32. 伯爵との会談

「しばらくぶりだな、モルターズ。なにやら面白いことになっているようだが」


「はい。伯爵様もお元気そうで」


「体が資本だからな。前置きはこのくらいにしておこう。そちらの娘がルリか?」


「は、はい。ヴェルドリアの孫、ルリでございます」


「カーライルからも連絡が来ていたが、ヴェルドリア兄上の孫か。私の孫は皆、男ばかりだ。兄上とメノウ様の面影のある孫娘というのは、なにやら情に感じるものがある」


 そんなに私ってお爺ちゃんやお婆ちゃんに似ているんだろうか?

 エッセンス伯爵が言っているんだから間違いないだろうけど、私自身ではわからないものだね。


「本来であればゆっくりとメノウ様や兄上の話を聞きたかったのだが、予定が変わってしまってな。それはまた、後日にしよう。モルターズ、例の空中都市とやらの報告書は見た。到底信じられぬが、お前が作ってきた資料と証拠となる映像を組み合わせれば疑う余地がないな」


「ありがとうございます。私もあんな都市があるなんて驚きでした」


「岩山に囲まれ、それを乗り越えたとしてもはるか山の上にあるため、歩いてはたどり着けない土地か。なにやらロマンを感じるな」


「伯爵様もそういうのが好きですね」


「もちろんだ。それで、そちらのロボット2体が報告書にあった機会兵かね?」


「はい。ルリの隣りにいるのがマーシャルワン、空中都市クラウピアの機械兵をまとめ上げる司令官です。その隣りにいるのはドクタースリー、研究者といったところでしょうか」


「なるほど。では、改めて自己紹介をしよう。私がこの周囲の領地を治めるエッセンス伯爵だ」


『お初にお目にかかります、エッセンス伯爵。私はマーシャルワン。モルターズ様の説明にあったとおり、クラウピアの全機械兵を指揮する立場にあります。以後、お見知りおきを』


『俺はドクタースリーだ。クラウピアからヒト族がいなくなったあとに作られた機械兵なんで、ヒト族との距離感ってのはいまいちわからない。無礼があっても多少は見逃してくれ』


 ドクタースリーは相変わらずマイペースだ。

 でも、エッセンス伯爵はそんなドクタースリーを気にした様子もなく、静かにふたりを見ている。

 機械兵だからあまり動じることはないだろうけど、それなりに圧力をかけてきているね。

 隣りにいる私はちょっと怖い。


「ふむ、やはりこの程度では動じないか」


『私もいろいろと経験してきましたから。そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?』


「そうだな。私も昼前に片付けなければいけなかった仕事がいまだに終わっていない。私のところに来るのが遅れたせいではあるが、今日中に片付けなければいけない書類も含まれている。建設的な話を進めようじゃないか」


『では。私の要求ですが、最終的には『クラウピアの独立』となります。私たちがクラウピアに招かない限り、いまのヒト族ではクラウピアに到達できない以上、そう難しくもない話だと考えますがいかがでしょう?』


「なるほど。確かに、私にも難しい考えではないと感じる。だが、国のお歴々たちがどう考えるかは別問題だ。手が出せない位置にあるとはいえクラウピアは我が国の国土に存在する場所、そう易々と手放すとは考えにくい」


 やっぱりそんな簡単な話じゃないか。

 だけど、マーシャルワンは『最終的』って言ってたよね。

 前段階があるということなんだろうか?


「最終的に独立を目指すにしても、おそらくなんらかの対価を要求してくるだろう。特に内務卿の欲深さは貴族の間でも有名だからな」


『対価ですか。では、私たちの技術を一部提供しましょう。ドクタースリーがうずうずしていてしょうがないのですが、この国にある魔導技術を進化させる手段を私たちは持っています。それを対価としてお支払いするのはいかがでしょうか?』


「技術支援という訳か。私はそれでいいと感じるが、あの強突く張りの内務卿がどうでるかだな」


『なるほど、それほどまでに欲深いのですね。あまり欲深くては身を滅ぼすこともありえるというのに、浅はかな』


「愚かだとは私も思う。だが、一派閥を率いる長としては弱気に出られないということだろう」


『わかりました。私たちも長期戦を視野に入れて活動するといたしましょう。第一歩としてエッセンス伯爵様と手を結びたいのですが、構いませんか?』


「それは歓迎する。これからよろしく頼むぞ」


『こちらこそ。お互い、有意義な関係になりたいものです』


「まったくだ」


 とりあえず、エッセンス伯爵様とは手を取り合えたみたい。

 でも、貴族の世界ってやっぱり住みにくそうだなぁ。

 私はあまり関わらないいでおこう。

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