13. 傷ついたカーバンクル

 街まで戻った私はカーバンクルをエクスプローラーズギルドに渡すと、これでもかというくらい念入りに身体検査を受けた。

 一切の服を身に着けない全裸にされたのはもちろん、喉の奥まで指を突っ込まれたり、乙女の恥ずかしい部分やお尻の穴を思いっきり指で広げられたり、指を突っ込んで中をかき混ぜられたりもした。


 女性職員だけで行われたからよかったけど、男の人に見られていたら恥ずかしくて泣いちゃいそう。

 いや、女の人相手でも泣くほど恥ずかしかったけど。


 ワイルドアンクレットの中も隅々まで調べられ、私の身の潔白が証明されるとようやく解放された。

 そこまで厳重に取り締まるものなんだろうか?


 解放された私はリアさんが呼んでいるということなので、彼女の執務室に向かう。

 入室の許可をもらってから執務室に入ると、リアさんのほかになぜかお爺ちゃんもいた。

 お爺ちゃん、なにしに来たんだろう?


「ルリか。身体検査は大変じゃったじゃろう」


「大変なんてもんじゃないよ。裸にされる以上のことをされるなんて思わなかったもん」


「仕方があるまい。幻獣がらみの密猟騒ぎじゃ。第一発見者が疑われてもおかしくはない」


「幻獣? やっぱりあの動物ってカーバンクルだったの?」


「そうじゃ。その確認と応急処置のために儂が呼ばれたんじゃからのう」


 カーバンクルかどうかの確認と応急処置でお爺ちゃんが呼ばれた?

 なぜ?


 私の疑問が顔に出ていたのだろう。

 リアさんがお爺ちゃんの後を引き継いで説明してくれた。


「ヴェルドリア様は幻獣や魔法生物の研究における第一人者なの。それで今回来てもらったわけよ」


「お爺ちゃん、そんなこともできたの?」


「昔取った杵柄じゃよ。それよりも、カーバンクルを保護した状況について詳しく聞きたい。一体どのような場所でどのように保護したのじゃ?」


「あ、うん。ええと……」


 私は今日街を出てからたどってきた道順を説明する。

 ただ、最近は活動範囲を広げるため、毎日別の場所に行っているから記憶は曖昧だ。

 地図を見ながら説明しているけど、それでもわかりにくいものはわかりにくい。


 そもそも、私が今日行った場所は途中から深い森になっていて行けないはずの場所のようなのだ。

 そんな不思議な場所にどうやってたどり着いたのか、自分でもよくわからないのが本音である。


「ふむ。本来あるはずのない獣道に迷い込んだ、か。『幻獣の抜け道』に迷い込んだのじゃろうの」


「『幻獣の抜け道』って?」


「幻獣たちが使うとされる不思議な道じゃ。ここをくぐり抜けると、繋がっているはずのない場所にたどり着くらしい。ただ、この道を開けるのは幻獣だけらしいがの」


 お爺ちゃんの説明によると、私が迷い込んだのは『幻獣の抜け道』である可能性が高いらしい。

 理由は不思議なもやが辺り一面に立ちこめていたことと、森の中からでは無線が使えなかったことだ。


 無線……魔導無線は、空気中の魔力をたどって相手まで通信をつなげる手段である。

 その性質上、魔力の乱れが発生していない限りは、かなり遠くまで無線が繋がるのだ。

 その無線が通じなかったということは、周囲と隔絶された空間である可能性が高く、『幻獣の抜け道』を通った先の場所にいたと考えるのが一番信憑性のある話のようである。


 では、私がなんで『幻獣の抜け道』に迷い込んだのかだが……どうやら、私が迷い込んだのではなく、密猟者が出てきたところに私が入っていった可能性があるみたい。

 理由は、死にかけのカーバンクルを見つけたことだ。


「普通、あそこまで衰弱した幻獣が『幻獣の抜け道』を開けられるとは考えられてはおらん。それを踏まえると、ルリは偶然密猟者が通り抜けてきた『幻獣の抜け道』へと入り込み、あのカーバンクルを見つけたと考えるのが自然じゃ」


「なるほど。そういえば、あの子ってどうしているの?」


「人工魔核を埋め込んで保護器に入れてあるから無事じゃよ。わりとぎりぎりじゃったがな」


 よかった。

 あの子、生きてるんだ。


 人工魔核というのは、魔力の込められた宝石のようなものを人工的に作ったものらしい。

 基本的にはゴーレムの核として使われるため『魔核』と呼ばれているが、カーバンクルの『第三の瞳』の代わりにもなるみたいだ。


 私も文献で少し読んだくらいなので詳しく知らなかったんだけど、カーバンクルの『第三の瞳』は高純度の魔力結晶体で、様々な高出力魔導具に使うことができるのだとか。

 ただ、『第三の瞳』を奪われたカーバンクルは死んでしまうため、生きたカーバンクルから『第三の瞳』を抜くことは禁じられているらしい。


 だから、私が見つけたカーバンクルは密猟に遭ったカーバンクルだったのか。


「それで、あの子はどうするの?」


「しばらく儂が預かる。人工魔核を埋め込んだので命に別状はないだろうが、あり合わせの魔核を埋め込んだだけじゃからな。エクスプローラーズギルド経由で王立魔導工学研究所に高純度人工魔核を頼んだから、それが届くまでは儂預かりじゃよ」


「そのあとは?」


「高純度人工魔核が体に馴染めば……野生に帰れるかはわからんな。命に別状はないじゃろうが、野生に帰るには『幻獣の抜け道』を開けるようになる必要があるじゃろう。高純度人工魔核で『幻獣の抜け道』を開けるかどうかは研究されたことがないんじゃよ」


 野生に帰れなかった場合、お爺ちゃんが育てるか魔導工学研究所という場所に送るかどちらになるかはあとから決めるみたい。

 どうなるかわからないけど、あの子が暮らしやすいようになるといいな。

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