第69話

 軍の施設に到着し、入り口で射撃訓練をしたい旨伝える。


「最近の若い子には珍しいな。お金がない時代に射撃訓練は難しいが、お金不足が解消する頃にはビギナーを卒業して、射撃訓練なんて必要ないっていう子が多いのにな」


 手続きをしてくれている間に、俺以外の同年代のハンターの話をしてくれた。


 ナビィに言えば調べてくれるだろうが、わざわざ調べてもらう必要もなく、知る必要もないと考えていたらから、どんな行動をとっているのか初めて知ることが出来た。


「自分もお金に余裕がなければ、ここにはこれませんよ。たまたま掘り出し物の銃を手に入れて、訓練用の弾丸も運よく安く手に入れられたので、調整も兼ねての射撃訓練です」


「……このエリアで、新人時代にお世話になるハンターや軍人が多い、FLAR系統の銃だな。みたところ11とそのカスタムの2丁か。費用対効果を考えると、カスタムは割に合わないが掘り出し物ってことは安かったのか?


 メーカー修理はできないから、信頼できるメカニックか、ある程度自分で修理できるようになっておいたほうがいいぞ。FL系統にかかわらず基本的な構造は同じだかな。その中でもFLAR-11は、教本みたいな銃だから勉強になる」


 入り口のおっちゃんは、暇なのか銃についても話してくれた。


 許可が下りると、場所の指定をされ、撃っていい方向の指示がされる。


 許可が下りた場所は、軍の施設の入り口……今おっちゃんと話していたところからすぐだ。


 施設の内部ではなく施設の外で、外壁に沿って撃つように指示があった。入り口の軍人から見える位置で撃つようにとも指示がある。


 入り口では、荷物の搬入や俺たちみたいなハンターの対応しかないようで、分かりやすく暇をしているのが分かった。


『リュウ、的を物理的に用意はできないけど、私のほうでいくつか準備するから、それを狙って撃つようにして』


 開始の指示が出ると、リュウは初めにカスタム銃の確認を始めた。昨日の夜に確認はしているが、訓練の前にしっかりと再確認をするようだ。


 目標となる的は、500m以上離れており、ナビィの視覚サポートがなければ、米粒より小さく見えるウルフがいる。


 新人ハンターにこの距離での射撃はないが、中級にさしかかればこの程度は簡単にやってのけるハンターは多いそうだ。


 ナビィがしてくれる視覚補助を、補助用の機材を使って行い、正確な銃撃を行うようだ。


 新人が同じ装備を使えば、同じようなことが出来るかと言われれば、否である。


 名刀でも使う人間に技量がなければ、切り裂くことはできないのと一緒で、必要となる最低限の技量がなければ、どんなものも扱えない。


 そういう意味では、俺たちは非常に恵まれている。


 アシストしてくれるナビィが、優秀ということもあるが、ナビィが訓練の仕方なども教えてくれて、効率的に訓練ができているので、リュウの技量がものすごい勢いで伸びている。


 技量だけでも実戦経験がなければ、タダの的になることもあるので、そこら辺の訓練も最近は始めているのだとか。何が違うのか俺にはよくわからないが、的にならない訓練というのもあるらしい。


 アルファは、リュウとは違うナビィからのアシストを受け、俯瞰視点で様子を見ている。リュウが撃った場合は、その弾道も表示されるようにお願いしている。


 リュウは、今まで500m以上先の的を狙ったことがない。450mほどが最大だ。命中率は3~40%と新人としては高いのか低いのか微妙だが、中級ハンターなら70%を超えてくることから、低いと考えるべきだろう。


 集中したリュウが撃った弾は、的の右側に逸れて彼方へ飛んで行った。


 的からの誤差は2mちょっと。500m以上離れていることを考えれば、かなり近いと思うがこの世界では、はずれははずれなので価値はない。


『リュウ、相手が動いているからと言って、銃口を動かすと大きく逸れてしまいます。的までの距離がおよそ600mなので、銃口が1度変わるだけで10mは変わることになりますので、注意してください』


 1度で10mなら、2mはかなりの至近弾なのでは?


 というか、1度の誤差でそんなにズレるなら、500m以上の長距離射撃って、補助機械のサポートがあっても厳しんじゃないか? どうやって当ててるんだ?


『超人という例外を除いて、強化外骨格や義体のアシストを受け、サポート機材の補正を使い命中させます』


 リュウは、強化外骨格のアシストは受けているけど、補正は自力で行っているので、2mでも十分近くないか? ナビィは、射撃のような場合のサポートはできないって言ってたから、自力でやってるんだろ?


 アルファには考えられない世界だ。


 何発か撃ったところで、のびる弾丸の癖をつかめたのか、さらに的までの距離が近くなってきている。


 撃ってから着弾まで半秒もないのだが、それでも偏差を考えて撃たないと当たらない。徒歩程度の速度だったとしても、その半秒で50cmは動くのでそれらを考えて撃つ必要がある。


 中級ハンターは、機材のサポートを受けて可能になり、上級ハンターは経験則で撃って簡単にあててくる。強化外骨格や義体のアシストだけで、簡単にあてるそうだ。対象が走っているような速度でも……


「ナビィ、リュウには初級中級を超えて上級ハンターの身に着けるような技量を、強制しているのか?」


『強制しているわけではありません。機材も高いので今すぐの購入は、難しいと思います。できる範囲での訓練をするのであれば、機材を使わず強化外骨格だけできるものを選ぶと、自然とこの形になってしまうのです』


 言いたいことは分かったが、訓練として成立するのか謎だった。


 それでもリュウが的に当て始めてからは、間違っていないのだと思い始めたが、入り口からこちらを見ている軍人たちからは、妙な奴だと思われている節がある。



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