第二章 エレメントの街
4. 祖父の正体
エレメントの街までは夜のうちに着いた。
ただ、閉門しているので朝まで車中泊だ。
でも、この魔導車はかなりスペースに余裕がある作りになっているため、中で寝ても苦しくない。
本当にいい魔導車だ。
翌朝、開門時間になると早速エレメントの街に入ろうとする。
入ろうとするのだが、困った、身分証がない。
スペンドの村の身分証は使えないし、どうしよう?
「衛兵さん。これで通してもらえんかのう?」
私が身分証で困っていると、お爺ちゃんがペンダントを差し出して見せた。
それってなにか意味がある物だったんだろうか?
「これは……申し訳ありません! すぐにお通りを!」
「気にせんでいいぞ。お主も職務に忠実だっただけじゃ」
「は! ありがとうございます!」
どうしたんだろう。
衛兵さんの腰がすごく低い。
お爺ちゃんって何者?
街中では運転免許証なる物がないと魔導車を運転してはいけないみたいで、運転をお爺ちゃんと交代した。
すると、お爺ちゃんは慣れた手つきでエレメントの街を走っていく。
一体どうなっているんだろう?
お爺ちゃんはスルスルと街中を走っていき、やってきたのは貴族が住むようなお屋敷だ。
お爺ちゃん、本当に何者なんだろう?
「止まれ。ここはエッセンス伯爵家の屋敷だ。見知らぬ者を通すわけにはいかん」
「まあ、そう言わずに。儂はこういう者じゃよ」
「これは……どうぞ、お通りください」
「それでは遠慮なく。行くぞ、孫や」
「あ、うん」
屋敷を警備していた門衛もお爺ちゃんのペンダントを見ると納得して門を開けてくれた。
本当にどうなっているの?
私たちはそのままお屋敷の駐車場まで案内され、そこに魔導車を止めた。
そして、案内されるままお屋敷の中に入り、応接間に通されてお茶を用意される。
なんだろう、ものすごく居心地が悪い。
私、普通の村娘なんですけど……。
応接間でしばらく待っているとドアがノックされてひとりの男性が入ってきた。
いかにも貴族といったきれいな服装に身を包んだ30代くらいの男性だ。
ただ、髪の色は茶色く、瞳の色も明るい茶色、お爺ちゃんとそっくりである。
この人、誰だろう?
「ヴェルドリア伯父上! 生きておられたのですか!」
「なんの連絡もしなくてすまなかったな、カーライル。儂はスペンドの村に住んでいたのだ」
「なんと、そんな近くに……それで、その娘は?」
「ルリという。儂の孫じゃ」
ん?
この貴族様の伯父がお爺ちゃん?
どういうこと?
「ええと、詳しく説明してもらえるかな、お爺ちゃん」
「ああ、そうじゃの。儂は元々エッセンス伯爵家の生まれだったのだが、お前の祖母であるメノウと結婚する際に父上から反対されてのう。わかりやすく言うと駆け落ちしたのじゃ」
「いや、駆け落ちって……」
そんな気軽に言われても困る。
それに、私に貴族の血が流れているだなんて大問題では?
「伯父上、今回はなぜ戻られたのですか?」
「父上も亡くなられているのだろう? それならば、もうそろそろ顔を出してもいい頃かと思うてな。それに、エッセンス家に残してきた金庫の件もある」
「あの魔導金庫ですか。あれを取りに来たと?」
「主な目的はそれじゃな。すまんが取り寄せてもらえるか?」
「わかりました。伯父上のことは父上たちももう許しております。あの魔導金庫も伯父上が去ってから誰にも開けられずにしまい込まれていた物。伯父上が取りに来たのでしたら問題ないでしょう。それで、用件はそれだけですか?」
「主な用件はそれだけじゃ。あと、魔導金庫が届くまでこの屋敷に滞在させてもらえぬかの? それと、孫娘を運転教習所に通わせてやりたい。その資金を貸してほしい」
お爺ちゃん、なかなかに図々しい。
でも、相手の方もそれを了承してくれたし、お爺ちゃんって昔はなにをしたんだろう?
ちょっと気になるから今度聞いてみようかな?
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