21. 空中遺跡

 リザーブに任せて周辺地域を探索した結果、崖の向こう側へと繋がる道が発見できた。

 しばらく先に進んだところにある洞窟が山の向こう側まで抜けているらしい。

 道も整備されたあとがあるから、トンネルのようなもののあとだったのではないかという推察だ。


 ちなみに、岩盤が崩れ落ちるなど通行を妨げる原因がないことはすでに調査済みである。

 リザーブって賢い。


「これがその洞窟か。本当に昔は道だったようなあとがある」


「ミャウ」


『いまは面影もありませんが、かつては石畳かあるいはそれに類するなにかだったのでしょう。地面はほぼ均衡にならされています』


「これって直進すればいいの?」


『いえ。大きな柱を回り込むようにカーブしています。洞窟の強度を保つためだったのか、カーブの内側になにか重要な物があるのかは不明です』


「わかった。とりあえず、先に進もう」


「ミャ」


 私はライトを付けてゆっくりと洞窟の中に入って行く。

 洞窟とはいっても、ワイルドアンクレットが4台は同時に通れそうなほどの幅がある洞窟だ。

 奥にもそれなりに続いているようで、木魂してくる音はかなり遠くから響いてくる。

 道も事前にリザーブが説明してくれたとおり、緩やかなカーブとなっており、地面も平坦で走りやすかった。

 コウモリとかが住み着いていないのは、やっぱり餌がないからなんだろうね。


 洞窟に入ってから5分ほど走ると出口が見えてきた。

 真っ暗な洞窟から明るい太陽の下に出るのはまぶしかったけど、サンバイザーを使ってやり過ごす。

 洞窟を抜けた先には石造りの巨大な壁がそびえ立っていた。


「うわぁ、大きいなぁ」


『この壁は、この建造物群の周囲を取り囲んでいる物です。外敵などからの侵入を妨げる目的で建てられているものと思われます』


「だよねぇ。でも、こんな高山に外敵なんていたのかな?」


『それは調べてみないとわかりません。ひとまず、門へと向かいましょう』


「わかった。門は開いてるの?」


『石造りの巨大な門がありましたが崩れ落ちています。おそらく、大きな傷が入ったあとを補修せず、長年放置した結果、崩れ落ちたのでしょう』


 うーん、崩れ落ちた門か。

 なんだか不気味な場所に感じるけど、大丈夫かな?


 私たちは壁に沿ってワイルドアンクレットを走らせ、門の前までやってきた。

 そこにあった門は確かに崩れ落ちている。

 下の方から砕けて上が倒れたみたいだ。

 下の方といっても、私の身長よりはるかに高い場所なんだけど。


「これなら崩れた門を登って内部に入れるかな。でも、出るときはどうしよう?」


『マジックアンカーを飛ばして車体を引き上げましょう。この高さなら問題ありません』


 マジックアンカーとは、魔力で作り出したウインチの結び先のことだ。

 マジックアンカーの先はある程度の距離や高さを飛ばすことができるから、それを使って崖を登ったり、段差を渡ったりもできる。

 これもワイルドアンクレットならではの機能らしい。

 さすが高性能魔導車だね。


「じゃあ帰り道はそれで。壊れた門を登るときもマジックアンカーを使って段差を越えないとだめかな」


『そうですね。それが一番確実だと推測されます』


「わかった。それでいこう」


 私は早速、壊れた門扉の先端部分付近まで移動し、マジックアンカーを飛ばす。

 壊れた門扉の上にマジックアンカーが刺さったらウインチで車体を引きずりあげた。


 この扉、ワイルドアンクレットが乗っても大丈夫なほど横幅があるんだよね。

 一体、昔はなにに使われていたんだろう?


 壊れた扉を乗り越えて進んだ先には石造りの都市が広がっていた。

 レンガを積み上げて作った建物ではなく、自然の岩を積み上げて作った建物のようである。

 岩の間はなにかで固められているみたいだけど、近くに行って調べてみないとわからないかな。

 よし、ちょっと調べてみよう。


「ナイフで少し表面を削って……あれ? 表面が削れない?」


 岩と岩の間をつないでいるなにかをナイフで削り取ろうとしたけど、少しも削り取れなかった。

 あまり力を込めすぎるとナイフの刃が欠けそうだからやめておいたけど、とにかく頑丈な物質だ。

 私は専門的な道具を持っていないし、写真を撮るだけにしておこう。

 きっとこれだけでもなにかの資料になるはず。


 建物の素材を調査するのを諦めて建造物群の中を移動してみたけど、確かにここは人間族サイズの生物が暮らしていた場所だとわかる。

 扉の大きさがちょうどいいくらいの大きさなのだ。

 何カ所かリザーブ二調べてもらい罠がないか確認してから開けてみたけど、重すぎもせず軽すぎもしない、ちょうどいい重さの扉である。

 やっぱりここは人間族サイズの生物が暮らしていた都市なのだろう。


 でも、入った建物はすべて埃に包まれていて長い年月手入れをされていないことがわかる。

 正直、私には考古学の知識がないから、ここがどれくらい前の遺跡かは検討もつかないかな。


「リザーブ、この遺跡と同じような遺跡のデータってある?」


『該当なし。セントラルシステムに蓄積されていたデータには、このような特色を持つ建造物群は見受けられませんでした』


「そうなの?」


『はい。高い石造りの壁に囲まれている建造物群であり、内部にある建造物は自然の岩を組み上げて街壁とした高くても3階建ての建造物、というのは私が取得したデータの範囲にありません。今回見つけたデータをセントラルシステムに送り、類似した遺跡のデータを取得することを推奨します』


 リザーブでもわからないような問題、私がわかるわけがないか。

 ここの遺跡のことをもう少し調べ、データが集まったら『幻獣の抜け道』で直接別の場所に抜けた方が早いかも。

 この遺跡以外、この山にはなにもなさそうだし、そうしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る