25. エッセンスの街への道中

 クラウピアから何回か『幻獣の抜け道』を通り、エッセンスの街まであと2日ほどの距離までたどり着いた。

 ここから先はエッセンスの街を通り越さないよう、普通に走っていく方がいいようだ。

 どうにも『幻獣の抜け道』って微調整ができないからね。


『ルリ様。そのエッセンスの街に行き、ルリ様はなにをなさるのでしょう?』


「私ですか? 私はエッセンスの街のエクスプローラーズギルドで働くことになると思います。いままでもそうでしたし、その方が楽しいですから」


『エクスプローラーズギルド……どのようなことをする場所なのでしょう?』


「うーん。私はまだひよっこなので荷物運びくらいしか仕事を任せてもらえませんね。仕事を何回も受けて実績を積めば、もっとほかの仕事も回してもらえるみたいです」


『ふむ。単なる荷運び人ではないと』


「元は荷運びをする人たちの集まりだったみたいですけどね。いまは、荷運び以外にも遺跡の調査とかを引き受けているみたいです」


『なるほど。よくわかりました。ありがとうございます、ルリ様』


 マーシャルワンがどういった意図で質問をしてきたのかはわからないけど、納得はしてもらえたようだ。

 ちなみに、ドクタースリーはそんな話をまったく聞いておらず、私の武器である魔導銃とアサルトライフル、それからグレネードランチャーを分解して構造を調べたり細かいところを調節したりで余念がない。

 ドクタースリーはかなりマイペースである。


『それにしても、下界はやはりモンスターが多いですね。小型種が多いので問題ないのでしょうが、それを餌にする大型種はいないのでしょうか?』


「文献によると、いるにはいるみたいですが、そのような場所には人の街を造らないそうです。そもそも、危険すぎて暮らしていけないので」


『それもそうでした。当たり前なことを聞いてしまいましたね。申し訳ありません』


 私たちがいま走っているのも森の中だけど、住み着いているのはほとんどが小型のモンスターで、ほとんど大型のモンスターはいないらしい。

 中型程度と呼ばれる2メートルほどのモンスターは住み着いているらしいけど、そういったモンスターは滅多なことでは人の街に近づかない。

 食事に困らなければ、わざわざ森の奥から出てくる理由もないのだ。

 中型モンスターでも人の手にかかればすぐに死んじゃうし。


 そんな風に特別大きなモンスターに襲われることもなく、私たちは森の奥の道を進んでいく。

 整備されていない道で小薮などがたくさんあるが、ワイルドアンクレットにはなんの問題もない。

 やっぱり、お婆ちゃんの魔導車は強いのである。


『ルリ。前方500メートルほどになにかあります』


「え、なにかってなに、リザーブ?」


『中程度の大きさの魔導車だと思われます。ただ、立ち往生しているのか動いている様子がありませんね』


「それって事故でも起こしたのかな?」


『わかりません。用心のためエアドローンを先行して飛ばすのを推奨します』


「わかった。任せるよ」


 リザーブが操縦するエアドローンは森の中を飛び、前方で立ち往生しているという魔導車の元へと飛んでいった。

 エアドローンからの映像も送られてきているんだけど、魔導車の大きさは4人乗り程度でワイルドアンクレットに比べて一回り小さい。

 ひとりが運転席に乗ったまま車を動かそうとしていて、もうひとりが車を後ろから押している。


 タイヤが空転して泥が飛び散ってるし、轍にでもはまったのかな?

 アンカーとウインチを使って抜け出した方が早いと思うんだけど。


『ルリ、どうしますか? 進路を変更なさいますか?』


「通りかかったついでだし、あの車を助けてから行こう。轍の中から引きずり出すくらいわけないよね?」


『あの程度の魔導車でしたら可能です。ですが、あの方々が盗賊である可能性も否めません。十分にご注意を』


『それでしたら、交渉は私の方で行いましょう。よろしいですか、ルリ様?』


 盗賊でないか心配するリザーブと、代わりに交渉を行ってくれるというマーシャルワン。

 申し訳ないけど、マーシャルワンに交渉を代わってもらおう。


 轍にはまっていた魔導車に近づくと、後ろから魔導車を押していた人が驚いてこちらを振り向いた。

 まあ、道ではなく森の中から魔導車が現れたら驚くよね。

 いたって普通の反応である。


 マーシャルワンの交渉はすんなりと決まり、ワイルドアンクレットのウインチであちらの魔導車を引き上げることに成功した。

 でも、どうしてこんな森の奥に魔導車がいたんだろう?


「助かったよ。君たちも奥にある遺跡に物資を届けにいくのか? それとも物資を届けてきた帰りか?」


 あちらの魔導車の運転手に話を聞いてみると、盗賊の類いではなく物資の運搬係だったそうだ。

 でも、エクスプローラーズギルドの所属ではなく、遺跡の調査を行っている調査団に直接雇われている人たちたちらしい。


「いいえ、違います。この奥に遺跡があるんですか?」


「ああ。わりと有名な遺跡なんだが、お嬢ちゃん、エッセンスの街の住人じゃないのか?」


「私たちはエレメントの街からエッセンスの街へ向かう途中なんです。エッセンスの街ってこの道をまっすぐ進めばいいんですか?」


「ああ、そうだ。それにしても、森の奥からやってくるなんてどうしてそんな道を?」


「いやぁ、ショートカットしようと思ったら、だんだん森の奥深くまで迷い込んでしまって」


 サポートシステムのある魔導車であることはばれていそうなので、普通の道を進んでいないことにした。

 うん、間違ってはいない。


「ふうん。頑丈な魔導車を使っているみたいだが、なるべく普通の道を使った方がいいぞ。細かいガタが貯まるからな」


「教えていただきありがとうございます。それでは失礼しますね」


「おう。引き上げてくれてありがとうよ」


 リザーブのマップで確認しても、この道をまっすぐ進めばエッセンスの街へ着くみたいだ。

 ちょっと遠回りになるけど、たまには普通の道を走るとしよう。


 再計算してもらった距離はおおよそ2日半、エッセンスの街ももうすぐである。

 マーシャルワンたちのこともあるし、穏便に事が運ぶといいんだけど。

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