第70話

 軍人たちからは的は見えておらず、やみくもに撃っているように見えて、何か目印になるようなものを狙っている感じが、変な奴だと思わせているみたいだ。


 リュウには聞こえていないが、俺にはナビィが拾ってくれた音声が届いているので、何を話しているかまでばっちりとわかっている。


 その中に、的もないのに何で正確に射撃しているように感じるんだ? といった内容があり、それに対して少し気味悪がっている感じだ。


 だからと言ってこの程度の変わり者なら、ハンターにはたくさんいるので、変な奴で済んでいるっぽいな。


 これで、近距離戦をやる始めたら、本格的に気色悪がられるので、やらせることはないだろう。


 ナビィもそれが分かっているので、的として動かしている。近くまで近づいてこないだけで、100mほどまでは近付いてくるので、近付いてくるモンスターへの銃撃の訓練もできている。


 300発ほど撃ったところで、リュウが銃を持ち替えた。


 おや? 通常弾の入っている、元々持っていたFLAR-11に持ち替えて何を?


「ナビィ、設定は同じでこっちでも射撃訓練をしたい」


 ということらしい。


 ナビィは問題ないと判断して、設定をいじることなく訓練が継続した。


 ん~、持ち替えた時は、何発か上手く撃てていない感じだ。弾道が微妙に違うだけなのだが、その誤差が何か納得いかないらしい。リュウって凝り性なのか?


 感覚が戻ってくると、銃を持ち替えて撃ち、それを何度も繰り返している。


 軍人たちから見れば、カスタムしているとはいえ同じFLAR-11なのに、持ち替えて何をしてんだ? という感じだな。


 唯一、中での訓練が終わったのか、報告を聞きに来ていた軍人だけが、使っている弾丸によって違いがあるから、その癖を覚えているんだろう、と小さな声で言っていた。


 分かる人には分かるんだろう。そう考えると、中で訓練している軍人と、門番をしている軍人では、戦闘技術に大きな差がありそうだな。特殊部隊の人みたいな感じかな?


 軍人たちの評価は、正直どうだっていい。ここで訓練をできるなら、最底辺でも問題ないと思っている。


 今日だけで600発近い弾丸を消費した。


 リュウ的には、消費した弾数に見合った訓練ができたと思っているようだ。


 ナビィの評価も概ね、同じような感じだ。


 違いがあるとすれば、リュウは自分に厳しいのか、少し自分のことを酷評している気がする。俺から見れば何が違うのかすらわからないが、リュウにはここが! という明確な点があるみたいだ。


 昼をはさみ4時間ほど射撃訓練をしていたのだが、普段は午後から行っている射撃訓練なので、その帰りよりはるかに早い時間帯だ。


 訓練用の弾丸は450発ほど、通常弾を150発ほど撃っているので、通常弾を使った分だけ補充しておかないとな。


 帰り道は、いつも通っているシルバーブレッドへ顔を出す。



「連日来てくれる、常連さんだね。今日はどうしたのかな?」


「訓練で銃弾を使ったから、それの補充です」


「訓練用の弾丸は、あれだけしかないから、ほしいなら取り寄せになるけど?」


「いえ、通常弾を150発ほど撃ったので、その補充です」


「通常弾150発ね、今準備するからちょっと待ってて」


 銃弾のしまってある場所へ移動して、150発分の通常弾を出してくれている。


「特殊弾の訓練用では、銃を撃たなかったのかな?」


 弾の数を数えている間に、お姉さんは疑問に思ったのか、質問してきた。


「訓練用の弾丸も450発近く撃ってますよ」


「訓練で600発近くも撃つなんて、珍しいわね。しっかりと訓練しているほうが、いざという時の生還率は高いから、間違いではないけど……お金のほうは大丈夫なのかしら?」


 物を売る側なのに、俺の懐具合を気にしてくれているみたいだ。


「銃やアーマーは、偶然見つけた遺物が高く売れたから想定より早く買えたし、訓練用のお金もその余りで問題なかったですからね。それにこの前の依頼で、突発的な依頼変更があったから、その分のお金もたくさん入っていますから」


 あらかじめ作っておいたカバーストーリーをお姉さんに伝える。


 カバーストーリーとは言ったが、嘘は言っていないのがミソである。


「あかね。その小僧は大丈夫だ」


 裏から現れた店主が、俺たちに太鼓判を押してくれている。


「ほとんど話していないのに、この子のことは信用するんだね。お父さんにしては珍しい。お父さんが信用しているなら、これ以上は心配しないけど、気を付けることだけはしっかりするんだよ」


 というか、このお姉さん、あかねって名前なんだ。知らなかったわ。俺が名前で呼ぶことはないだろうから、気にしてもいなかったけどな。


 店主がちらっと俺のほうへ視線を向け、装備を見た。お姉さんに見えないようにサムズアップしているので、この装備の加工をしてくれたのは、店主だったみたいだな。


 今度ギルドマスターに聞こうと思っていたことだけど、ここで判明したか。


 改造をしてくれた店主ってことは、俺がアーマーの下に強化外骨格を着込んでいることも知っているだろうな。何せ、同じ人が加工してくれているわけだからな。


 ギルドマスターからは、なんて話を聞いているのかわからないが、娘さんに内緒にしてくれるくらいには、詳細を聞いているのかもしれないな。


 お姉さんは父親の目利きを信用しているようで、先ほどまで心配していた姿とはうって変わり、商人としての顔に戻っていた。


 こういう生死が近いお店で、客を心配すると心が持たん気がするけど、大丈夫なのかね? 昨日まで元気にしていたのに、今日には死んだり手足を失ったりするような世界だぞ。


 そこは、俺が気にすることでもないか。


 店主がカスタムしてある方の銃を、分解して整備する方法を教えてくれた。


「お父さんが直々に教えるなんて、本当に気に入られたみたいだね。お父さんは甘くても、私は甘くないからね! あんまり甘やかしたらダメだからね!」


 お姉さんが店主に向かって、おかんか! と思うようなことを続けて言い放っている。



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