第四章 エッセンスの街

26. エッセンスの街に到着

 リザーブのナビ通りに走り、2日後の昼過ぎにエッセンスの街へと到着した。

 ただ、大きな街だけあって門の前には列ができている。

 待たなくちゃだめか。


『ふむ。いまの人の街はこうなっているのですね』


「大きな街はこうなっているみたいです。マーシャルワン、申し訳ありませんがしばらく待ちましょう」


『そうですね。我々が姿を現せば大騒ぎになることは間違いありませんが、順番を譲ってもらうほどのことでもないでしょう』


 ああ、やっぱり大騒ぎになっちゃうのか。

 それはなっちゃうよね

 仕方がない、覚悟を決めよう。


 列はのろのろと進んでいき、ようやく私の番が来たと思ったら、やっぱり詰め所に連れて行かれた。

 私の身分証はあるけど、マーシャルワンとドクタースリーは身分証もない上に機械だからね。

 怪しまれても当然だ。


『だから、説明しているでしょう? 私たちは雲の上にある空中都市クラウピアから来た機械兵であると』


「それは何度も聞いた。そんなところ、聞いたこともないし、そこからなぜやってきたんだ?」


『聞いたことがないのは、交流を持つ手段がなかったため。やってきた理由は、ルリ様が私たちの街を見つけたのでヒト族との交流を復活させようとしたからです』


「だから、それが怪しいんだ。そっちの嬢ちゃん、エクスプローラーズギルドの所属らしいがなんだってそんな街まで行った?」


「はい。『幻獣の抜け道』を通って岩山の山頂にたどり着いたらクラウピアがありました」


「『幻獣の抜け道』ねぇ。そのカーバンクルが使っているんだろうが、そんな便利なものなのか?」


「便利というか、どこに出るかはおおよそしかわからないので、偶然変な場所に出ることもある感じです」


 何度も同じ説明を繰り返しているけど、話が先に進まない。

 信じてもらえているかもあいまいだし、そもそも私たちが怪しすぎるからどうにもならないんだよね。

 はぁ、どうしたものか。


 私たちが問答を続けていると、部屋のドアがノックされ、ひとりの男の人が入ってきた。

 背が高く体格も引き締まっている40歳くらいの男性である。


「すまない。エクスプローラーズギルドの者が詰め所で止められていると聞いてやってきたんだが」


「ああ、モルターズさんか。そっちの嬢ちゃんがエクスプローラーズギルドの人間だ。ただ、怪しいロボットを連れてきていて簡単には街中に入れられなくてな」


「そうか。俺の権限で引き取ってもいいか?」


「あんたの? まあ、構わないが、なにか起こったらあんただけじゃなくエクスプローラーズギルド全体の責任となるぞ」


「わかっている。このお嬢さんについては、それだけ信頼しているってことさ」


「そう言うならいいが……」


「よし、話は決まりだな。お嬢さん、それにロボット君2名。エクスプローラーズギルドに移動しよう」


 モルターズというおそらくエクスプローラーズギルドの関係者によって話がまとまってしまった。

 この人何者だろう?


 ともかく、私たちはモルターズさんの運転する魔導車のあとに付いていき、エッセンスの街のエクスプローラーズギルドへとやってきた。

 モルターズさんは受付で一言あいさつをすると、私たちを連れどんどん奥へと進んでいく。

 たどり着いた先はエクスプローラーズギルドのギルドマスタールームだった。


「ようこそ、俺の部屋へ。茶ぐらいなら出すからくつろいでいってくれ」


「モルターズさん、ギルドマスターだったんですか!?」


「ああ、そういえば言ってなかったな。すまん」


「い、いえ。こちらこそ、連れてきていただきありがとうございます」


「気にすんな。ソファーにでも座ってろ」


 モルターズさんに勧められるままソファーに座り、対面に書類を持ったモルターズさんがどかっと腰を下ろす。

 少し遅れて事務員が私たちにお茶を運んできた。

 ええと、なにをすればいいんだろう?


「まずは、ようこそエッセンスエクスプローラーズギルドへ。俺がギルドマスターのモルターズだ。メノウ様の孫のルリさんであってるよな?」


「はい。メノウお婆ちゃんの孫のルリです」


「よし。いろいろと聞きたいことはあるが、先にこちらから説明することがある。エレメントの街でルリさんを襲った誘拐未遂犯だが、衛兵に捕まり罪を認めた。彼らは実行犯であり、彼らを雇ったのはルリさんが以前暮らしていた村の村長だ」


 あの村長か……。

 お爺ちゃんも不正をしている疑いがあるって言っていたし、後ろ暗いことをもっとしていそう。

 私の偏見かな。


「その村長は、ほかにも横領や税の未納などの罪に問われてすでに投獄済みだ。これ以上、村長から狙われる心配はない」


「村長からということは、ほかにも私を狙っている人がいるってことですか?」


「君をというより、君の魔導車をだ。ワイルドアンクレットなんて超が付くほどの高級車だからな。それをまだ世間知らずと言っていい年頃の女性が乗り回しているんだ。格好の獲物だろう」


 うーん、やっぱり私は目立っていたのか。

 お婆ちゃんの形見だから手放したくはないし、どうしたものかな。


「それでだ。ヴェルドリア様から手紙を預かっているだろう? それを渡してもらえるか?」


「あっ、そうでした。……どうぞ」


「ああ。……ふむ、電信で伝えてきたことと同じだな。一緒に渡された金貨は持っているか?」


「白金貨4枚ですよね。それも持ってます」


「よし。それではこれと交換だ」


 モルターズさんは一度席を立ち、金庫の中から腕輪をひとつ取り出してきた。

 これが白金貨4枚の使い道なんだろうか?


「こいつは幻獣ユニコーンの角で作られた腕輪だ。あらゆる毒や魅了、洗脳などを無効化する力がある」


「そんなすごいものなんですか!?」


「そうだ。だからこそ、白金貨4枚ほどの値段がするんだ」


 な、なるほど。

 これを持っていれば、私が直接だまされてワイルドアンクレットを手放さない限り、所有権を無理矢理移すことはできなくなるだろうということだ。

 それに、毒などが無効化されれば麻痺毒も睡眠毒も効かなくなるので、この前みたいに意識を奪われることもない。

 とにかく、そういった危険からは身を守れることになる。

 お爺ちゃん、これを手配してくれてたんだ。


「こっちの書類はこれの販売と譲渡に関する契約書だ。何分、幻獣の角なんていう超高級品を使っているから管理も厳しくてな。ほら、腕輪の裏に刻印があるだろう? それがシリアルナンバーだ」


 モルターズさんが示してくれた場所には、確かに文字の羅列があった。

 これがないと違法な品か偽物になるらしい。

 正規の流通品にはすべてシリアルナンバーが刻印されるそうだ。


 もちろん、そういう厳格な管理のされている品だけあって売買にも厳しい制限がかかっている。

 今回はお爺ちゃんの紹介だからこそ手に入ったのであり、普通は手に入らないみたい。

 お爺ちゃんには最後まで面倒を見てもらってるな。


 ともかく、これで私自身の身の守りはある程度できた。

 次は……クラウピアのことかな?

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