第86話
左の通路は、右の通路と同じくらいだと思っていたのだが、100mほど進むと通路が右側に折れた。それにしても広いな……通路の途中に部屋がなかったことも気になるが、左右の作りがここまで違う建物も不思議だな。
まぁ、目的をもって作られた建物で、左右どちらかに寄った場所の可能性もあるが、そうだったとしても、なんで部屋がないのかは不明だ。
アルファは気になったので、ナビィに質問してみた。
こっち側の通路って、本当に部屋がなかったのかな?
『少なくとも私が感知できる範囲では、歩いてきたこの通路には部屋わなかったわ。ここが旧世界の研究所のように機密が高い建物だった場合は、私にも感知できない場所はあるかもしれないです』
ここが研究所ということはないだろう。もし正規の研究所であれば、まがい物なんて使わないだろう。使われている機材は、信頼性が求められるからな。
となれば、この通路には部屋はなかったのだろう。そうなると、どうしてこんな長い通路がただあるのか……
探索中、アルファは考えることしかできないので、細かなことを考えていることが多い。エコーの操作とは別に、暇な時間が多いからだ。
リュウはそんなこと関係なしに、今まで覚えた技術などを駆使して探索を続けている。
エコーに全く反応がなく、どん詰まりまで到着した。
「ナビィ、この通路は崩落しているよな? この通路の先に、重要な設備みたいなものがあるか?」
リュウが、ナビィに気になったことを聞いている。
『訓練には関係ないから言うけど、この先には昨日は停止しているけど、動かせる遺物があるわね。衣服関係の装置なので、需要があるかわからないけど、個人が使っていたタイプの小さなものね』
旧世界の時代の個人経営の衣服店? 手作りに価値を持たせている服とかもあるけど、デザイナーってことはないだろうから、ますますこの建物のことが分からなくなった。
リュウは少し悩むが、自分たちの利益になるモノではないので、放置することに決めた。ここに来たのは調査であって、調査できないエリアのことは、ここに後からくる調査員なり発掘員が何とかすればいい。
それで発見されなかったら、改めて自分が発見しにくればいいだろう。それに今苦労して発見しても、ほぼすべての権利はハンターギルドに持っていかれるからな。
探索依頼で遺跡に着ている場合は、発見したほとんどの物がハンターギルドの物となる。例外はあるが、稀なケースなので今はいいだろう。
発見物によってはインセンティブがあるが、そこまで多いものではない。話を聞く限り、稼働させることが可能な遺物が、この先にあるようなので、自分の取り分になる時に来ればいいとリュウは考えたのだ。
アルファもその考えには賛同した。俺たちが発見した遺物で、この街のハンターギルドはかなり儲けているので、これ以上無理に渡す必要もないだろう。
「ナビィ、確認だけど、この崩落って人為的なもの? 災害的なもの? どっちか判断できそうな情報ってあるかな?」
しばらくすると、
『2つの要素が重なったともいえそうです。もともとは、人為的にこの通路を壊したような形跡がありますが、壊した後に何かしらの災害があり、この通路の被害が増えたような形跡があります』
リュウは何かを感じたのか、この崩落が人為的なものではないかと考えたようだ。それがナビィの補足で当たったことを確認した。
リュウは原因を考えただけであり、その過程や先に何があるかなど、全く興味がない感じだな。
アルファは反対に、原因はどうでもよく、そこに至る過程や先にある物が気になり始めている。
主導権を持っているリュウは、そのまま探索を再開し、初めの十字路へ戻っていく。
どうせ考えるだけなら体の主導権などいらないので、アルファはエコーのサポートをしっかり行いながら、あの先について考えていた。
リュウが十字路の左の通路の探索を始めて2時間……右の通路と前の通路が簡単に調べ終わったので、左もモンスターがいるだけでそう広くないと考えていた。
出てくるモンスターはウルフだけなのだが、今倒したので7匹目だ。
立て続けに10匹くらいに襲われた遺跡よりはましだが、あの遺跡にいたモンスターより、何か賢い気がする。
仲間を盾にして突っ込んできたり、死角に潜んで攻撃してこようとしたりと、手を変え品を変え7匹に襲われた。
頭がよく感じるのもあるが、何か統率された動きのように思える。
装甲ウルフ以外にも、進化種や上位種がいるのか?
「ナビィ、こんなところで悪いが、今すぐに調べられる範囲で、モンスターの上位種や進化種によっては、通常種の動きを制御出来たり、予想もつかない連携をとるような奴の事例がないか調べてほしい」
リュウにお願いされたナビィは、1分ほどで
『リュウの言うような事例はなかったけど、モンスターは住む場所によって、思考回路の作りが変わるようで、人の生活環境に近くなると何故か、賢いモンスターが多いような気がする、という報告がいくつかありますね』
どうしてそうなるのかまでは分からないが、人の環境に近い場所に生息していると、どういう理屈か賢くなるモンスター?
シリコン生命がとりついたモンスターだからと言って、意識を共有しているわけでもなく、場所によって進化の仕方も変わっている。だけど、最低ラインのモンスターは、どこでも変わらない性能だったりする……
モンスターの繁殖って生殖なのか? 無性生殖なのか? どちらなのだろうか?
普通に考えれば、無性生殖のように分裂をしているとは考え難いが、シリコン生命の干渉によって可能な気もする。
分裂の際に、能力が初期化されていれば、極端に賢い個体がいない理由にはなる。強化種なども分裂をするのであれば、もっと上の種が少ないのも納得できる気がする。
分裂のサイクルの前に、必要以上に経験値を得た個体が、進化するような感じだな。
アルファは、ゲーム的な考えで、そんなことを考えている。
アルファが8匹目のウルフを倒すと、状況が変化した。
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