第60話

「夜目がきくって言ったじゃないですか。おそらく特異体質かもしれませんね。猫がどんな景色を見ているかわかりませんが、猫のように暗闇でもしっかり見えていますから、このくらいであれば問題ないかと」


「……そんなもんか?」


 首をかしげながら、俺の目を覗き込んできた。


「今となっては、その能力に助けられているわけだから、良しとしようか。で、ここで待っていたのには理由があるのか?」


「もう少し……具体的にどのくらいかは分からないですが、進んだ先にモンスターの気配がするので、1人で進むよりはリーダーを待って、判断を仰ごうと思っていました」


「なるほど。モンスターの気配か……数にもよるが、可能ならせん滅してもう少し奥まで進みたいところだな」


 リーダーに指揮を任せ、ツーマンセルでお互いの前後を確認しながら、穴の中を進んでいく。


 およそ500mほど進んだところで、リーダーのハンドサインで止まれの指示が出る。どうやらモンスターの気配を正確に探るために、いったん止まったらしい。


 リーダーは3~4匹のウルフがいると判断した。意見を聞かれたので、リーダの意見に賛同した。


 実際は3匹で、1匹が強化種であるため、1匹なのか2匹なのか判断に困って3~4匹と表現したのだろう。


 彼我の距離が100mになったあたりで、リーダーもウルフの姿を確認できたようだ。


「3匹だが、1匹が強化種でサイドに銃ではなく、背中に大きめの銃を背負ったタイプだ」


 初めから俺たちは分かっていたが、リーダーの発言に気を引き締めた振りをする。すでに気を引き締めていたので、振りだけだ。


「こちらから見ると、先頭に強化種がいる。2人で通常弾を10発ほど叩き込み、ノーマルが飛び出てきたら、お前は左側に見えるもの、俺が右に見えるやつを撃つ。とどめを刺したと思っても、多めに撃ち込むようにしてくれ」


 リーダーの指示に従い、先頭の強化種ウルフに10発撃ち込んだ。


 過剰な弾丸の消費だったが、それが指示だったので不満はない。


 倒れた強化種を飛び越えて通常のウルフが、飛び出てきた。


 ほぼ一直線で、どっちを狙っていいのか判断に迷うが、縦に並んでいるのであれば、前にいるほうを撃ち殺してから、後ろを狙えばいいだろう。


 リーダーと俺の判断はほぼ同じだったが、俺が撃ち殺せると思ったのか、抜けてきた時に備えて隙無く銃を構えていた。


 前のウルフを3点バースト2回、6発の弾で沈めた。


「リュウ、こっちからは後ろのやつを狙えない。お前が撃ってくれ」


 先のウルフは、元々玉砕覚悟で突っ込んできたと思われる。


 後ろの仲間に任せて、自分が道を切り開く役目を果たした、


 リュウは、偶然にもこの戦い方を先ほど経験していたので、問題なく対処して見せた。



 俺たちは横に並んでいたため、リーダーからは3匹目のウルフが微妙な角度で狙えなかった。


 すぐに撃てないと判断したリーダーが分かりやすく指示を出してくれたので、こっちは迷わず撃つことが出来た。


 元々、2人で3匹を倒す形だったので、どっちがどっちという決まりはなかった。狙うなら、どっちからみたいなことだけを決めただけだ。


 最後の3匹目は、身を盾にして突っ込んだ2匹目を押すように移動して、俺たちからの攻撃に備えていた。


 だけど、俺のほうからは後ろ足が見えていたので、付け根の部分に2発がヒットする。何とか倒れずにこらえたが、体勢を崩して盾がなくなったため、リーダーの追撃で頭を撃ち抜かれて死んだ。


 やっぱり、上手いな。


 リュウより明らかに銃撃が上手かった。


 ベテランなだけあって、リュウよりも余裕をもって射撃をしている気がする。


 リーダーは、探索用の小型の機材を持っているようで、俺たちよりは解像度が低いが暗闇をしっかりと見通せているようだ。


 視界が悪ければ、射撃に影響が出るのにリュウよりうまいわけで、射撃という面でいえば太刀打ちできそうもないな。いずれはこのレベルを超えられるようにするぞ! みたいに、リュウが気合を入れなおしていた。



「リュウ、分かる範囲でいい、近くに敵の反応があるかお前も確認してくれ」


 訓練の一部なのか自分でも敵を感じられないか試している。



 アルファは、次の敵の位置をナビィから教えてもらっているが、リュウはこの先の情報を渡していないので、自力で感じ取るつもりのようだ。


 そこまで頑張ったとしても、一番近くにいるのはここから1kmは先で、普通の人ではありえない距離だ。



 モンスターの気配を感じ取れなかったリュウは、首を振りリーダーに報告する。


「おそらく、銃撃の音でこちらの存在には気付いているはずだ。それなのに動きが感じられないのは、俺たちの感覚の外側にいるということだろう。


 集音機を使っても、それらしい音は聞こえない。相当遠くにいるはずだ。次の遭遇まで先へ進んで、そこでバリケードを築き追加要因の爆破技師を待つ」


 進めるなら進んで、リスクとリターンが釣り合うところで、敵を待ち受けられるようにするってことか。


 ゆっくりと先へ進んでいき、モンスターがいないかを確認していく。


 20分後にようやくモンスターの気配が感じられる距離になった。


「ここから50mほど先だな。モンスターの気配がある。今回は倒さずに、後続を待つために守りを固める。差し当たって、この位置に爆弾を仕掛けるから、前方を警戒しておいてくれ」


 爆破技師から受け取っていたのか、荷物からパイプのようなものを取り出し、その中に円柱状の細長い物を入れて、壁に押し当てている。


『あれは、爆弾とそれを静かに埋め込むための機械ね』


 何かと思い俺がじっと見ていたら、ナビィが答えを教えてくれた。


『おそらく、この位置から街側の通路を全部潰すつもりです。入り口のほうからは、爆破技師が爆弾をセットしながらこちらへ向かってきています』


 間違って爆発するようなものでもないから、先頭になっても気を付ける必要はないだろうとさ。


 リーダーが爆弾を設置し終えると、爆弾を設置した少し先が見える位置まで下がった。


「状況にもよるが、撤退の指示を出したら迷わず入口へ向かって走れ。途中で爆発させるから、転倒に気を付けてくれ。アーマーをつけているから平気だと思うが、俺の前を走れよ」


 爆風を少しは和らげる盾になるのか、自分たちより後ろを走ってくれるみたいだな。



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