18. エレメントの街を出発しなければいけない理由

「儂がいきなりこんなことを切り出した最大の理由は、ルリが有名になりすぎたことじゃな」


「私が有名になりすぎた?」


「うむ。若い女性ひとりでワイルドアンクレットという高級魔導車乗り、従魔としてカーバンクルを連れ歩いている。わりと田舎であるエレメントの街で有名になるには十分な話題性じゃな」


 そんなこと気にしたことがなかった。

 でも、説明されると確かに私って目立つ気がする。

 お婆ちゃんの魔導車は超高級車だし、チャオは幻獣のカーバンクルだ。

 そんな魔導車に乗って幻獣を連れ歩いている私は、犯罪者からすればいい的なんだろう。

 そう考えると、ちょっと怖くなってきた。


「それに、儂らが暮らしていた村の村長が、ワイルドアンクレットを返せとカーライルへ直訴を行ったようでな。ワイルドアンクレットの所有権はルリにあると門前払いにされたようじゃが、どうもその線が怪しい。金を積んでごろつきどもを雇った可能性もある」


 そんなことまでするの、あの村長は!?

 確かに村にいた頃から仲がよくなかったけど、他人の持ち物まで強引に奪い取ろうだなんて信じられない!


 だけど、お爺ちゃんが言うにはまだ証拠が見つかっていないそうだ。

 あの村長には税金の着服疑惑もあるらしく、今回の件で尻尾がつかめれば一気にたたみかけられるらしい。

 ただ、それを行うにも時間がかかり、その間も執拗に狙われる可能性があるため、エレメントの街から出発して別の街へ行ってほしいそうだ。


「うーん、わかった。私がこの街に残っていたら危ないってことだよね?」


「そうなるな。ルリもこの街でかなりの実績を積んできたじゃろう。ある程度の信頼度があれば大きな街に行っても仕事を割り振ってもらえるはずじゃ」


「そっか。それじゃあ、出発の準備をするね。お爺ちゃんはどれくらいかかる?」


「儂か? 儂はこの街に残りカーライルの補佐を続けるぞ」


 えっ!?

 お爺ちゃんは一緒に来ないの!?


 すごく驚いたけど、お爺ちゃんにとってエクスプローラーズギルドで立派に働き出した私は、もう一人前の大人らしい。

 それならいつまでも自分がついて回って面倒を見る必要もなく、安心して送り出せるそうだ。

 つまり、お爺ちゃんが言うとおり、お爺ちゃんはここに残り、私はお爺ちゃんの元を巣立つことになるんだね。


「儂がいないと、あの村長に対する追及もなあなあで終わりかねん。あやつがいままでのさばってきたのも役人とのつながりがあるためじゃ。ここであの一族との因縁は断ち切っておかねばならぬ」


「そうなんだ。わかった、私はチャオを連れて旅に出ることにするよ」


「うむ。そうしてもらいたい。チャオがいれば『幻獣の抜け道』を通って遠くまででも数日で移動できるはずじゃ」


 そうだった。

 チャオって『幻獣の抜け道』が使えるんだった。


 お爺ちゃんからは、街が見えない程度まで離れたらすぐに『幻獣の抜け道』に入って街から距離を取ってほしいらしい。

 今回私を襲った連中をまくためにも必要だそうだ。

 私も追いかけ続けられるのは嫌だからそうしよう。


 お爺ちゃんとも相談して私の出発は明日の早朝となった。

 着替えはお爺ちゃんの用意してくれたトランクに詰めるだけ詰めて持っていく。

 旅の間の食料もお爺ちゃんがお屋敷の料理人経由で保存食を手配してくれてあるようだ。


 つまり、着替えの準備さえ整えば出発準備はもう完全に整うということになる。

 でも、わかってはいてもお爺ちゃんとお別れするのはつらい。

 涙が出てきてしまう。


「ルリよ、いつかは別れのときが来るものじゃ。それが明日になっただけのこと。心の準備をする時間ができただけよしとしようではないか」


「うん、お爺ちゃん」


「愛してるぞ、我が孫よ」


「大好き、お爺ちゃん」


 私はお爺ちゃんと抱きしめ合ってから部屋を出た。

 涙は止まらないけど、泣いてばかりもいられない。

 明日からは本当の意味でのひとり立ちが始まるんだ。


 私も次の段階にステップアップしていかないとね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る