第67話

 ナビィがいくら調べても、スラムで配布されている食料は、一種の人体実験ではあるのだが、詳細を探し出すことはできなかった。


 危ない成分が入っていたり、変化を促すような成分が入っていたりするが、そういう成分というだけであって、具体的にどのような変化が起こるかまでは、調べられていない。


 可能性として残されたのは、完全にクローズドのエリアに情報が隔離されているか、そもそも何も考えず他の街や企業から教わった成分を混ぜているか、のどちらかだろう。


 あの食事がある程度危険であることは、街の上層部も把握しており、危険な成分が混ぜ込まれていることも知っているので、誰かの独断で行われたものではない。


 上層部の人間とは言え、それなりの数の人間がこの情報を知っていることから、詳細を隠しているか、本当に何も知らずに人体実験をしているかだ。


 何も知らずというと語弊があるが、超人計画の一種ということらしいことまでは、上層部の人間も知っているわけで、危険な実験であることも理解はしている。


 だけど、自分に関係なく、街の資源を食いつぶすスラムの人間でするのなら、特に心も痛まずに実験できるというものなのだろう。


 スラムの人間はそれを知ったところで、大半のやつが飢えをしのぐために、その危険な配給される食糧を口にするだろう。


 お腹が本当に空いたときのあの感覚から抜け出せるくらいなら、危険な食糧でも口にするだろう。俺だって、明日から食い物がなくなると分かれば、あのブロックバーを食べるだろう。


 今はお金があるので、わざわざ食いたいとは思わないけどな。だって、露店の食事、ブロックバーと比べ物にならないくらいうまいからな。



 現状でリュウの特殊能力の詳細を把握することなど無理なので、リュウには発射された弾丸が認識できている、という前提で話が進むことになった。


 で、初めの弾道がのびる、という部分に焦点が当てられ、詳細を聞くことになった。


「通常の弾より、弾丸が落ち始める距離が、遠いんだと思う。だから弾道がのびる感じがするんじゃないかな? 通常の弾と同じように撃つと、若干上に当たる感じがする」


 リュウの説明を聞いてナビィはすぐに、通常弾と貫通弾の弾道を立体的な映像で映し出してくれた。


『リュウが言ったように、火薬の量や弾丸の特殊な加工により、このような放物線を描きます。のびたと感じられるのは、指摘の通り落ち始める距離が遠いからでしょう。


 普通の人であれば、そんなことは考えず少し上に当たるかな? くらいの感覚なはずなのですが、リュウには弾丸が見えているようで、伸びる感じがするのでしょう』


 リュウが必要であれば、撃ち出す前に弾道予測した線を出すと言っていたが、リュウはそれを拒否していた。訓練でできるようになることを、わざわざアシストされたら、訓練の意味がなくなる……だってさ。


 常に弾道を表示できていたとしても、今度はそれに頼る戦い方になりそうで、いやだと感じているようだ。お金には余裕があるし、自分でできることは自分でしたいということらしい。


 戦闘においては、余計な情報がストレスになっている可能性も高い。索敵機械を導入したときに、リュウがどのように反応するか気になるところではある。


 アーマーの反動軽減のために1マガジン分撃ったのだが、リュウが訓練を続けたいと、後3~4マガジン分は撃ちたいだってさ。


 特別報酬の件もあるから、そのくらいなら問題ないな。



 ハンターギルドには、2度の延長を申し出て、1時間半も射撃訓練をしたことになる。


 通常であれば30分1セットで、1~2セットが通常の訓練となるが、その時間を越して訓練をしていたので、ギルド職員に心配されたが、大丈夫だと言い張り切り抜けた。



「その銃の試し撃ちにしては、使った弾の数が多いけど、何かしたのかな?」


「いえ、通常の弾丸と差異があったので、慣れるために弾を多く撃っただけです。思ったより感覚が違って、通常弾ほどの命中が出来なかったので」


「どんな訓練をしているんだろうね。通常弾と貫通弾であれば、300m付近まで弾道に大した差はないはずなんだけどね。着弾までの時間は多少変わるけど、早いのなら問題なく当たるんじゃないのかな?」


 俺たちの訓練の様子が気になったのか、雑談を絡めながら今日使用した弾丸の準備をしてくれる。


 自分たちでもよく分かっていないが、そこらへんは感覚なのでうまく答えられないと返している。


「そうだ。君の持っているカスタムされたFLARー11なら、マガジンに複数の特殊弾頭を入れている人が多かったみたい。その銃で使える貫通弾と発火弾が相手にする敵は似ているけど、特性上ダメージの与え方が違うの。


 交互にセットすることで、貫通弾が当たってめり込んだ場所に発火弾が当たれば、普段より内部が破壊できる。逆に発火弾が当たった装甲はもろくなりがちなので、貫通弾が貫けるみたいな感じになるわ」


 同じ弾を撃ち続けても効果はあるのだが、混ぜることで少し上のモンスターにも対処できるようになるんだとか。


 ナビィの検索でも、実験結果で示されているみたいで、推奨してきた。


 念のため、貫通弾と発火弾を同数にするため、900発を買うことにした。


「えっと、こちらから進めておいてなんだけど……貫通弾が補充分の270発と発火弾900発となると、かなりの金額になるけど大丈夫?」


 およそ1300発分の弾丸となれば、それなりの金額になる。通常弾でさえ13万近くなるのに、強化弾より安いとはいえ、特殊弾もそれなりの値段だ。


 まぁ、50万弱ほどの値段なので、特に問題はない。この前の依頼がなければ、買うとどこから出たお金だと言われそうだが、100万以上も特別報酬がついているので、購入しても問題はない。


「お父さん! ちょっといい?」


 お姉さんは、カウンターに俺を残して、店主である父親に何かを聞きに行ったみたいだ。


 すぐに戻ってきて、


「練習に特殊弾を撃ってたんでしょ? だったら、練習用の弾があるから、購入してくれたお礼に、それも1000発ほどつけてあげるわ」


 いくらか聞こうとしたところ、弾丸の支払いは済んでいるのだが、練習用の弾などいらないと言って、不良在庫になっていた弾を、俺に譲ってくれるらしい。


 地味に幅を取っているので、持って行ってくれると助かるんだとか。


 お言葉に甘えて、練習用の弾丸を受け取った。



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