第58話

 俺がナビィに行った提案は、『通常ではありえない連携や行動を入れ込んでほしい』というものだ。


 俺がリュウに意地悪をしたいわけではなく、本来ならあり得ない行動に対して、すぐに行動できるようになってもらいたいからだ。死ぬことがない訓練だからこそできる方法だな。


 この訓練の意図は、人間に対する突発的な対応を覚えるためだ。


 モンスターとはいえ動物がもとになっているので、行動原理はそう難しくはない。ある程度決まった動きがあり、それに対応するように動けば、リスクは回避できる。


 領域を守護しているモンスターであれば、人間並みの知能を持っているものも多いが、野良のモンスターであれば、リーダーがいようと突拍子のない行動はほとんどとることはない。


 それに対して人間は、時に理解しがたい行動をしてのけることもあるので、モンスターが通常ならあり得ない動きをした時の対処をできるようになっておけば、人間を相手にした時にも生きてくると考えたから訓練をお願いした。



 まだ探索系の機材はないので、自分の能力だけでの探索となる。


 ほぼ一直線ではあるが、穴の中は凸凹しており先が見えない場所もある。鏡のようなものがあれば話は変わるが、今回は持ってきていない。


 静かに通路の先を確認して何もいないことが分かると、進んでいく。


 いくつかのブラインドがある場所をつけると、1組目のウルフ型モンスターが現れる。


 3匹は何かを警戒するように、鼻を上に向けクンクンの匂いを嗅いでいるように見える。


 オオカミがモンスターになったせいか、臭覚に対する感度が下がっており、反対に聴覚や視覚などの能力が高くなっているのに、不思議な光景だ……とリュウは感じた。


 これもナビィの能力によって、本来のオオカミの生態に近いものになっている。



 ウルフもオオカミも同じ意味だが、アルファはあえて使い分けでいる。モンスターをウルフ、動物をオオカミだと自己暗示をかけることで、別のモノだと割り切るためだ。


 まだ、前世の感覚が抜けない部分があるので、ウルフ系がモンスターと言われても、割り切ることが出来ないかったのだ。見た目が似ているだけで別物だと思い込むことで、今は割り切っている。


 ファンタジー小説でいえば、醜い人を襲うゴブリンやオークと人間が同じと言っているようなものだ。頭ではわかってもなかなか割り切れない人もいるわけだ。



 モンスターはまだこちらに気付いていないと判断し、リュウは姿が見えないようにブラインドを上手く使い、ほぼ直線の穴の中を進んでいく。


 もう5歩ほど進んだところで、撃とうと思っていたところ、ウルフがこちらへ気付き勢いよく向かってきた。


 まだ気づかれていないと思っていたリュウは、対応が後手に回る。


 ウルフは3匹、ほぼ1列になりこちらへ向かってきている。


 暗くてもこちらをしっかりと認識しており、暗視能力もあるようで凸凹の穴の中を危なげなく走ってくる。接敵するまではおよそ2秒。


 そのうちの半秒は、気付くのに遅れて無駄にしてしまう。


 残り1秒半。


 すでに銃は構えていたので、ターゲットを合わせて3点バーストを先頭のウルフへ撃ち込む。2発目が致命傷となり、進んでいた勢いのまま地面を転がる。


 その後ろから2匹目のウルフが飛び出してくる。


 空中に逃げ場のない空中に自ら足を踏み入れたので、遠慮なくこちらも3点バーストで撃ち抜く。


 3匹目を探すが、視界の中にいなかった。


 上も下も右も左も見るが、どこにもいない。前の2匹を抜けて移動することは、不可能に近い……ということは、リュウの前方にはいるはず。


 ここで1秒半が無情にも過ぎる。


 次の瞬間、空中で撃ち抜かれたウルフが地面へ落ち、その陰から3匹目が飛び出してきた。


 銃口は違う方向を向いており、銃撃は間に合わなかった。


 リュウが噛まれる幻想を見ることになると思った次の瞬間……


 今にも首を噛みつこうとしていたウルフの顔面に、リュウの拳が突き刺さった。


 強化外骨格のパワーアシストを受ければ、ウルフの頭を砕くことは可能だ。だけど、危険が大きいからやる人間はほとんどいない。よほど腕に自信のあるハンターくらいだろう。


 ナビィが作り出した映像では、かなりスプラッターな光景になっているが、実践なら生き残れば勝ちなので、例え拳が砕けていても治療すれば済む話だ。


 リュウは少し驚いてはいるが、常識に疎いためかこういうこともあるのだろう……と考え、気を引き締めなおしている。


 実際に臭覚が進化して、オオカミの臭覚が戻ってきていれば、人間の100倍以上の感知能力で、こちらを捉えることはある話だ。人間側が気付いていないだけで、臭覚が発達していた個体がいた可能性もありえる。


 次の獲物を求めて、リュウは先へ進んでいく。


 ナビィが作り出した仮想現実だったとしても、使った弾薬の補充の工程もしっかりと取り入れているあたり、訓練に真剣に向き合っている。


 本来とは少しずつ違う変化をさせているが、最初のグループの件があったためか、余裕をもって対処を始めていた。


 少し距離が遠くても弾数を使うことで補い、的確にウルフたちを撃破していく。



 その様子を見ながら、アルファはナビィに相談をしていた。


 リュウが拳でウルフの頭を砕いた姿を見て、


「さすがにあれは、防御機構が働いても、拳に影響が残るよな? それこそ、いい回復薬を使っていなければ、手の感覚がなくなっていてもおかしくないと思うんだが、ナビィはどう思う?」


『パワーアシストを受けているから、拳が壊れていてもおかしくはなかったと思います』


「だよな。それで思ったんだけど、アーマーのように体を守る物みたいに、拳や前腕を守る籠手とかガントレットみたいな防具ってないか? それを身に着けていたら、殴っても影響は少ないと思うんだがないかな?」


『ゴッツイ方の強化外骨格を流用すれば、腕だけを守る防具はできると思います。今の強化外骨格に特殊な設定をしても、同じようなことはできますが、エネルギーの消費量が大きくなりすぎるので、採用は難しいです』


 方法はあるにはあるけど、無駄が多くエネルギーの消費量が上がってしまうようだ。


 籠手のようなものにシールドが発生させられるなら、盾を持つのと同じようなものだから、かなり役に立つ気もする。


「問題は、防具の分だけ手先の感覚がズレることか……」



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