37. エッセンスの街東部の調査依頼

 無事に研究員と機材を北東部の遺跡まで運んだ私を待っていた次の仕事は新しい地域の調査研究だという。

 考古学ギルドのギルドマスターが説明に来てくれているらしいので、詳しく話を聞いてみよう。


「えっ? 街の東部地域は発掘が進んでいないんですか?」


「はい。不思議に思われるかもしれませんが、道が整備されておらず、大型の車では通れません。また、車高の高い車も木々の枝に遮られて思うように進めないのです」


「それだけで発掘調査が遅れていると?」


「もちろんそれだけではありません。いま、この街の周辺には3つの遺跡があります。先日ルリさんに行っていただいた北東部、もっとも盛んに調査が行われている南西部、そのほかに西部にも遺跡がございます」


 知らなかった、そんなに遺跡があったんだ。

 もっと詳しく話を聞いてみると、エッセンスの街自体が遺跡の中心部に造られた都市の可能性があるそうだ。


「エッセンスの街の歴史は浅く、ここ50年ほどで発展した都市です。しかし、この周囲を取り囲むように遺跡が発見されていることから、エッセンスの街を含めたこの周囲一帯が古代文明の都市ではないかと研究されているのです」


 なんだか壮大な話になってきた。

 ただ、年代の特定はいまだにできておらず、今回北東部の遺跡で見つかった壁画が鍵になるかもしれないと期待しているようだ。


 そして、今回の東部地域発掘調査はそれを受けての依頼になる。

 要するに、未開拓のエリアにもっと遺跡があるんじゃないのかということだ。


「正直、私も北東部の遺跡が重要な意味合いを持つとは考えていませんでした。ですが、北東の遺跡から壁画が発見されたことを踏まえ、未調査領域である街東部も調べることにしたのです」


 なるほど、話は理解した。

 エクスプローラーズギルドとしても今回の依頼は受けてほしいみたいなので、依頼を受領することにする。

 今回の詳しい依頼内容は、東部地域への進出手段の確保、つまりどんなルートを通れば東部地域にたどり着くかについても調査することになった。

 大型車両が通れる道を見つければ追加報酬を出すと言っているけど、さすがにそれは無理だとお互い諦めている。

 そんな道があるなら放置されているはずがない。


 今回の依頼についてはルート確保を最優先とするため同乗者は連れて行かないことになった。

 代わりに、東部地域での調査もリザーブができる範囲の内容でいいそうなので難しい事はしないで済みそうだ。

 私に考古学の知識はないからね。

 ちょっと前までただの農民だったわけだし、そこは諦めてもらおう。


「それにしても、ルートの確保かぁ。どうすればいいんだろう?」


『森の中を進むようですので、エアドローンによる上空からの偵察も難しそうです。通れる道を確保しなければいけないため、『幻獣の抜け道』も使えません。正直、難しいですね』


 うーん、やっぱりリザーブでも難しいのか。

 どうしたものか。


 ワイルドアンクレットの運転席で悩みこんでいると、窓が控えめにノックされた。

 誰か来たのかなと思いそちらを向くと、ドクタースリーがいる。

 あれ、研究機関にいるんじゃなかったっけ?


『よう、ルリ。しけた顔してどうしたんだ?』


「ああ、うん。森の中を走らなくちゃいけないんだけど、決まった道がないところを進んでルートを開拓しなくちゃいけないからどうしたものかなって」


『ふーん。手当たり次第に試すんじゃだめか?』


「やっぱりそれしかないかな?」


『そうだな……よし、ワイルドアンクレットを少し改造させろ。いい物を取り付けてやる』


「いい物?」


『『透過測定機』だ。本来なら閉じられた箱の中身なんかを開けずに調べる装置なんだが、森の中を走るなら木をすり抜けていけるかどうかの目安になるだろう』


「そんな技術を開発したの?」


『いや、クラウピアの技術だ。最近じゃ壁の内側が脆くなっていないかを調べるとかにしか使っていなかったし、ルリ相手なら問題ないだろ』


「いや、マーシャルワンには許可を取ってきてよね?」


『そうする。……いいってさ。一度クラウピアに行くぞ』


 ドクタースリーもマーシャルワンも私を信用しすぎじゃないかな?

 それとも悪用するには難しい技術だから気にしていないとか?

 いや、悪人の手に渡れば空き巣被害が増える気がする。

 この機能については内緒にしておこう。

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