第57話

「何ふざけたこと言ってんだ? 自分の持ってきた分を使えよ」


 俺は、寄こせと言われたが、断固拒否の意思を突き付ける。


「はぁ? チームなんだから、弾の融通をするのは当たり前だろ? それに、予備の弾丸をそんなに持っていても、撃つ機会なんて無いんだから、俺が撃った方がいいってもんだろ。さっきだって、手伝ってやったんだからな」


 手伝ったって、俺のターゲットを無理やり倒して、自分のターゲットの止めを刺さなかったあれか……?


「それに、強化弾のマガジンも2つあるんだろ? 1つこっちに寄こせ」


「ふざけるな! 人の物を自分の物のように言うな! これは、俺が任務にあたるにあたって、必要だと思ったから持ってきた物で、お前にやるために持ってきた物じゃない!」


 リュウが軽く切れている。


 突然の事で驚いたが、理不尽に自分の物を取り上げられることに、怒りを感じているのだとすぐに理解できた。


 今まで搾取される側の人間だったから、またそっち側に行きたくないのだろう。


 リーダーのように値段の交渉をするなら、考えなくもなかったが、一方的に自分の方が役に立つと言い、俺たちの物を奪おうとしていることに着れている。


 落ち着くように言うが、どうも歯止めが効かないらしい。それだけクソガキの行為が許せないのだろう。


「ふざけんな! 残り90発で何かあった時に、どうしろっていうんだ!」


 クソガキもキレて、銃を俺につきつけようとしてきた。


「そこまでだ。それ以上は、見逃せなくなる。お前は、哨戒任務だからと言って、銃弾の予備を持って来ていない。その補充をお願いという形ではなく、半分強盗じみた行為で奪おうとしているのを理解しているか?


 お前は、ここで帰れ。準備不足な新人を連れて行っても、足手まといにしかならん。それに今の状況だと、モンスターと戦っている時に、わざとフレンドリーファイヤをしかねない。だから、帰れ」


 リーダーが帰るように言うが、頑なに帰ろうとせず、余裕があるのなら自分に弾を渡して、3人で任務にあたるべきだ、と主張している。


「そっちの……リュウだったか? お前は、索敵には自信がある方か?」


「索敵は分かりませんが、夜目は利く方なので洞窟の中でも、問題なく動くことは出来ます」


「……そうか、先に穴に入って、無理のない程度に進んでいてくれ。もしモンスターの気配があったら、すぐに逃げてこい。


 お前の持っている手榴弾は、ブービートラップに使えるから、逃げると同時に足元へ落とせ。ウルフ系のモンスターなら勝手に引っかかってくれる。


 俺は、こいつが邪魔しないように見張って、ギルドの人間が来たら受け渡してすぐに追いかける」


 俺を先に行かせるのは、危険なことを担当させようという事ではない。


 現状で一番危険なのは、このクソガキだ。仲間だと思っていたら、いつの間にか敵になっていた……なんてことが本当にあり得る状況だからだ。


 俺と残してギルドの人に受け渡そうとしても、素直に帰るとは思えない。


 むしろ、リーダーが入った後に俺とこいつで、殺し合いが始まってもおかしくない。銃を突き付けて、弾を奪おうとしたことを考えると、過言だとは言えない。


 俺たちは、2人を置いて穴の中へ入っていく。


 全く動じていないのは、先程からナビィが中の情報を表示してくれているからだ。


 通路の広さもモンスターがいる位置も、全て見えている。


 モンスターの数まで分かっていて、俺がピンチになるようなことがない事も分かっているので、俺たちが動揺する理由がない。


「モンスターのいる場所は分かっているけど、訓練の1つとして、しっかりと目視確認してから進むことにしよう」


 アルファはリュウにそう提案し、リュウはそれを受け入れて、敵がいることを前提に進む訓練として使うことになった。


『どうせでしたら、私がプログラムしたウルフを配置しましょうか? 実際に影響を及ぼすことは出来ませんが、銃の引き金を引けば、銃弾の演算などもこちらでやります』


 どうやら、一部現実へ拡張したVRシステムのようなことができるらしい。


 ナビィが訓練時に自分の仮の姿を表示して、リュウに体の動かし方を教えたり、アルファに座学を教えたりしている、あれの応用だろう。


「銃を実際に撃たなくても、弾道を計算してくれるってことか?」


 リュウは良く分かっていなかったので、アルファが代わりに聞いた。


『そうですね。嵐のような天気でなければ、誤差100分の1%で弾道を表示することが可能です。何度も撃っている姿を確認しているので、アーマーによる衝撃吸収込みでの弾道になります』


 それはすごい。今すぐには無理だが調整をすれば、アーマーや強化外骨格に衝撃を吸収した際の動きをさせることが可能らしい。現実離れをしているな……


 ナビィにかみ砕いて説明するのは無理なので、アルファが代わりにリュウへかみ砕いて説明する。


 なんやかんやで、こいつが分かりやすく説明するのは簡単だからな。


 想像しやすい場面を使って説明すると、簡単に納得し理解するから扱いやすい。訓練などは、真似をして訓練をするので、頭を使わずに体に叩き込む感じなので、リュウと相性がいい。


 それを利用して説明すれば、理屈など分からなくても現実に起こる現象だけで納得するのが、リュウの良いところだな。アルファだと、理屈の部分が気になって、説明してもらうけど何となくしか理解できない。


 この洞窟の距離は凡そ10kmほどあり、モンスターがいる位置までは6kmほど先。半分より向こう側で、間引きを行っている部隊のいる位置から、約3kmほどは先だ。


 リュウは、訓練を始める。


 ナビィが設定したウルフ型のモンスターたちが、徘徊を始める。


 アルファからは、ナビィが作り出したウルフ型モンスターが見えているが、リュウの目には見えていない状態だ。


 リュウが真剣に訓練を行っている中、俺はナビィにある提案をした。



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