24. クラウピア出発

 お婆ちゃんの魔導車の改造は30分ほどで終わり、私に引き渡された。

 見た目はなにも変わらないんだけど、すべてのパーツがかなり頑丈になっているらしい。

 車の構造から荒れ地を走ることが主な目的だと考えたドクターワンのサービスだ。

 うん、いろいろな場所に行けるのは嬉しいな。


『さて、これで案内できる場所は最後ですが、ルリ様はどうなさいますか?』


「そうですね。そろそろクラウピアを出発しようと思います。この土地のことはほかの人たちに知らせても構いませんか?」


『ええ、問題ありません。できれば、この地にもう一度人の国ができてほしいですね』


 人の国か、それはちょっと難しいかな。

 ここは私が住んでいる国の領土の一部だ。

 新しく国を認めるとなると、領土が減ってしまう。

 それを国が認めるかどうか。


 その懸念を率直にマーシャルワンに告げると、マーシャルワンの方から提案があった。

 自分も下界に降りてみたいと。


『いまの人の国の状況が知りたいです。友好的に動けるのでしたら友好的に。非友好的に受け取られるのでしたら、再び門を閉ざすしかありません』


「確かに。でも、いいんですか? マーシャルワンがこの国を離れて?」


『しばらくでしたらマーシャルツーに任せて大丈夫ですよ。それとは別に、技術交流を持ちかけてみるとしましょう。ドクターワン、誰か連れて行くことを許可していただけませんか?』


『そういうことなら、ドクタースリーを連れていけ。あと、その魔導車にはクラウピアへの転送装置も組み込んでおいた。門の外までしか移動できんが、また来たくなったときは来るといい』


「ありがとうございます! また、なにかの機会に来させてもらいますね」


 ドクターワンは厚意で転送装置までつけてくれていたようだ。

 なにか困ったことがあったり、故障があったりしたときはここに来てもいいらしい。

 なにもかも先史文明の技術に頼ることはよくないと思うけど、必要なときは頼らせてもらおう。


 そしてしばらくすると、奥からドクターワンそっくりな機械兵がやってきた。

 彼がドクタースリーらしい。

 系列で似たような作りなんだろうか?


『はじめまして、お嬢さん。僕がドクタースリーです』


「はじめまして、ルリです。あなたが一緒に来てくれるんですよね?」


『はい。そういう命令ですし、僕が生まれた頃にはヒト族がもういなかったんですよ。そういう意味でも楽しみにしています』


 そっか、人がこの街を去ったあとに作られた機械兵だったんだ。

 マーシャルワンによると、必要に応じて機械兵はあとから増産されることもあったらしい。

 ドクターシリーズはドクターワンしかいなかったため、人が去ったあとにドクターファイブまで作られたのだとか。

 結構いろいろな面で歴史がある街だ。


『僕が持っていきたい荷物もあるんですが、ルリさんの車に載せればいいですかね?』


「はい。私の車の荷台に載せちゃってください」


『わかりました。それにしても、外の世界か。どんな風になっているんだろうなぁ』


 ドクタースリーは外の世界を知らないんだよね。

 下界の様子を見てどんな感想を抱いてくれるのかちょっと楽しみ。


 ドクタースリーの荷物は、あとから出てきた機械によってどんどん積み込まれていき、ワイルドアンクレットの荷台が満杯になるくらい載せることになった。

 いや、あふれなくてよかったよ。


『ドクタースリー、これほど持っていく必要があるのか?』


『嫌だなぁ、マーシャルワン。知らない土地に行く以上、行き着いた先で簡易ラボを開ける程度には持っていかないと』


『まったく、これだからドクターシリーズは。申し訳ありません、ルリ様。よろしくお願いします』


「いえ。過積載になっていないようですので大丈夫です。それで、そろそろ出発しても大丈夫ですか?」


『私の方は準備ができています。ドクタースリーはどうだ?』


『僕も準備できたよ。いざ、未知の世界へ!』


 どうやら、ドクタースリーも準備ができたみたい。

 それじゃ、ふたりにもワイルドアンクレットに乗ってもらい、チャオに頼んで『幻獣の抜け道』から次の場所に出発だ。


 さて、今度はどこに出るかな?

 もう逃げ回る必要はなさそうだからエッセンスの街を目指す方向に行くけどね。

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