17. 誘拐未遂に遭った
チャオを連れて仕事をするようになってから数日が経過した。
チャオはとにかく物怖じをせず愛嬌がいいので、配達先のおじさんやおばさんたちの間でもすぐに人気者となる。
チャオの餌用にって野菜や果物をくれるんだよね。
さすがに、量が多すぎるから申し訳ないけど断っている。
このようにチャオもかなり街に馴染んできた。
私とセットで街の中を走っている光景は、わりと日常的なものになってきたんじゃないかな。
私もチャオが街のみんなに受け入れてもらえて嬉しいし。
そんなある日の午後、小雨が降り出したため街の外での活動は中止して街に戻ってきたところ、路地裏でうずくまっている男の人を見つけた。
雨に打たれてうずくまっているなんてきっと大変な怪我か病気な気がする。
ちょっと声をかけてみよう。
私はエンジンを止め、チャオを車内に残したまま男の人に近づく。
男の人は反応しないけど、大丈夫かな?
もう死んでいたりしない?
「あの、大丈夫ですか?」
勇気を出して近くまで寄り、声をかけてみる。
すると、顔になにか黄色いガスを浴びせられてしまい身動きが取れなくなった。
なんなのこれ!?
「あ、が……」
「まさか、街で噂のアンクレット少女が釣れるとはな」
「なんだっていい。さっさと魔導車ごと運ぶぞ」
「ああ、わかっている。小娘、動くんじゃねぇぞ」
動くなと言われても、指先一本動かせない。
男は私のことを担ぎ上げ……ようとしてなぜか動きが止まってしまう。
片手で担ぎ上げようとしてもだめで、両手を使っても持ち上がらないようだ。
一体なにが起きてるんだろう?
「おい! 小娘が動かねえ!」
「こっちもだ! 魔導車のドアひとつこじ開けられねえ!」
よく見ると、私の体の周りを薄い青色の光りが覆っていた。
なんとかがんばってワイルドアンクレットの方を見ると、同じ色の光で守られている。
これってどうなってるの?
ブップー!!
なにが起こっているのか悩んでいる間に、ワイルドアンクレットのクラクションが鳴った。
ワイルドアンクレットのクラクションってオフロード仕様だから、外でよく鳴り響くように音が大きめなんだよね。
それが街中に木魂している。
そのクラクションの音も、1回や2回ではなく何回も連続で鳴らされている。
誰が……ああ、チャオか!
「クソ! これじゃ人が集まって来ちまう!」
「ずらかるぞ! こんなことで足がつくわけにもいかねぇ!」
男たちは走って路地裏へと逃げていった。
そして、ワイルドアンクレットの発する音が元で呼ばれたと思う衛兵に助けられ、私も無事に屋敷まで届けられた。
もう、なんだったのよ。
屋敷に届けられたあと、解毒剤を飲まされてようやく私は体が動くようになった。
ただ、相当強力な麻痺毒を浴びせられたようで、2日ほどは安静にしなくてはいけないらしい。
本当に油断したなぁ。
「それで、犯人の顔はわからないんですね?」
私はいま衛兵から事情聴取を受けている。
ただ、ほとんどなにも答えられていないんだよね。
「申し訳ありません。私を襲った男はフードを目深にかぶっていて人相が見えませんでしたし、もうひとりいたと思われる男も私の視界に入らなかったので顔は見えませんでした」
「ふむ。身長は私と同じか少し高い程度、中肉であると思われるがマントやだぼっとした服で体型も詳しくわからない。聞こえてきた声は男ふたり分。完全にプロの犯行ですね」
やっぱりその筋の人間の犯行だったのか。
いまさらながら恐怖を感じてしまう。
「盗られた物などはありませんか?」
「どうやら魔導車のドアが開かなかったようなので大丈夫だと思います。可能性があるとすれば、魔導車のバックドア後ろに積んであるテントなどですが、それは確認してみないとわかりません」
「なるほど。それは、あなたのお爺さまが魔導車を回収してきたあと見分しましょう」
私がこの状態だからワイルドアンクレットを動かせるのはお爺ちゃんだけになる。
そのお爺ちゃんは、ワイルドアンクレットの回収のため街まで出ているところだ。
街門からほどよく近いところで犯行に遭ったから結構時間がかかっているみたい。
うん、申し訳ないな。
このあともいくつか質問を受けたけど、ほとんどなにも答えられなかった。
私が麻痺して動けなかったことと、エンジンを切ってしまっていたため、サポートシステムのリザーブも停止していたことで追跡できなかったのだ。
チャオも私たちを守るのに必死だったみたいで、犯人がどこに行ったのかまではわからないみたい。
完全に手詰まりだね。
私の事情聴取が終わる頃、お爺ちゃんが戻ってきたので、車の実況見分に移る。
ただ、どこにも傷がついておらず、備品も盗まれていないことがわかった。
お爺ちゃんの説明によると、カーバンクルがその力を使って私とワイルドアンクレットを守ってくれたらしい。
カーバンクルの力とは『結界術』だ。
結界術で守られたものには触ることができず、傷つけることも容易ではなくなってしまう。
結界術の強度を超えるほど強力な力は防げないらしいけど、一般人では無理らしい。
そんな力で守られていた私とワイルドアンクレットは無傷で済んだのだ。
ちなみに、私を連れ去れなかったのも結界術の効果みたい。
実況見分が終わり、衛兵が帰っていったあと、私はお爺ちゃんに呼ばれて話をすることになった。
だけど、お爺ちゃんはなかなか話を切り出してくれない。
なにか言いにくいことがあるんだろうか?
「お爺ちゃん、どうしたの?」
「う、うむ。ルリよ。この街から出立する気はないか?」
え、この街を離れるってこと?
お爺ちゃんはどうするんだろう?
それになんでいきなりこんなことを?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます