12. 珍しい生き物を拾った

 クラム先輩に銃をもらったおかげで私の活動範囲はさらに増えた。

 日帰りできる範囲だけど、それでもモンスターが多少出るところにも進めるようになったんだ。

 具体的にはゴブリンとかラージセンチピードが出るあたりまで行けるようになった。


 ゴブリンは緑色の肌をした子供くらいの大きさの敵対的な亜人だ。

 肌が柔らかいし弱いからライフルで数発撃てば絶命する。

 仲間意識もそこまで強くないらしく、形勢不利と見ればすぐに逃げ出してくれるから本当に楽だ。

 倒したあと、魔石を取りだして穴に埋める方が手間なくらいである。

 ぶっちゃけ、弾代の方が高い。


 ラージセンチピードは木の高さほどもあるムカデで、気持ち悪い。

 甲殻も硬くライフル弾では効きが悪いが、動きが遅いためグレネード弾1発で勝負が付く。

 なるべくなら頭を狙って潰したいところだけど、頭は狙いにくいから私は頭付近の胴体を狙っている。

 頭を潰さないと少しの間動き続けるから、倒したあとも間合いを取っておき、完全に動かなくなってから解体開始だ。


 ラージセンチピードの肉は毒にしかならないらしいから買い取りしてもらえないけど、背中側の甲殻はなかなかいい値段で買い取りしてもらえる。

 これを使って鎧や盾を作るそうだ。

 ライフル弾をはじけるんだから相当頑丈な装備になるんだろう。

 モンスターとしてもそれなりに生息しているみたいだし、安めの装備として売られているのではなかろうか。

 私は調べていないからあまり詳しくない。


 そんな調子で今日もいままで行ったことのないエリアを探索していると、ちょっと不思議な場所にたどり着いた。

 うっすらともやがかかっており、なんとなく神秘的な雰囲気もある。

 なにより、ワイルドアンクレットのマップがこの場所を正確に表示できないでいるのだ。

 これはなにかある!


「……なにかある、と思って奥まできたものの、なにもないなぁ」


 森の中にあった大きめの獣道を縫うように進み、森の奥までたどり着いた。

 たどり着いたのだけど、湖の中に一本の木が生えている場所にたどり着いただけで、ほかになにもなさそうである。

 これは外れかなぁ?


「水深測定機を使って……だめだ、湖の奥までは行けそうにない。湖の周りをぐるっと一周してなにもなかったら帰るか」


 水深測定機の測定結果は、そこそこの遠浅だけど木の生えている場所に近づけるほど浅くはないようだ。

 仕方がないので湖の周りをゆっくり走ってみる。

 走ってみるんだけどなにもないなぁ。


 と思っていたら、湖のほとりに小さな動物らしき物が打ち上げられていた。

 体毛は汚れているけど、多分明るい緑色だ。

 泳げなくて死んでしまったのだろうか?

 とりあえず様子を見てみるかな。


「うーん、耳が長いところはウサギのようにも見えるけど、頬が大きなところはリスにも見えるし、どんな動物だろう?」


 よく見ると、前脚と後ろ脚の間に膜もあった。

 どんな生態系をした動物なんだろうか?


 不用意に触るのもよくないらしいので、近くに落ちていた木の枝で突っついてみる。

 すると、「キュイ」と小さな鳴き声を漏らした。

 この子、まだ生きてる!


「生きているなら助けてあげなくちゃ! ええと、どうすれば……とりあえず、体を拭いてあげるところからかな」


 私は急いでワイルドアンクレットからタオルを持ってきて小動物の体を拭いてあげた。

 すると、体が冷えているのか、小動物も私に体をすり寄せてくる。

 なんだかかわいい。


「ええと、どうすればいいのかな? 街に連れ帰っても大丈夫なのかな? 無線で聞いてみよう」


 私はこの小動物を抱きかかえてワイルドアンクレットまで戻る。

 そして、無線でエクスプローラーズギルドに連絡を入れようとしたけど、ノイズばかりが入ってきて繋がらなかった。

 やっぱりこの場所が原因なんだろうか?


「とりあえず、この森を出るしかないか。君、ちょっと待っていてね」


 私は小動物をタオルにくるんだまま助手席に乗せ、ワイルドアンクレットを発進させる。

 来たときの獣道をまっすぐ帰っていくと、だんだん霧が晴れてきて見慣れた森までたどり着いた。

 ここなら無線が通じるかな?


「こちら、『GZ-5712CF-B』ルリ。エレメントエクスプローラーズギルド応答願います」


『こちらエレメントエクスプローラーズギルド。なにかあったのか?』


「不思議な森の中で小動物を拾いました。街に連れ帰ってもいいものなのか判断を願います」


『小動物? どのような場所でどのような動物を拾ったんだ?』


「不思議なもやに包まれた森です。そこでウサギのような耳とリスのようなほお袋、前脚と後ろ脚の間に皮膜のある動物を拾いました。かなり衰弱していて危険な状態です」


『……待て。その動物の額に目のような宝石は付いているか?』


 額に目のような宝石?

 動物の顔をこちらに向けて額を見てみてもなにも付いていない。

 代わりになにかのくぼみがある。

 それを伝えると、なんだか無線の向こう側の雰囲気が慌ただしくなってきた。


『ルリ、その動物を連れてすぐに帰還せよ。その動物は『カーバンクル』だ。額の宝石がないということは密猟に遭った可能性もある。速やかに帰還せよ』


 この動物がカーバンクル!?

 カーバンクルってこんな姿をしているの!?

 とにかく、早く連れ帰らないと!

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