第47話 四大天使

 ドライガルは、カンダタを槍で撹乱する。四方八方から襲い来るそれを、カンダタは必死でいなしていた。だが、それも時期に限界が来る。壁際まで追いやられた彼は、上空から迫る槍に右肩を削ぎ落とされてしまった。


「痛っ……!」


 彼は声ひとつあげず、右に転がってドライガルとの距離をとった。


「……お前らの目的はなんだ?ウリエル様が結託しているあたり、只事じゃあ無いだろう?」


 ドライガルは、カンダタに槍を構えつつ、質問を投げる。そうだ、こいつらは記憶を操作されているんだ。彼らの今置かれている状況を思い出したカンダタは、ニヤリと笑みを浮かべた。


「……?何がおかしいってんだ?」


「いや……別に?アンタは何のために戦うんだろうな、と思ってよ。」


「なんのために、だと?それは勿論神々のため……」


 そう言おうとしたドライガルは、言葉を詰まらせた。それと同時に、強い頭痛が彼を襲う。カンダタはその状況に臆する事なく、話を続ける。


「思い出せ。アンタはなんのために戦ってきた。何になりたい?何をしたい?」


「お前……俺に何を……したぁ!!」


 ドライガルは怒りに任せ、地面に向けて槍を再び伸ばした。地面にぶつかるはずだった槍はそこに反射し、隣にある壁へと向かっていった。そしてそこでも槍は反射する。まるで鏡と光のように、あらゆる方向へと槍は跳ね返っていく。そうか、あの攻撃の原理はこれだったのか。カンダタは刀を握りしめると、自身の背後から迫る槍を上に弾いた。


「……!」


 初めて自身の攻撃に対応された事に、ドライガルは驚く。その隙を狙い、カンダタは彼との距離を詰めていく。彼は咄嗟に槍を元の大きさに戻すと、再び正面に向けて槍を伸ばした。


「遅せぇ!!」


 カンダタはそれを再び上に弾くと、ドライガルに全体重を乗せて刀を振り下ろした。右肩から左腰にかけて、彼の体に深い傷がつく。まずい、このままでは負ける。負けてしまう。ドライガルは、未だ混乱する意識の中、自身の戦う理由を回想した。


 そうだ、俺は……俺はあの人に憧れていたんだ。大天使、ガブリエル。あの人こそが、俺の憧れだったんだ。それになんとか追いつくために……あの人の隣に立つために、俺は戦ってきた。だから……だから、ここで負ける訳には……


「負けるわけには……行かねえんだよおおおお!!」


 大量の血を流しながら、ドライガルは神性を解き放つ。上に弾かれた槍。反射する先を見失った槍は、これ以上変化する事はない。……はずだった。その槍先は、上から下に向けて折れ曲がり、地面に激突すると、再びカンダタに向けて襲いかかったのだ。そしてそのまま槍は、カンダタの心臓部を背後から捉える。


 ……事はなかった。無情にもそれに反応したカンダタに槍は縦に両断され、続けて繰り出された彼の剣戟により、ドライガルの腹部には傷がつけられた。彼のかけていたサングラスのレンズが、粉々に砕け散る。


「チッ……お前本気じゃ無かったのかよ。あーあ……持ってるやつは……お前……だったか。」


 ドライガルはそう言うと、そのまま倒れた。カンダタは無言のまま、彼の服を破いて止血の処置を施すと、その場を去っていった。




「よし……皆さん、このまま行きますよ!」


 ウリエルは、周囲の天使たちを蹴散らしながら皆に呼びかける。


「手筈通りに僕は先に行くよ!」


 額がウリエルに向かって言う。彼は彼がコクリと頷くと、額は空を駆け上がるように空へと飛び上がり、その場を後にした。


「ウリエル様!このまま塔まで行けるのでしょうか……」


 マカは、自身の不安を口にする。


「いいえ、恐らく上手くは行かないでしょう。このままいけば……」


 彼が言葉を言い終わる前に、その状況は展開した。突然、2人の背後に何者かが忍び寄り、ウリエルの後頭部に打撃を与えたのだ。突然の不意打ちにより、ウリエルは塔の周囲に張り巡らされた壁まで吹き飛ばされた。話に聞いたこの怪力、まさか……マカは振り向く。そこにいたのは、紛れもなくラファエルだった。


「マフェットちゃん、堕天使だよ。

 ……ああ、堕天使だね、ラファエルくん。堕天使は、殺さなきゃ。」


 ラファエルは、自身のマペットと会話を繰り広げながら、彼女にジリジリと迫ってくる。相手は大天使。不意打ちによって、ウリエルらしばらくこちらには来れない。……どうすれば良い?ゴクリ、とマカは唾を飲み込んだ。


 ………………………………………………


「なんなんだ、こいつは……」


 美琴は、目の前に出現した女……いや、天使というからには両性だろう。そんな天使を前に構えをとった。この神性、この瘴気。只者ではないのは確かだろう。


「美琴、どうする?」


「やばいですよこの人。」


 牛頭と馬頭は、美琴に聞く。彼が解答を口にしようとしたその時だった。突然青い炎が巻き起こったかと思えば、次の瞬間、彼らの背後に移動したその天使の剣によって、納言の半身が両断されていた。


「納言!!」


 美琴は叫び、その天使に飛びかかる。だが、そこには既に彼の姿は無い。



「私の名はミカエル。ご機嫌よう、反乱軍の皆様。ここで死んでいただきます。」


 ミカエルは、3人の背中から、和やかな笑みを浮かべてお辞儀をすると、そう言った。




「くっそ……あいつらずいぶん先に行きやがって……」


 カンダタは、先に行ったアテナたちを追って走っていた。早く、追いつかねば。と周囲の建物から建物へと移動していく。幸い、ここには人は住んでいない。塔の周囲は、倉庫だらけだ。


「なんなら今扉が開いてくれてても良いんだが……」


「そいつはいけねえなあ!」


 突如、カンダタの独り言に反応する声があった。それに気づいた彼は、咄嗟に振り返る。すると、鬼の形相とも取れる笑顔を浮かべた天使が彼に飛びかかった。


 早い。とてもじゃないが、対応しきれない。咄嗟にカンダタは刀でガード取るが、天使が手に持った2本の片手剣によって、彼の腹部は突き刺されてしまった。そしてその衝撃により、カンダタは地面に叩きつけられた。


「ゲホ!ゲホ!くそ……!」


 吐血しながら、カンダタはその天使を睨む。金髪の髪、190cmはあるであろう長身。こいつ、まさか……


「四大天使か!」


「その通りだぜ、反乱軍。俺の名はガブリエル。さあ、やろうぜ?」


 ニヤリとガブリエルは笑顔を浮かべると、カンダタに襲いかかった。

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