5. 運転教習所

 運転教習所に通うにも手続きがあるとかで、エレメントの街の代官カーライル様のお屋敷に泊めていただき、翌日から運転教習所に通うことになった。

 それにしても、お貴族様の料理ってどうしてあんなに味が濃いんだろう?

 普段は薄い味の物しか食べないから、結構きつかったかも。

 しばらくはお世話になるわけだし、慣れていかないと。


「ここが運転教習所になります」


「ここが……立派な建物ですね」


「魔導車はかなりの高級品ですから、運転免許を取ろうとする者も裕福な家庭の者が多いんですよ」


 私を案内してくれた衛兵さんが教えてくれた通り、魔導車とは非情に高額な乗り物である。

 普通の2頭立ての馬車を馬付きで買っても数台分の値段はするという。

 そんな高級品だからこそ、村長は私から奪い取ろうとしていたのか。

 なんとなく納得できた。


「それでは、私はこれで失礼します。講習が終わる時間にまた迎えに上がりますのでひとりでは出歩かないようにお願いいたします」


「はい。ここまでありがとうございました」


 私を案内してくれた衛兵さんに見送られながら私は運転教習所に入っていく。

 運転教習所は外も立派だったけど、中も豪華だ。

 美しい木目の床が贅沢に使われており、それもピカピカに磨き上げられている。

 本当に上流階級の人しか利用しないんだろうな。

 私、結構場違いかも。

 でも、お婆ちゃんの魔導車に乗らなくちゃいけないし、がんばる!


 ああ、だけど、どこに行けばいいかわからないな。

 受付のお姉さんに聞いてみるか。


「あの、今日からここで教習を受けることになっているルリですが、どこに行けばいいのでしょう?」


「ルリ様ですね。……本日が初回の講習となりますので、この奥にある教材配布窓口から教材を受け取り、2階にある2-Aの部屋でお待ちください」


 ふむ、教材を受け取って2階か。

 教材はどれくらいあるんだろう、そう考えて配布窓口に行ったんだけど、かなり厚めの本を渡された。

 本も都会ではそれほど貴重品ではないと聞いていたけど、こんな私の拳くらい厚い本を使うなんてびっくりだ。

 持ち運び用の袋も一緒にくれたけど、これがなかったらわりと途方に暮れていたかもしれない。


 そんな分厚い本をぶら下げ、私は指定の部屋へと入る。

 そこにいたのは、ほぼ私から見るとお父さんくらい年が離れた人たちばかりだ。

 性別も多くは男性で女性はまばら。

 私みたいに若い人はひとりもいないので、入ってきたときに感じた視線が結構痛かった。


 若いのは変わらないのでそそくさと部屋の隅にある椅子に座り、講習が始まるのを待つ。

 しばらくして人が入ってくるのが途絶えると、身だしなみをきっちりと整えた初老の男性が部屋に入ってきた。

 この人が講師かな?


「初めまして。私が本日の講師を務めさせていただくフロズと申します。今日は初回講習ということで基本的な運転ルールから始めさせていただきます」


 講師による授業が始まると、部屋の空気がピンと引き締まった。

 やっぱり講習というのは大変なんだろう。


 基本的な運転ルールとして街中では歩行者優先、道の左側を走る、過度なスピードを出さない、曲がるときは合図を出してからなどをこの日は学んだ。

 翌日以降も運転のマナーやルールについての講習が続き、半月ほど経ってから学科試験というものを受ける。

 問題は基本的なものが多いけど、数が多くてなかなか大変だ。

 まあ、受かったけど。


 学科試験に受かってからは実際に魔導車を使っての講義になった。

 だが、なんというか、講義で使われている魔導車が動かしにくい。

 うーん、なんでだろう?


「ルリさん、運転がぎこちない……と言いますか、妙に手慣れた感じがありますが、どこかで運転の経験が?」


「はい。祖母が魔導車を遺してくれたので、それに乗った経験があります。少しですが街の外を運転したことも」


「街の外でしたら運転免許が無くても問題ないのでよろしいのですが、その魔導車はどのような車種ですか?」


「えーと、GZ-5000と言います。かなり古い魔導車らしいですが、ご存じですか?」


「GZ-5000。よく知っております。いまでも同型の後継車種が出ているほどの名作ですよ。ですが、あれと比べたらこの魔道車は乗りにくいでしょうね」


 講師が教えてくれたけど、やっぱりお婆ちゃんの魔導車は相当乗りやすいようだ。

 それでも講習は決まった魔導車でしかできないため、これに慣れるしかない。


 運転教習所内での教習をしばらく経験したあと、いよいよ一般市街に出ての教習になる。

 最初は人や他の馬車とか魔導車に神経をすり減らしていたけど、慣れてくると注意は払っても神経をすり減らすというほどではなくなった。

 こういうときが一番危ないと教わったけど。

 うん、気を付けないと。


 市街地での教習も終えると、いよいよ運転免許を得るための最後の試験になる。

 基本に忠実な運転をして様々な場面での対処も行い、1回目は失敗したけど2回目で合格できた。

 合計1カ月ほどの教習だったけど、私の知らない運転方法などが学べて結構楽しかったな。

 うーん、早くお婆ちゃんの魔導車を運転したい!

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