第59話
腕は攻撃において、一番重要となってくる部分だ。この世界の主力兵器は銃……義体化できることを考えれば、重要なパーツとは言えないが、戦闘時に腕を失うことは、死に直結する問題だ。
そのことを考えれば、腕を守ることを考えた装備があってもいい気がするんだけどな……
『強化外骨格でも腕を守れますので、部分的に守る物は多くないようです。あったとしても、需要がないため売れません。営利団体である企業などは、まず作らないタイプの装備でしょう』
なるほどね。部分的になれば技術的に難しくなり割高になる。それを考えれば、依頼されて作ったほうが、リスクが少なくて済むわけだ。
ナビィが、個別に装備作成の依頼を承ります……といった文言の乗っているチラシのようなものを見せてくれ、納得した。
汎用的な強化外骨格は、体に合わせてある程度の調整が必要になるため、余裕の持った設計がされており、体のサイズがわかっていれば、調整はさほど難しくはない。
ない物ねだりをしても、しょうがない。
「腕専用の装備は、また今度考えるとして、アーマーや強化外骨格のシールドがなくても、多少でも守れる装備を身につけたいところだな」
『そういうことでしたら、足を守る物も欲しいですね。部分的に集めていたら、ゴッツイタイプの強化外骨格が出来そうです』
「強化外骨格を隠すためのアーマーなのに、手も足も重たい装備を身に着けていたら、中に着ているのが強化外骨格ってバレるから、軽いものでいい装備があればな……そういうのって、大体が高いから今は無理か?」
ほしいものはあるが、あまり装備を集めすぎると無駄に注目されるから、やっぱりこれ以上の装備に更新するのは、今は難しいな。
「それと気になっていたんだけど、リュウは手袋をつけていないけど、銃から手を守るための装備って必要ないのか?」
『リュウが受けられる依頼で、銃身が焼け付くほど弾を撃つことはないですし、薬莢に触れることもないので、今のところ必要性はないかと』
「慣れもあるし、滑り止めにもなるから、専用の手袋はあったほうがいいと思う。それなら高い装備ではないし、腕が生身の人間なら必須のようなものだから、買っても問題ないだろう」
『正規店で買うと高いですから、ごまかすためでしたら、掘り出し物市の利用もいいかもしれませんね。この街では4と9のつく日に開催されているので、今度見に行きましょう』
あ~中古屋ではなく、そういったものを販売する市があるのか。
4と9なのは、他の近くの街でも開催されているため、日付をずらして開催しているようだ。
そういった市に店を出すことを専門にしている商人たちもいるので、買った商人が知らないだけで、実は値打ちものの商品があったりするのだとか。
ナビィに任せれば、いろんなものの中から価値のある物だけど選別できるので、俺たちに向いている場所なのではないだろうか? 今度楽しみにしておこう。
ナビィとアルファが会話をしている間にも、リュウはずんずんと穴の中を進んでいく。時間にして30分が経った頃に、穴の入り口にいたリーダーの元に追加要因が到着し、ギルド職員にクソガキが渡され連れ帰られた。
リーダーの言うことには反発していたが、さすがにギルド職員の命令には従うようだな。
事情を説明し終えたリーダーは、すぐに穴の中へ入って俺たちを追いかけて穴の中を進んでいる。一応はモンスターの確認をしているが、先に俺たちが入っているので、確認も地上を探索していた時よりは手を抜いているように見える。
俺の姿がなくて戦闘の形跡もなく、横穴らしい横穴がなければ、無理に気を張り詰めるよりは、早く合流するほうがいいだろう。
ちなみに、30分でリュウが進んだ距離はおよそ2km。
数字だけを見れば少ないように思えるが、リュウの歩いてる場所と、並行して訓練をしていることを考えると、恐ろしいほどのスピードで進んでいる。
一般的に時速4kmと言えば、普通の人が歩く速さだと言われている。
その速度と同じスピードで、暗闇の穴の中を拡張現実を使い、訓練をしながら進んでいる。索敵をしながら進めば、歩くよりも遅くなるだろう。
戦闘時に走って移動するわけでもなく、敵に見つからずに進むため、どうしても時間がかかってしまう。
そのことを考えれば、リュウの進行速度は恐ろしく早い。
走ってはいないけど、早く移動している感じだな。ナビィが言うには、強化外骨格のパワーアシストを使っているので、このくらいの速度でもおかしくはないだろうとのことだ。
リーダーはかなりの速度で進んでいるので、10分もしないうちに合流するだろう。
そうなると訓練は終わるし、もう500mも進めばモンスターと遭遇する位置に俺たちはいる。
「リュウ、止まって。ナビィ、ここから100m先まで確認したとして、明かりをつけても問題ない位置は、どこらへんになる?」
『ブラインドが少なめですので、50mほど後ろにあった窪みに光源をセットして、光を遮るように立てば、特に問題はないです』
「リュウ、もうすぐに後ろからリーダーが追いかけてくるから、少し休憩を入れよう。すぐこちらに気付けるように、光を使ってリーダーに合図する」
この洞窟は思ったより光を反射するので、後ろにライトを向けただけでは、100m先のモンスターに気付かれてしまう可能性が高い。
くぼみを使い先に光を通さないようにして、やっと光をつけられる状況だ。
「洞窟は想定していなかったから、光の強い光源しか持ってきてなかったな。それに、別行動になることも想定していなかったし、暗闇を進むときのための装備なんて持ってきてないよな普通……」
暗い所での行軍では、仲間の居場所を把握するために、背中などに淡い光源などをつけたり、こちらの装備に反応して光って見える素材を使っている装備を、身に着けていることがあるそうだ。
背中につけるのは、フレンドリーファイヤを防ぐためともいわれている。
そんな装備を持ってきているわけもなく、この世界にあるかも知らない。
休憩をしていると、リーダーが到着した。
「お前、少し早すぎないか? 40分弱で2300m近くも進んでるぞ? 大丈夫か?」
合流して一声目がそれなの?
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