第73話

 アルファの認識では、視界がぶれた後、戦闘態勢に入ったところまでは認識しており、その後の記憶がなかった。


 記憶がないというよりは、動きが早すぎて主観視点認識できなかった……というのが正しいと思う。


 目まぐるしく視点が変わった後、見覚えのある顔が床からこちらを見ており、その眼には憎しみがこもっているのが分かったという感じだ。



 アルファは、大きな声がした後、危険を感じ敵の攻撃から逸れるために体を引いた。


 その後、首があったあたりを黒光りした何かが通り過ぎたを確認する。


 黒光りしたものが何か認識はできなかったが、首を攻撃してくるあたり殺意が高いと判断し、次の行動へ出ていた。


 アルファが認識でき、記憶に残っているのはこのあたりだ。


 次の行動をとったリュウの動きは早かった。


 首のあたりを通り過ぎたものが、黒いナイフを順手で持っていた手だと分かり、返して攻撃をしてきたので、ナイフを避け腕をつかみ力任せに床へたたきつける。


 たたきつけると同時に、相手の右腕をつかんでいた自分の左手を天井へ持ち上げると同時に、敵の右肩を左足で踏み抜き肩を脱臼させた。


 流れるような動きで、肩にかけていたカスタムFLAR-11を右手に持ち、銃口を敵の口に押し入れていた。


 アルファが認識できたのは、このあたりからだ。


 俺たちのことを、殺してやる! と言った強い意志を感じる目だ。このまま放っておけば、また俺に攻撃を仕掛けてくる可能性が高い……


「リュウ! マテ! ここで殺すとなると、向こうが悪くてもこっちが犯罪者として裁かれる可能性が高い。明確な殺意があったとしても、この状況を解決するのは、第三者であるべきだ。このまま第三者が来るのを待とう」


 今にも引き金を引いて頭を吹き飛ばしそうになっていたリュウが、アルファの声でなんとか踏みとどまった。


 スラムに住んでいた人間からすれば、殺されそうになったけど回避して、状況が逆転したのであれば、こちらが命を奪っても問題ないという認識なのだ。


 あそこは、死が日常化しているから、それでも問題ないのだが、ハンターギルドの中となれば、話が変わってくる。


 こいつらのグループが評判が悪かったとしても、それなりの数がそろっている。街の中には、こいつらを重宝して使っていた、上層部の人間だっている。


 俺には、後ろ盾と呼べるモノはいない。


 ここでこいつを殺すと、高い確率で正当防衛であるが、過剰だったと判断され、俺が犯罪者となる未来が訪れてしまう。これは、ナビィが教えてくれた、街のパワーバランスの話の中にあったものだ。


 俺が考えなければいけないのは、こいつを犯罪者として裁いてもらうか、ここで殺しても問題ないと判断させる何かが起きることだ。


 ここまでして、お咎めなしは絶対にありえない。そんなことをすれば、こいつはまた俺を殺しにかかってくる。ナビィの能力があるとはいえ、こいつを警戒し続けなければいけないのは、割に合わない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 俺がどうするか悩んでいる間に、待望の第三者が来たようだ。


「そいつは、今の仕打ちを受けるに値することをあなたにしたと思うが、殺されるようなことをしたわけじゃないだろ? だから、離してくれないか?」


「……第三者かと思ったら、こいつの関係者か……今の言葉は理解できなくもない。だけど、こいつは明確に俺を殺そうと、ナイフを抜き俺の首を狙ってきた。俺が殺しても、文句は言えないと思うが?」


「確かに、すぐに殺していたのなら、正当防衛で処理されたかもしれないが、制圧した後に引き金を引いてしまえば、それはただの殺人だ。だから話してくれないだろうか?」


「あんたの言っていることは、おそらく正しいが、こいつを開放することはできない。今は制圧しているが解放したと同時に、あんたらが俺に襲い掛かってこないとは言い切れない。だから、公平に判断してくれる人物が現れるまでは、開放は無理だ」


 おそらく、こいつがいたであろう場所にいた、今俺に声をかけてきている男が、こいつのお守りをしているのだろう。


 こいつはまだいい。それよりも気になるのが、こいつと一緒にいたと思われる、こいつと同年代の男女合わせて4人だ。


 この4人は、すでに銃へ手が伸びており、銃は構えていないがワンアクションを起こせば銃を撃てる体勢になっていたのだ。こっちを殺そうとしている目だ。スラムでよく見た覚えのある、殺意のこもった目だ。


「そいつにそんなことはさせない。そんなことをしようとしたら、俺の責任でこいつの頭を弾くから、今は離してほしい」


「それはできない。あんたも少しは周りを見ることをお勧めする。俺の言っていることが、少しは理解してもらえると思う。俺からすると、こいつは犯罪者ではあるが、人質に近い状況でもあるんだよ」


 お守りの男は、目の前のことしか見えていないのは明らかだ。お前の後ろで、こっちを殺そうとしているやつが4人もいるのに、こいつを話すわけないだろうが。


 ナビィの分析では、銃を構えようとしているやつら4人の銃弾を1マガジン分撃たれても、アーマーのエネルギーが切れるだけで、強化外骨格のエネルギーまでは削りきれないとのことだ。


 中に入っている弾丸まで調べ、最終的にはこちらが勝つことまで視野に入っていた。


 強化外骨格を着ているとバレるのは避けたいが、負けることがないと判断できているから、ここまで余裕をもっていられるのだ。


 そういわれた男は、慌てて周りの状況を確認し、知り合いのハンターに自分の後ろを見るように、ハンドサインをもらって振り向く。


「!!!」


 おそらく、自分がどれだけ的外れなことを言っていたのか、この時に理解したのだろう。声にならない叫びをあげていた。



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