30. エッセンス伯爵との面会に向けて

 クラウピアの独立問題に関しては一時棚上げとなった。

 いろいろな思惑が絡んでくる以上、すぐに結論を出せないからだ。

 そのため、まずはできるところからやっていくことなる。

 つまり、この地の領主、エッセンス伯爵との面会だ。


「ルリはエッセンス伯爵の身内だったな」


「一応はそうなるらしいです。ただ、お爺ちゃんがお婆ちゃんと駆け落ちしたらしいので、私との関係もどう受け取られるか……」


「なるほど。まあ、悪くは取られないだろうさ。なにかあるなら、街に着いた時点でもっと圧力がかかる」


「だといいんですけど」


「そう心配するな。当代のエッセンス伯爵は物わかりがいい方だ。先代は……ちょっと貴族主義的な考えが強かったらしいが」


 それでお婆ちゃんとの結婚が認められなかったんだ。

 お婆ちゃんは平民だったらしいから、貴族とのいざこざもあったのかもしれない。

 貴族と平民が結ばれるのって大変そう。


「それで、面会だが、これから使者をだして面会日時を決めていただく。すまないが面会日が決まり、面会を終えるまでルリとマーシャルワンはこの街を出ないでくれ」


「わかりました。気を付けます」


『承知いたしました。いまの流儀がそうなのであれば従いましょう』


「本当に手間をかけさせるな。代わりに宿は俺が紹介しよう。ところで、もうひとりいた機械兵はどこに行ったんだ?」


『ドクタースリーですね。私もそれが気になっています』


「勝手に街の外へは出ていないと思うんだが……ギルドの職員なら知っているか」


 私たちは姿の見えないドクタースリーを探してギルド職員に居場所を尋ねた。

 すると、いまはエッセンスの研究機関に行っているらしい。

 エクスプローラーズギルドに苦情は入っていないので問題は起こしていないようだけど、なにをしているかわからないのは不安である。

 すぐに様子を見にいこう。


 モルターズさんも同行することになり、一路ドクタースリーがいるという研究機関へと車を走らせる。

 研究機関で話を聞くと、魔導機関の研究室に入り浸っているそうだ。

 でも、なんでそんな場所に?


『ドクターシリーズの悪い癖が出ていますね。未知の性質があると調べたくてしょうがないのですよ』


「そうなんですか? でも、クラウピアの技術に比べたらいまの技術なんてたいしたことないんじゃ?」


『クラウピアには魔導技術なんてありませんでしたからね。クラウピアにある技術はまったく別の動力や機構を持って稼働しています。現代の魔導技術が知りたくて仕方がなかったんでしょう。ただ、そうなると気がかりなことも』


「気がかりなこと?」


『魔導技術をクラウピアの技術で勝手に発展してしまったり、クラウピアの技術を勝手に教えたりしていないかです。ドクターシリーズはそのあたりの歯止めが効かない』


 それってかなり問題なのでは?

 ともかく、ドクタースリーに早く会いに行こう。


『ん? マーシャルワンにルリか。クラウピアから戻ったんだな』


『ええ、先ほど戻りました。ドクタースリーはここでなにをしているのですか?』


『なに、魔導技術っていうのを教えてもらっていたんだ。これはかなり面白いな。俺たちは永久機関を作りあげて動かしているから気にしていなかったが、魔力を一定の出力に変換することなんてクラウピアでもできなかったんじゃないか?』


『……なるほど。私もクラウピアの歴史をすべて知っているわけではありませんが、魔力を取り込み続ける機関というのは作られていなかったはずです。クラウピアが高山にあり、魔力を発する存在が少なかったのも原因のひとつではあるでしょうが、確かにクラウピアにはなかった技術ですね』


『そうだろう、そうだろう。知れば知るほど面白い! なあ、マーシャルワン。俺の技術で魔導技術の発展型を開発しちゃだめか?』


『だめに決まっているでしょう。今の時代の技術は今の時代の人の手によって作られたものです。過去の存在である私たちが、軽々しく手を貸してもろくなことになりません。それに』


『それに?』


『いまの時点でクラウピアに魔導技術の発展型を持ち帰っても意味がないでしょう? 技術協力というものは、互いに得があるときこそするものです』


『マーシャルワンはつれないねぇ』


 ドクタースリーの気持ちはわかるけど、さすがに手を加えるのはやりすぎなんじゃないかな。

 私も技術発展はしてほしいと思うけど、無理矢理発展させた技術って危ないと思う。

 お婆ちゃんの魔導車を修理するときも、無理をしたらショートして本当に壊れそうになったことがあるもの。

 何事もほどほどが一番だね。

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