第83話

 通路の後ろ側にも意識を割きながら、通路の先を見守ること5分……


「さすがに、これだけ待っても来ないなら、このタイミングでは襲ってこないな。たんなるウルフは、持ち帰ってもお金にならないので、討伐証明の犬歯だけ持ち帰るか」


 一応、口報告だけでもいいのだが、各モンスターには討伐証明部位が存在していて、それを持っていくことで討伐が証明されるシステムだ。


 フリーで間引きをするときには、その証明部位で報奨金が出るのだが、こういう探索クエでは報奨金が出ないので、報告だけで済ませることが多い。


 ナビィから訓練を受けている立場なので、今回は討伐証明まで取ってギルドへ報告する形になったので、証明部位を取っていく。


 ウルフの場合は、上の犬歯が左右1対で1匹の討伐の証明になる。強化種や進化種の場合は、通常のウルフにない部分を持ち替えることで、討伐証明になる。


 銃などがついているウルフは、その銃の部分を持ち替えることで、討伐が証明されるという形だ。


 ファンタジー小説にあるように、討伐部位をもっていけばお金がもらえるわけではないようだ。


 エコーを使っているので、ウルフを倒した部屋には他にモンスターはいないことが分かっているが、倒した後なので緊張している。


 討伐部位に関しては、これ自体に価値があるわけではないので、扱いが多少雑になっている。


 簡単に言えば、強化外骨格を身に着けているリュウなので、上顎を左手で固定して、右手の人差し指の第二関節と親指で犬歯を挟み、手前に力いっぱい動かすことで犬歯を取ることが出来る。


 この時に、健康な個体で顎が頑丈だと犬歯が折れたりするのだが、これでも価値が下がらないので、これで十分だ。


 強化外骨格がない場合は、ナイフで犬歯の周りを削るか、ハンマーで犬歯を叩き折るか、ペンチのようなものを使って犬歯を抜くか、大体がこの3択になるのだとか。


 ナイフは持っているけど、使うと手入れが大変なので、強化外骨格のパワーアシストを使って折る方がまだ効率的だな。


 遺跡であれば、旧世界の建物の中ってことだから、隠し通路のようなものは無いとは思うが、こうやってモンスターが出てくると、隠し通路があったりしないか心配になってくる。


 遺跡で注意する点は、掃除用ロボットやアンドロイドが普通に働いていた時代が旧世界だ。ロボットやアンドロイド専用の通路が、隠し通路のような役割を果たしていることが多いので注意が必要だ。


 エコーでは隠し通路を見つけられないので、リュウは慎重になっている感じだな。


 ナビィにはすべてが見えているようだが、訓練と銘打った今回の探索では、よほどの危険がない限りは、教えてくれない。


 犬歯を1対取った後、さらに奥へと進んでいく。


 体の操作や探索はリュウに任せきりなので、アルファは比較的ヒマである。


 まぁ、エコーからくる情報を処理しているのは、アルファなので役には立っているのだが、それだけと言えばそれだけだ。



 ナビィ、この装置ってこちらから干渉して、出力を変えることが出来たりするのかな?


『ちょっと待ってください』


 アルファが質問すると、ナビィが装置について調べ始めた。


 アルファが考えているのは、出力の大小で壁の向こう側を調べられるようにならないか? とか、出力の波を変えてもっと使いやすくならないか? とかを調べたいということだ。


 しばらくすると、


『一応、干渉は可能なようですが、その方法は説明書には載っていませんでした。どの程度干渉できるかは、使用者によって全く異なるようです』


 最大出力で安定して使える人がほとんど干渉できないのに、ギリギリで使用できている人が簡単に干渉が出来たりするので、旧世界でもよく分かっていないことらしい。


 使える人間からすれば、体に影響がないのなら便利だから使うよな。


 スマホのソフトウェアやハードウェアについて知らなくても、便利だから使っているのと大した差はないかな?


 通路を進み、いくつかの部屋を調べていると、最後の部屋とその部屋からしばらく進むと、天井が崩れて埋まっている通路だ。


 この先にも何かがあると示唆されているが、今回の依頼はこの穴……繋がっている遺跡の探索で、道がない所の先まで調べるというものではない。


 こういうのはギルドに報告をして、ギルドが判断することだな。


 最後の部屋には、おそらく2匹ウルフがいるのだが……1ヶ所だけ不自然な感じがする場所がある。その不自然の原因が分からないので、リュウもアルファもどうするか悩んだ。


 痛い出費だがリスクを減らすために、グレネードを部屋の中に放り込んで様子を見ることになった。


 グレネードを部屋に放り込み、半分壊れている扉を強引に閉める。


 グレネードが放り込まれた段階でウルフたちは動き出しており、扉を閉めることで同時に攻撃されるリスクを下げた。


 扉から離れて、通路を少し戻る。


 隙間がるとはいえ、扉を閉めてしまったので、エコーを使っても中の詳細は分からない。


 扉を閉めただけなら、その扉を壊して出てくるだけの知能を持ち合わせているのに、出てくる気配がない……


 再度見に来る瞬間を待っているのか、グレネードで動けなくなったのか……判断に困るな。


 扉の近くに寄って、思案する。


 アルファは、ナビィに再度エコーについて質問をした。


 エコーロケーションをする際の音波はどこから出ているのか……というものだ。


 装置から出ているなら、出力は一定なはずなのだ。だけど、強化外骨格のようなものに接続しないと使用できないとなると、装置自身からではなくつながった物から出しているのではないか? と考えた結果の質問だ。


 10秒もしないうちに、答えが返ってくる。


『強化外骨格やアーマーに干渉して、全体から発信し全体で受け取っているようです』


 ということは、今の俺たちの場合なら、強化外骨格が蝙蝠でいう超音波の発生と耳の役割を果たしているってことだよな。


 思いついたことを試してみる。


 指を扉の隙間に突っ込んだ。



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