3. 旅立ち

 お爺ちゃんはこの時間だとまだ畑にいるはずだ。

 GZ-5000は一度エンジンを止めて徒歩で会いに行こう。

 いや、畑の中を魔導車で走ったら怒られそうだしね。


 スペンドの村の道をてくてく歩いて行くけど、本当になにもない村だ。

 これといって特別な産業も作物もなく、毎日畑仕事をするばかり。

 そんな毎日が嫌になってエレメントの街へ飛び出していく若者が多く、ほとんどはそのまま帰ってこない。

 その後どうなったかは知らないけど、このままじゃこの村が干上がるのも時間の問題だと思う。

 もっと特色を出さないとだめじゃないかなとは思うんだけど、私もなにかいい案を思いつけるわけじゃないからなぁ。

 結局口だけか。


 畑沿いの道に曲がり、奥へと突き進むと私の家に割り当てられた区画がある。

 といっても、私とお爺ちゃんしかいない家なので非常に狭い畑で、毎日の食事の分を作るのでも結構苦労するんだよね。

 修理費用を貯めるのに5年かかった理由もこれだ。

 このような小さな畑でもお爺ちゃんは毎日手入れを怠らなかった。

 もちろん、私も手伝っているよ。


「お爺ちゃん、ちょっといい?」


「おお、ルリか。どうしたのじゃ?」


「お婆ちゃんの魔導車が動いたの。だけど、追加で修理しなくちゃいけない場所が多いみたいで」


「おお! ついにGZ-5000が動いたか! これはめでたい!」


 お爺ちゃんはものすごく喜んでくれているけど、私の話を聞いてくれたかな?

 まだ直さなくちゃいけない場所があるのに。


「それで、追加で修理しなくてはいけない場所とはどこじゃ?」


「え、ああ、うん。まずはサスペンションってところ。それにギアボックスっていうパーツも壊れていて、あとはエアドローンっていう物もなくなっているみたい」


「サスペンションにギアボックス、それにエアドローンか。おそらく、故障箇所はそれだけではないのう」


「そうなの?」


「それだけでは最低限走る機能しか回復せんじゃろう。あの魔導車にはもっと秘められた機能が満載されておるんじゃ」


 そんなの初めて聞いた。

 お爺ちゃんにそのことを尋ねると、まずは動かすところからじゃ、と言われたし。

 確かにその通りなんだけど、もっと機能があるなら教えてくれてもいいじゃない。

 ケチだなぁ。


「なんだ? なんの騒ぎだ?」


 げ、村長の息子がやってきた。

 あいつ、私の魔導車の所有権を奪おうとしてあの手この手を使ってくる、嫌なやつなんだよね。

 あいつに魔導車が直ったことを知られれば、無理矢理にでも奪いにくるだろう。

 隠し通さないと。


「なんでもないですよ。それより、お忙しい村長の息子様がこんなところで油を売っていていいんですか?」


「ふん。確かに、お前のような壊れた車を毎日いじくり回しているやつほど暇ではないな」


「それでは帰ったらどうです? なんの用もないでしょうし」


「……小生意気な娘が。まあ、いい。年貢を納めるのを忘れるなよ」


 年貢ねぇ。

 年貢を納めなくちゃいけないのは秋なのに。

 いまは春なんだけど、バカなのかな?


「さて、あの小生意気な小僧も行ったようじゃな」


「あ、うん。お爺ちゃん、どうするの?」


「エレメントに渡るぞ。GZ-5000が直らなかったからこそ、この村で農民をしていたが、あの魔導車が動くのなら話は別じゃ。さっさとこの村とはおさらばじゃわい」


「え、畑はいいの?」


「正直、育てている作物はもったいないが、いまを逃せば脱出するタイミングもないからのう」


 お爺ちゃんって思ったよりも大胆だった。

 でも、脱出するとしてどうやって脱出するんだろう?

 魔導車を使っても村の出入り口で番兵に止められるだろうし。

 強行突破でもするのかな?


「ああ、村の出口か。儂らの家の裏側に森の中へと通じる道がある。小薮などで隠されておるが、GZ-5000なら軽々越えていけるじゃろ」


 本当に大胆だった。

 でも、やることは決まったね。


 お爺ちゃんにはエレメントに渡ったあとの伝手があるらしく、身の回りの物で大切な物だけを持って出発するように言われた。

 大切な物というと、お婆ちゃんの形見の指輪とお母さんの形見のネックレスくらいかな。

 別にきれいなドレスを持っているわけじゃないし、大切な物がほかにあるわけでもない。

 これだけ持って出発することにしよう。


 お爺ちゃんも準備を整え、夜暗くなるのを待ってから家を出発した。

 家の裏手に回るまではライトを付けず、月明かりだけを頼りに進む。

 初めての運転なのでちょっとドキドキしたけど、なんとか家の裏に回ることができた。


 あとはお爺ちゃんの指示通り、裏手の小薮の中に進むと、本当に魔導車1台が通れるだけの道が整備されている。

 ちょっとゴツゴツした道で揺さぶられるけど、贅沢は言っていられないからね。


 そして林を抜ければ、そこは村の外の草原だった。

 こんなところに道があるだなんて思わなかったし、下手をすれば山賊などに使われていたのかもしれないと思うと、お爺ちゃんって本当に大胆である。

 ともかく、ここからエレメントまではGZ-5000で走って行けそうなので、村に近づきすぎないようにして走っていこう。

 これから街でどんな出来事が待っているんだろう。

 ちょっとわくわくしてきちゃった!

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