31. エッセンス伯爵
面会の予定日は10日後と決まり、それまではモルターズさんが紹介してくれた宿で過ごすことになった。
宿泊代もエクスプローラーズギルド持ちだ。
要するに、勝手にどこかへ行かれないための策でもあるんだけど、私たちには都合がいいから気にしない。
服も私の持っている服で一番きれいなものを使えばいいという話になったため、新しく用意する必要はない。
結果、この10日間はなにもすることがなく、宿で過ごすこととなった。
面会日当日、朝からエクスプローラーズギルドに呼び出されたため、荷物をまとめて宿をチェックアウトし、エクスプローラーズギルドに向かう。
エクスプローラーズギルドでは、そのままモルターズさんの元へ案内されたので服装も問題ないということだろう。
一応確認はされていたけど、着ているところは見せてなかったしね。
「失礼します」
「来たか、ルリ。マーシャルワンとドクタースリーも一緒なようでなによりだ」
『ええ。私たちもいないと話にならないでしょう?』
『俺としては研究機関に入り浸りたかったんだけどなぁ。マーシャルワンに止められてそれも出来なかったんだよ』
『当然です。軽々しく技術を見たり教えたりしないでください』
『へいへい』
うーん、マーシャルワンもドクタースリーの扱いには困っているようだ。
ドクタースリーは自由なところがあるから、規律を守らなくちゃいけないマーシャルワンは大変そうだ。
「とりあえず、俺たちが戻ってきてからは大人しくしてくれていたようでなによりだ。エッセンス伯爵の許可が下りれば、正式に研究機関で技術を学べるようになるぞ」
『本当か!? モルターズ!』
「ああ。この領地の責任者だからな」
モルターズさんの話を聞き、ドクタースリーは子供のようにウキウキし始める。
いや、そこまでなんだ……。
「さて、面会は午後からだが話す内容を決めておきたい。まずはルリの紹介からだな」
「私の、ですか?」
私の紹介ってなにをするんだろう?
そう考えていたら、エッセンス伯爵からどんな人物かの調査依頼が来ていたそうだ。
それについてはもう返答を出しているらしい。
「エッセンス伯爵からすれば、姪にあたる存在だからな。どんな人物かは確認しておきたいそうだ」
「どんな人物かと言われましても、私はただの村娘ですよ? ただ、お婆ちゃんの魔導車を引き継いだという点だけが変わっているだけで」
「ああ、俺もそう報告した。だが、エッセンス伯爵は念のためご自分でも確認したいそうだ」
なるほど、念のためね。
私にエッセンス伯爵家への執着心があるかないか確認したいのだろう。
私はお貴族様の堅苦しい生活なんてやってられないから、できるだけかかわりたくない。
「そのあとでクラウピアの説明だな。先だって行われた調査の結果は報告済みだが、これも現場で指揮を執った俺の説明を受けたいそうだ。それから、最初に発見したルリとクラウピアを守護する機械兵の指導者であるマーシャルワンの説明もな」
「私に説明できることはほとんどないですが……がんばってみます」
『私にできることならなんでもいたしましょう。よほど無茶な要求でなければ考えさせていただきます』
「よろしく頼む。……まあ、主な内容はこれくらいだ。だが、どれくらいの間話すことになるかは少々わからない。面会指定時刻も午後になってすぐだからな」
そんな早くから面会か、緊張しちゃうな。
だけど私は私の知っていることを話せばいいんだ、しっかりしよう。
私たちは早めの昼食を取り、エクスプローラーズギルドの馬車に乗ってエッセンス伯爵の屋敷へと向かう。
この街のお屋敷はエレメントの街にあったお屋敷よりもはるかに立派で気品のあるたたずまいだ。
いや、領主一家が暮らしている以上、当たり前か。
私たちは応接間に通され、しばらく待たされることとなった。
どうにもエッセンス伯爵が午前中に終わらせなければいけない仕事を、午前中に終わらせ切れなかったらしい。
エッセンス伯爵はそんなずぼらな人ではないらしいので、仕事の方が遅れてきたのだろう、というのがモルターズさんの読みである。
お爺ちゃんも時間には律儀だったし、家系的にそうなのかな。
やがて、1時間くらい待たされたあと、ようやくエッセンス伯爵の用意ができたようだ。
家宰を伴って部屋に入ってきたエッセンス伯爵にはお爺ちゃんの面影が確かにあった。
お爺ちゃんは畑仕事などで年齢よりも老けて見えるが、エッセンス伯爵は聞いていた歳よりも若く見える。
お爺ちゃんも若いときはこんな感じだったのかな。
ちょっと不謹慎かもしれないけど、親近感が湧いてきちゃった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます