11. 仕事も軌道に乗ってきて

 私は毎日青果ギルドから荷物の搬出を行っている。

 1日の稼ぎは金貨1枚ほど、ワイルドアンクレットを使っていることを考えると安すぎるのだろう。

 でも、自分で稼いでいるという実感が湧いてきてとっても充実していた。


 荷物の搬出の仕事は朝のうちに終わるため、昼間はなにをしているかというと、エクスプローラーズギルドで様々なことの勉強だ。

 エクスプローラーズギルドの資料室にはモンスターの生態を記した本や幻獣の性質を記した本、各地の遺跡やダンジョンの資料など様々な本が置いてある。

 これらの資料がエクスプローラーズギルドの会員なら誰でも読み放題なのだ。

 これは読まずにいられないよね!


 そういうわけで、今日も朝の仕事を終えたらエクスプローラーズギルドに戻り精算をしてもらい、その足で資料室に行く。

 いま読んでいるものはモンスターの分布についての本だ。


 現在は街中の仕事しか受けていないから外に出る機会は少ないし、出かけても近隣の平野などにしか行かない。

 そういった場所に生息するモンスターは、ワイルドアンクレットのエンジン音を聞けば逃げ出すから脅威とは言えないのだ。


 だけど、これから遠出をする仕事を受けるようになり、危険な場所に踏み込むようになるとそうも言っていられない。

 私の魔導車には、まだ対モンスター用の装備が付いていないのだ。


 カーショップの店員さんによると、対モンスター用のロケット弾やガトリング砲などを付けられるらしいが、改造費用がかかるしなにより実弾を撃ち出すので消耗した弾薬を補充しなければならない。

 貧乏人には厳しいのだ。


 カーショップの店員さんにも、まずは携帯式のハンドグレネードや対モンスター用のライフル銃などをお勧めされているしね。

 それだって、銃本体だけで金貨数枚はするし、維持費に弾薬代と安い買い物じゃない。

 やっぱり装備はお高い買い物なのだ。


「はぁ、遠出をするには装備が必要だし、装備を買うにはお金が必要だし。なんとも言えない切なさがあるなぁ」


 結局、世の中お金である。

 ワイルドアンクレットの維持費も考えなければいけない以上、まだ装備にお金をつぎ込むわけにもいかない。

 モンスターがいる地域に遠出するのはまだ当分先かなぁ。


 そんな辛気くさいことを考えながら、エクスプローラーズギルドに併設されている食堂でお昼を食べていると、外へ繋がっているドアが乱暴に開かれた音がした。

 普段、エクスプローラーってわりと静かに入ってくるんだけど、今日は珍しいこともあるね。


 入り口の騒ぎは気にせずランチを再開しようとしたら、受付の方から男の人の怒鳴り声が聞こえてきた。

 結構興奮している声である。


「なんで、ここのエクスプローラーズギルドにアンクレットがあるんだ!? あれの所有者、名乗り出やがれ!」


 うーん、私の魔導車が原因か。

 これは大人しく出るしかないよね。

 ランチもちょうど食べ終わったところだし。


「あの。あのアンクレットは私の魔導車ですけど」


「はあ!? お嬢ちゃんみたいな若いのがアンクレットの所有者だと!?」


「はい。なにか問題でも?」


「……本当なんだな?」


「本当ですって」


 神妙な顔つきで念を押してくる男の人だったが、次の瞬間、腰を90度以上曲げて私にお願いをしてきた。

 いわく、アンクレットをよく見せてほしいと。

 そんなこと、気にしなくてもいいんじゃないかな……。


「いいや、気にするだろ!? エクスプローラーにとって魔導車は大事な商売道具だぞ! それを許可もなくじろじろ見るなんて不躾にも程がある!」


「は、はぁ……」


「そういうわけなんで、見せてもらってもいいか!?」


「まあ、見るだけでしたら」


「ありがとな、嬢ちゃん! 俺はクラムって言うんだ! しばらく外でアンクレットを見せてもらうぜ!」


 あ、走って行っちゃった。

 あの人もエクスプローラーなんだろうか?

 聞きそびれちゃったな。


「やれやれ、クラムさんの悪い癖がまた出ましたか」


「また?」


 受付のおじさんが首を小さく横に振りながら教えてくれる。

 あのクラムって人は珍しい魔導車が大好きで、エクスプローラーズギルドに変わった魔導車があると所有者の許可を取った上で魔導車を観察するらしい。

 そこまで魔導車が好きなんだ。


「いやー、アンクレットってのは素晴らしいな!」


 あ、クラムさんが戻ってきた。

 満足したんだろうか?


「おう、嬢ちゃん。ありがとな。……ところで、あのアンクレット、一般モデルか?」


「いえ、ワイルドアンクレットです」


「なるほどなあ。やけに装備がごつくて頑丈そうだったわけだ。しかし、限定生産モデルのワイルドアンクレットを持っているとは、お嬢ちゃん何者だ?」


「あ、私はルリって言います。ワイルドアンクレットはお婆ちゃんの魔導車だった物を譲り受けました。お婆ちゃんはメノウです」


「あー、エクスプローラーズギルドの創設者であるメノウ様か。そりゃ納得だ。ところで、ワイルドアンクレットの中に武器が積んでなかったんだが、どこかに隠してあるのか?」


「その、まだ武器を買うお金がなくて」


「そうか。ワイルドアンクレットを見せてくれたお礼だ。中古のライフルとグレネードランチャーでよければ譲るぜ?」


 え!?

 願ってもない話!

 でも、いいのかな?


「んー、正直な話、型番落ちなんだよ。後継機が出てるから予備弾薬とかには困らないが、やっぱり壊れたら修理が大変で買い換えたんだ。売っても二束三文だし残してたんだが、お金に余裕のない新人になら譲ってもいいだろう。手入れの仕方も教えてやるぜ?」


 それは本当に嬉しい!

 私はふたつ返事で譲ってもらっちゃったよ。


 そのあと、エクスプローラーズギルドの一室を借りて銃の分解整備の仕方も教えてもらい、普段の手入れもばっちり教えてもらった。

 弾はさすがに自分で買わなくちゃいけないけど、銃そのものがかなりの高額だったので、それは我慢しよう。


 でも、これで街の外に出発する足がかりができた。

 もうしばらく資料室で知識を蓄えたら、街の外にも足を運んでみようかな?

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