第66話

 ブローカーってすごいんだな。特殊な弾丸なのに取り扱ってるんだってさ。こういうのって、売れない在庫を多く抱えないようにってイメージだったけど、それでも売ってるんだな。


 売れないから買い手となり得る俺に、弾を買ってもらおうとしているのかね?


『あの手の弾は、本来注文が入ってから取り寄せる形で、必要な分だけ取り寄せるので、割高になってしまう傾向が高いようです』


 ナビィの検索では、この街に40近いガンショップがあるなか、特殊な弾丸を置いているのは、シルバーブレットと他3つのショップだけだそうだ。


 シルバーブレッドと他2つは、似たり寄ったりだが、提携している企業が違うようで、住み分けしている感じなんだとか。


 では、最後の1つは……というと、正規のガンショップではないのだが、アングラな場所からも仕入れている、この街トップのガンショップらしい。


 正規じゃないのに街でトップになれるとか、相当な実力者なんだろうか?


 気になるが、知っても良いことはなさそうなので、今のところは放置しておこう。


 家について、帰り道で考えていた疑問をナビィに質問してみた。


「カスタムFLARー11に入っている貫通特化の銃弾と、通常の銃弾って弾道は同じなのか? 少し変わったりするのか?」


『ほぼ同じ軌道を通りますが、ある一定の距離から先は、かなりズレが生じますね。弾速や回転の影響も受けますので、長距離射撃になればなるほど、ずれが大きくなるので注意が必要かと』


「で、その長距離射撃とは、どのくらいの距離のことを言っているんだ?」


『およそ500mほどですね』


「アサルトライフルの有効射程って、大体300m付近じゃなかったか?」


『それは、アルファの時代の話ですね。銃弾を打ち出す反動で、狙えても300mほどというだけであって、500m先でもあてる人はいたはずです。


 今の時代なら、アーマーの効果や銃自体に反動軽減のような機構がある物があり、そのおかげで500m先でも狙うことが可能になっています』


「ってことは、スナイパーライフルじゃなくても、弾道に注意しなきゃいけない距離を撃つことがあるのか……300m先だって、米粒以下なのに狙えるものなのか?」


『そこは、補助する機械なんかのおかげですね。生身で500m先のターゲットを撃ち抜けるのは、超人くらいでしょう。遠距離狙撃に特化した義体でも撃ち抜きますが、生身ではないですからね』


 銃の有効射程距離は、補助機材込みでの距離ということか。俺もアーマーがなければ、反動で100m先のターゲットですら狙えるか怪しいもんな。


「一応、射撃の訓練をしておくべきかな?」


『通常弾に比べれば、火薬の威力が高くなっていますので、アーマーにパラメーターを入力するために、1マガジン分……30発は撃ちたいところですね』


「じゃぁ、明日の射撃訓練で30発は撃とうか」


 明日の予定を決めながらお風呂へ浸かり、銭湯や温泉でしかできないけどやることがほとんどない、縁に頭を乗せ体を浮かせた。


 プールでもやらないけど、海でならプカプカと浮かぶ体勢にはなるかな?


 海でやる場合は、離岸流に気をつけないといけないけどな。陸地から離れる水の流れがあって、気付かないうちにその流れに乗って、遭難してしまうということがあるので注意が必要だ。


 特に浮かんでいると空を見ているので、離れているという感覚がないからなおさらだ。



 そんな贅沢に湯船を使ってお風呂を堪能した後、ベッドで眠りについた。



 今日の座学は、モンスターの領域について、以前より詳しく学んだ感じだ。


モンスターの領域と言っても、入ってきたものを過激に排除するようなものではないが、その領域内で何かをしでかすと、いたるところからモンスターが集まってきて、襲われることになるそうだ。


 今回の件は、モンスターの領域内にある地下の通路を爆破したため、近くのモンスターが集まってきた形だ。


 もし、モンスターの領域の手前まで出会った場合は、爆破の影響にもよるがモンスターが襲ってくることはなかった可能性が高いとのことだ。


 それでもモンスターの領域まで踏み込んで破壊したのには理由がある。


 あのまま領域の手前までしか壊さなかった場合、その穴を修復するかその穴の後を起点に、モンスターが人間の領域を侵食してくる時間が早まるからだ。


 侵食、侵攻を遅らせるためには、ある程度破壊しないと起点になってしまうそうだ。理由は分からないが、過去のデータでそう結論付けられている。


 領域内で破壊行動が起こればモンスターが襲ってくるが、そのために犯罪者の義体に改造済みの戦闘奴隷を使ってまで、食い止めている。


 なら襲ってきても領域の外でて、遠くから見ていれば問題ないかと言えばそうでもない。


 確かに人が襲われることはないが、モンスターが領域の外へ飛び出してくると、その場所が侵食されることがあるため、排除しないと人間の領域が狭まってしまうのだ。


 モンスターを排除する分には問題はなく、放置するにはリスクが高いので、今回は奴隷兵を使って処理したということらしい。


 領域守護者がどう出るかわからないため、実質この街の上の立場である企業に救援要請を出し、超人を呼ぶことになったみたいだ。


 領域守護者まで排除できるかは不明だが、少なくともこれ以上は領域を侵食されないだけの実力を持っている人間ってことらしい。


 今回派遣されてくるのは、重火器を使わない剣だけでモンスターを切り伏せる、狂人って話だっけか?


 どんな人物かわからないけど、極力近寄らないようにしておかないとな。



 午後の射撃訓練で的を撃ったリュウは、首をかしげていた。


 思ったより衝撃があったことに驚きはなかったが、銃弾が伸びている感じがする……と意味不明なことを言っていた。


 えっと……お前さんは、銃弾が見えてるのか? 弾道が多少見えることはあるだろうが、お前さんの話し方だと、弾をしっかり認識していることになるんだが……


 話を聞くと、こいつはマジで弾が見えているそうだ。動体視力が高いいという話じゃなくないか?


『確かにおかしいですね。超人でもない人間に、弾が認識できるはずはないのですが……もしかしたら、スラムで配られている食料に含まれた薬剤が、適応した稀有な成功例かもしれませんね』


 リュウは、スラムの孤児であったが、街の政策によって配給されている食料に、ある種の薬剤が組み込まれており、それに適合したのではないか? ということらしい。


 なんか危険だとはわかっていたが、食料がそれしかなかったから、食べていたあれだよな……人体実験の成功例か。



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