第三章 次なる街へ

19. 出発の朝

 今日は私の旅立ちが決まった日。

 昨日の夜のうちにしっかりと着替えはトランクに詰めてあるし、さっき携帯食料も受け取った。

 あとはエクスプローラーズギルドにあいさつをしてこの街を出ていくだけだ。


「ルリか。早かったのう」


「お爺ちゃん。なんでワイルドアンクレットに?」


「婆さんの愛車が旅立つのでな。少し眺めに来たのじゃよ」


 荷物を積み込もうとワイルドアンクレットの元まで来たらお爺ちゃんがいた。

 お爺ちゃんもこの魔導車と別れるのは寂しいらしい。

 お爺ちゃんにとっては私よりも長く連れ添った相棒だものね。

 それは寂しくもなるか。


「さて、気持ちを切り替えるか。ルリ、旅立つ前にお前に渡しておくものがある」


「なに、お爺ちゃん?」


「これじゃ」


 お爺ちゃんは鍵の付いた金属製の小箱と手紙を差し出してきた。

 手紙はなんとなくわかるけど、この小箱は一体?


「この小箱の中には白金貨が4枚入っておる。なくすなよ」


 白金貨4枚!?

 それって金貨400枚分だよね?

 そんな大金なにに使うんだろう?


「エッセンスの街のエクスプローラーズギルドに着いたらその手紙を渡せ。それで話はつく。その金貨はあるものを購入するための代金じゃ」


「代金って、金貨400枚もするものを買うの?」


「そうじゃ。これから先、ルリの旅には必要になるものじゃからな」


 金貨400枚もするものが必要になるだなんてちょっと怖い。

 でも、お爺ちゃんが必要になるって判断しているなら、きっとそうなんだろう。

 これは餞別だと思ってありがたく受け取るとしよう。


「さて、儂から渡すものはこれですべてじゃ。それで、ルリにひとつ提案なのじゃが、エッセンスの街に着いたらカーショップで助手席を改造してもらってはどうかの?」


「え、改造?」


「そうじゃ。いまでも助手席は銃置き場とチャオの寝床じゃろう? それならば、いっそ専用のガンラックとチャオの寝床を分けてつけてもらってもよいのではないかの?」


 おじちゃんの説明では、ガンラックをつけた方が素早く銃を取り出すことができるようになるだろうし、荒れた道を進むときでも銃が揺れずに済むらしい。

 そういった道を走っているときはチャオも寝づらいだろうし、改造を考えてもいいかな。

 先立つものは必要なんだけど。


 ともかく、お爺ちゃんからの提案はここまでらしい。

 あとは自分で考えてワイルドガントレットを自分なりの魔導車に仕上げろ、ということだ。

 とりあえず、タイヤ周りは最高級のものにしてくれたらしいから、ほかのところかな?


 お爺ちゃんともう少し話をして最後にハグをしてから別れ、私は一路エクスプローラーズギルドに向かう。

 別に次の街へと向かうときにエクスプローラーズギルドへ顔を出すのは義務ではないが、普段から定期的に引き受けている仕事がある場合、顔を出すのが慣例となっているらしい。

 あくまで礼儀的な話だね。


 そのエクスプローラーズギルドに着くと、いつもの受付のおじさんが私を待っていた。

 ただ、その表情はどこか暗い。

 まるで、私がこれから旅立つのを知っているかのようだ。


「お待ちしておりました、ルリ様。本日は……依頼を受けに来たわけではありませんよね?」


「はい。勝手ですが、今朝門が開き次第、街を離れることになりました」


「残念ですが仕方がないでしょう。昨日のことはエクスプローラーズギルドでも周知されております。ルリ様がこのままこの街に留まると言い出した場合、それを説得し、ほかの街へと出発させるのが私の役目でした」


 そっか、それであんな重苦しい表情をしていたんだ。

 つらい役目を背負わせちゃったかな。


「ルリ様。当エクスプローラーズギルドのギルドマスターから紹介状が出ております。この紹介状を持って別の街のエクスプローラーズギルドに向かえば、好待遇で出迎えてもらえるでしょう」


「わざわざありがとうございます。でも、いいんですか?」


「ギルドマスターが独自に判断した結果でございます。ルリ様は勤勉で仕事熱心だった。それが評価されたのですよ」


 なんだか面と向かって褒められると、ちょっと恥ずかしいな。

 でも、紹介状はありがたく受け取っておこう。

 この先、役に立つはずだ。


「それで、不躾ながらルリ様はどこの街を目指すのでしょうか?」


「ひとまずエッセンスの街を目標に移動しようと考えています。お爺ちゃんからもそこを目指せと指示されていますから」


「かしこまりました。それではギルドマスターにのみこのことを伝え、ほかの職員たちには別の方角に向かったと伝えましょう。エクスプローラーズギルドの職員に会員の情報を流している者がいるとは考えたくはないのですが、念のための処置でございます」


「いろいろ考えてくださりありがとうございます。ところで、私が毎朝引き受けていた配達の仕事は大丈夫ですか?」


「ご心配にはおよびません。今日は別の者を向かわせました。その者がきちんと働けば、明日からもその者に任せるとしましょう」


 よかった後継の候補もちゃんといたんだ。

 これなら思い残すことはないね。


 私はエクスプローラーズギルドをあとにして、チャオと一緒に街の門へと向かう。

 向かった門の方角はエッセンスの街とは別方向に通じる門だ。

 せっかく、エクスプローラーズギルドで偽情報を流してくれるんだから、私もそれに乗らないとね。


 やがて日が昇り、門が開かれると順番待ちをしていた商人や旅人などの列に加わって私たちも外に出る。

 ただ、私たちを追ってくる魔導車もやっぱりいた。

 まだ諦めていないなんて面倒くさいなぁ。


「チャオ、脇道に逸れたら『幻獣の抜け道』をお願いね」


「キュッ!」


 ワイルドアンクレットは街道を逸れ、森の中へと入って行く道を取る。

 サイドミラーで確認すると、それにあわせて何台かの魔導車が私たちを追ってきていた。

 本当にしつこいなぁ

 でも、それもここで終わりだけど。


「キュイッ!」


 ワイルドアンクレットの周りに不思議なもやが立ちこめ始め、森の様子が一気に変わった。

 どうやら無事『幻獣の抜け道』へと入れたようだ。


 ここからが本格的な旅路の始まり。

 エッセンスの街ってどんな場所なんだろう?

 新しい場所に行くのってすごくドキドキするな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る