16. チャオの従魔登録
リザーブの名前を付け終わったら、いよいよエクスプローラーズギルドだ。
まだ薄暗い道を、ワイルドアンクレットはエクスプローラーズギルドに向けて駆け抜ける。
通い慣れたエクスプローラーズギルドに到着すると、エンジンを切り、ドアを開けた。
うん、今日も空気が澄んでいる。
「チャオ、お仕事を受けてくるから少し待ってて」
「ミャウ!」
チャオにはワイルドアンクレットで待っていてもらおうと思ったんだけど、私に飛びついてしがみついてしまった。
これは引き剥がせないやつだ。
仕方がない、ギルドの中に連れて行こう。
「いらっしゃいませ、ルリさん。おや、その肩に乗っているのは……」
ギルドの受付でやっぱりカーバンクルを見とがめられる。
まあ、当然だよね。
「先日助けたカーバンクルですね。私に懐いちゃって契約まで済ませたので一緒に行動することになりました」
「契約まで。契約紋を見せていただけますか」
「はい。これです」
私は左手の手のひらに広がった契約紋を受付係に見せた。
受付係はそれを念入りに調べ、偽物では無い事を確認すると、ふぅとひとつ溜息を漏らす。
うん、やっぱりあまりいいことじゃないんだ。
「状況はわかりました。カーバンクルが契約に応じたということは、それなりの理由があったのでしょう。しかし、そうなると、カーバンクルを従魔登録しなければなりません」
「従魔登録?」
従魔登録ってなんだろう?
詳しく聞いてみると、モンスターを手懐けた人がこのモンスターは自分のものであり、自分が責任を負う、と契約するものらしい。
これらの技術を持つ人は『テイマー』と呼ばれ、モンスターを使った戦い方や普通の人ではできないような仕事に従事しているらしい。
そして、私もカーバンクルと契約を果たしたことから従魔登録が必要になったようだ。
カーバンクルは幻獣だけど人里で暮らす動物ではないため従魔登録が必要らしい。
それで、従魔登録はどうすればいいのかというと、専門のスタッフがエクスプローラーズギルドにも駐在していてその人に頼めばいいそうだ。
ただし、その人はまだ出勤してきていない。
日中しかいないため、こんな朝早くからはエクスプローラーズギルドにいないのだ。
そうなると、カーバンクルを連れて仕事に行くことはできなくなる。
申し訳ないけど、チャオにはエクスプローラーズギルドでお留守番をしていてもらおうかな。
「チャオ。2時間くらいで帰ってくるから、いい子にしてるんだよ?」
「ミャオ!」
わかっているのかいないのか、チャオは元気に片足をあげて返事をしてくれた。
大丈夫だと信じて仕事に行くしかないか。
本当に大丈夫かな?
朝の仕事を終えて戻ってきた結果、チャオは大人しくしていたようだ。
正確には保護器の中でずっと眠っていたらしい。
見物人が来ないよう、ギルドの奥に隠してくれていたようだが、それでもどこにも行った形跡はないそうだ。
ただ、チャオって『幻獣の抜け道』を使えるからなぁ。
こっそりどこかに行っていそう。
まあ、とにかく、チャオは無事に私の手元に戻ってきた。
そのまましばらく待つと、従魔登録担当の係員が来てくれたそうなので早速行ってみることにする。
朝の早い時間を過ぎたエクスプローラーズギルドは少し人が増えてきたけど、それでも人混みができるほどではない。
そもそもこのギルドの体質として依頼の奪い合いって発生しないんだよね。
ギルドの受付がその人の信用度や使用している装備品などを踏まえて仕事を紹介してくれるのだ。
私みたいな新米には本当にありがたい。
さて、その従魔登録担当の係員だけど……いた!
「すみません、この子の従魔登録をお願いしたいのですが」
「はいはい。……って、かーッ」
係員は大声で叫びそうになり、慌てて口を手で押さえた。
そうだよね、いきなりカーバンクルを登録したいだなんて言われても困るよねぇ。
「あの、大丈夫なんですか、それ? 幻獣の取り扱いには許可がいるのですが」
「えっと、私、この子と契約してしまっているんです。それじゃだめですか?」
「ああ、なるほど。契約してしまったのでしたら許可もなにもないですね。幻獣にとって契約とは命に関わるものですから」
「えっ!?」
今度は私が大声を上げそうになってしまう。
係員の説明によると、契約をした幻獣は契約相手と深く結びつき魔力などを共有するらしいのだ。
そのため、契約相手がいきなり死んだ場合、魔力の供給が急に途切れることとなり命に関わることになりかねないのだとか。
……チャオってば、そんな危険なことを簡単にしないでよ。
ともかく、契約を果たしてしまうと、契約相手から幻獣を引き離すことの方が危険らしく、幻獣の管理許可も後出しで下りるみたい。
お爺ちゃんもそういうことは先に説明してほしかった。
「……以上が、幻獣との契約に関わることです。すでに契約をしてしまっている以上、もうどうにもなりませんがね」
「はい、わかりました。自分の命も大切にします」
「そうしてください。それでは従魔登録申請書をお渡しいたしますので、記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫だと思います」
書類の書き方とかはお爺ちゃんやお婆ちゃんに習ってあるんだよね。
実際、この書類もスラスラ書けた。
基礎学力って大切だ。
「……書類の不備はなさそうですね。残りは従魔証を従魔に付ける作業になります。カーバンクルですと、首輪型の物がよさそうですね」
そう言うと、係員さんは奥の方から宝石みたいな石のついた金属製の首輪を持ってきた。
これが従魔証?
「それではルリさん。この宝石の部分に血を1滴付けてください」
針と一緒に首輪を渡される。
指先に針を刺すと、チクッとした痛みとともに血がにじんできた。
それを宝石に付けると、血の跡はすぐに消えてなくなり、宝石の色が空のような澄んだ青色に変化したのだ。
これで終わりなのかな?
「従魔証の登録は完了です。あとはこの従魔証をカーバンクルにつけてあげてください」
「はい。チャオ、大人しくしててね」
「ニャァ……」
首輪をチャオの首にはめると、カチリという音がして首輪がチャオの首にちょうどいいサイズまで小さくなった。
これ、魔導具だったんだ。
「これで従魔登録は完了です。その子を大切にしてあげてください」
「はい。ありがとうございます!」
よし、これでチャオを連れて堂々と仕事ができる!
チャオもその方が嬉しいだろうし、これからも頑張ろう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます