすぐ掘っていただいてもあまり急斜面にならないので、まっすぐ掘っていただいても大丈夫でしょう。ああ、でも、傾斜などはどう伝えればいいか』


『リザーブはクラウピアで改修を受けていましたよね? 私たちにデータを送るための機能が備わっているのでは?』


『データを送るための機能……あった、これですね。いまから送信いたします』


 知らない間にリザーブが改造されていたってこと?

 もうちょっと詳しく話を聞くと、細かい情報を伝えるための専用同期チャンネルをリザーブにも持たせてあったらしい。

 これがあれば、機械兵との細かいやりとりが可能になるからだそうだ。

 使わなければそれでよい機能なので、とりあえずつけておいたらしい。

 本当にいつの間に。


『データ受信完了。確かにこれなら直線で掘っても問題ないでしょう。ただ、念のためカーブさせての道を掘ります』


「そうなんですか?」


『魔導車で行き来することを想定するなら、勢いが付きそうな直線状の通路は避けるべきでしょう。道の中を明るく照らし、対向車が来ても事前にわかるほどの緩やかなカーブでしたら事故も少ないと考えます』


「ええと、よくわかりませんが、それでお願いします」


『はい、まかされました。工事には3日ほどかかりますが、ルリ様たちはどうしますか?』


 3日か、街に帰るにも中途半端な時間だよね。

 ひとまずここに残るか。

 キャンプキットや保存食はあるし。


『わかりました。夜はなるべく騒音を出さないようにいたしましょう』


「それってできるんですか?」


『不可能ではありません。ルリ様は難しいことを考えず、ごゆっくり完成をお待ちください』


 うーん、お言葉に甘えてよいものか。

 ただ、なにをやるにも道具が少なく、森の中に入るには装備が貧弱ということで、本当にトンネル完成まで数日間ここでキャンプを張るだけとなってしまった。

 農民だったから小動物を捕まえて皮を剥ぐくらいはできるんだけど、なにが出てくるかわからない森にはいるのは怖いからね。

 安全策をとらせてもらった。


「これが完成したトンネルですか?」


『はい。片側一車線、ただし大型車両でも通れる道となっております。トンネルの曲がり方はかなり緩やかにしましたので、トラックのような大きな貨物車を引く魔導車でも通れるでしょう』


「なるほど。トンネルもきれいに整備されていますね」


『掘り進むと同時に落盤防止の工法を行いました。よほど大きな地震でもない限り崩れ落ちることはありません』


「そ、そうですか。そういえば、抜けた先にはなにがありましたか?」


『わかりやすくいえば、街でしょうか。上方を球面状にくりぬかれた空間に、古い建築物が並んでいます。ただ、街の中央には異様なエネルギーを放つ建物が建てられており、そこは注意する方がいいかもしれません』


「なるほど。わかりました、ありがとうございます」


『いえ。私たちはもうしばらくこの地に滞在しますので、なにか困ったことがありましたらお申し付けください』


 山の内部をくりぬいて造られた都市か、ちょっとロマンを感じるね。

 でも、どうしてそんな場所に街を造ったんだろう?

 どう考えても陽の光が届かないし、不便だと思うんだけど。

 調査してみればなにかわかるか。

 詳しい調査は考古学ギルドに任せるとして、私は考古学ギルドに証拠として持っていくためのサンプルを少し持って帰ろう。

 さて、なにが残されているかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る