23. クラウピアの工廠

 マーシャルワンが次に案内してくれたのは、この都市にある工廠だ。

 そこではすべての機械兵たちをメンテナンスしているらしく、現状クラウピアの中心部となっているらしい。

 マーシャルワンたちも普段はここにいるようだ。


『ここがクラウピア第一工廠です。もっとも、第二以降の工廠は使っていないためメンテナンス以外では立ち入りしていません』


「すごいですね。大きな機械があんなにたくさん」


 工廠の中には外にあった建物並みの高さを持つ機械がずらっと並んでいた。

 ただ、それらもあまり稼働していないらしく、音はしていない。

 やっぱりメインとして動いているのは、機械兵たちがメンテナンスをするための装置らしい。


 さすがにそこまでは見せてもらうほど図々しくはないし、見てもなんだかわからない気がするのでやめておいた。

 代わりに工廠中心部にあるメインラボラトリーに案内してくれるらしい。

 様々なものを設計・開発するための場所だと聞くけど、どんな場所なんだろう?

 すごくわくわくする!


 案内してもらった場所は、さっきまでの背の高い機械に囲まれた場所とは打って変わり、小型の機械が並べられている場所だった。

 小型といっても私の背丈ほどもあるものだから、先ほどと比べて小型という方が正しいのかもしれない。

 ここではなにを作っているんだろう?


『ここがメインラボラトリーです。ここではかつてこの都市の住人たちが様々な研究を行っている場所でした。住人であるヒト族が去ったあと、私たち機械兵はここを新しい道具の開発部門として使用しています』


「新しい道具? 武器とかですか?」


『私たちは新しい武器を作ることは許可されていません。クラウピアを維持するために使用される道具を研究しています。例えば、墳墓の管理や外観の偽装などのための道具です』


「外観の偽装?」


 それってどういう意味だろう?

 私たちはたまたま『幻獣の抜け道』でここに来たけど、そうでもしないとたどり着けないんだろうか?


 質問してみると、その通りだ、と答えられる。

 ちょっと不思議。


『この山は遠くからだと、普通の岩山にしか見えないのです。また、近づこうとしても方向感覚を惑わせて遠ざける力場を発生させています。この山の情報がなかったと伺いましたが、私たちの装置の効果で調査ができていなかったのではないでしょうか』


 よくわからないけど、遠くからでは近づけないことはわかった。

 リザーブに聞いてみたけど、山の上にいる状態から観測する限りではなにも感じられないらしいから、本当に遠距離からしか効果がないのだと思う。

 そんな場所に私たちがいてもいいのだろうか。


『まあ、あまり気になさらないでください。ほら、ラボラトリーの責任者が来ましたよ』


 マーシャルワンが指し示した先には、いままで出会ってきたロボットたちとは違う恰好をしたロボットが1体。

 彼はこちらを高い場所から確認すると、飛び降りてきた。


『マーシャルワン。どうしたのだ、そのヒト族と機械は』


『そう焦らずに、ドクターワン。紹介が遅れました、彼がこのラボラトリーの責任者であるドクターワンです』


『ああ、名乗るのが遅れたな。私はドクターワン。名乗るなどいつ以来だろうか』


「初めまして、ルリです。マーシャルワン、どうしてここに案内してくれたんですか?」


『いえ、ほかに案内する場所もなかったので。それに、ここならその……魔導車ですか? それのバージョンアップも果たせるはずです』


 バージョンアップ!?

 詳しく話を聞いてみると、マーシャルワンからすればワイルドアンクレットの作りはまだまだ甘いらしい。

 でも、それは改善の余地が残されているということらしく、ここでならさらに改良することができるそうだ。

 これは話に乗ってみるのがいいかも!


『その乗り物を改造か。ヒト族の乗り物をいじるなぞ久しぶりだぞ』


『それだけ長い年月、ヒト族と交流がありませんでしたからね。頼めますか、ドクターワン』


『引き受けよう。お嬢さん、その乗り物をあちらの台の上まで動かしてくれ』


 ドクターワンに指示された通り、ワイルドアンクレットを台の上まで移動する。

 そして、構造を調べるということで一度降ろされ、ドクターワンが指先から光を出し、いろいろと調べて回った。

 結果、ドクターワンから見れば全体的に傷つきやすい構造になっているらしい。

 うん、よくわからない。


『それで、この魔導車の改造じゃが、あまり今の時代の人の道具をわかりやすく改造するのもよくないじゃろう。我らの技術で外部コーティングするということにしようか』


「外部コーティングですか?」


『わかりやすくいえば、傷つきにくくするための塗料を重ね塗りするということじゃ。もちろん、塗料とは違うのじゃがな』


「うーん。それでお婆ちゃんの魔導車が壊れにくくなるのであえば、お願いしたいです」


『ふむ、なにか訳ありの道具というわけか。それはなおさら大事に扱わなければならぬのう。ヒト族は思い出の中に生きる種族じゃ』


 ドクターワンの言っている意味はわからないけど、丁寧に扱ってくれるようだ。

 塗料を塗るのはすぐに終わるということなので、別室で待たせてもらうことになった。

 お婆ちゃんの車、どんな風に変わるんだろう?

 なんだか楽しみだな。

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