第56話
移動を開始する視界の隅で、何かが動く姿を捕らえる。
クソガキのターゲットだったウルフが、まだ生きていたのだ。立ち上がり、顔を空に向けようとしている姿が目に移ったのだ。
俺は移動を中止し、その場に膝をつきすぐに銃を撃った。
急な射撃で正確性を求められなかったので、5発を撃ち込むことで対象を沈黙させた。
銃撃の音が聞こえて、リーダーも驚いたのだろう。こちらを振り返っていた。
「まだ生きてたみたいだな……お前、しっかりとモンスターが死んだか、確認しなかったのか?」
「……俺は、3匹倒したんだ。1匹の漏れがあったとしても、こいつが倒したのならトントンだろ」
クソガキは、そんな言い訳をした。
「……この話は後だ。いったんポイントまで退却する」
設定された場所まで引くと、
「お前は、自分のターゲットを撃つ漏らしていたことに、何も思わんのか?」
「いや、それは思うけど、そいつの分を余分に倒したんだから、文句を言われる筋合いはない。それに、こいつは倒すのが遅かったから、俺が代わりにやってやったんだ。感謝してもらいたいくらいだね」
「自分のターゲットの止めを刺さずに、他のターゲットをね……お前の言い分は分かったが、ウルフ系は止めを刺すまで油断するな、というのがハンターの掟だ、覚えておけ。
それとお前は、1匹しか止めを刺していない。お前が倒したと主張する3匹目だが、あれの止めはこっちの小僧が撃った3発の銃弾の内、2発が頭にあたった事が致命傷となっている」
「はぁ? 俺が、このガキより下だって言いたいのか? 射撃が遅い癖に、俺の方が下だっていうのかよ!」
「上か下かは自分で判断しろ。俺は、事実しか言っていない。そして、お前が自分のターゲットを倒すのに21発使っているのに対し、こっちの小僧は6発で2匹倒している。
正確性を求めて銃撃をしている証拠だ。戦闘の前にも言ったが、ウルフは止めを刺すことが重要なんだ。そこを疎かにして、3匹目を狙いマガジンを空にして入れ替えもしていないお前は、どう評価されるんだろうな」
聞こえるか聞こえないか微妙な声で、こいつが気付かなければ、多くのウルフ系モンスターが襲ってきたかもしれないんだぞ、と言っていた。
ナビィに調べてもらったところ地下に通路があり、それが森の中まで続いているので、仲間を呼ばれたら、ここに50~100匹のモンスターが現れたかもしれない。
仲間を呼んでも、必ず来るわけではないが、来ることを前提に対応をするのがハンターなので、俺の行動が咎められることは無い。むしろ、6匹目に止めを刺さずに退却をしようとしていたので、命令違反になるところだった。
クソガキが、大きな声で何かを言っているが、任務の最中に自分の殻に閉じこもってるんじゃねえ。
リーダーもさすがに切れそうになっているのが、表情で分かる。
「おい、仕事なんだから、最後まできっちりとこなせ。それができないなら、今すぐ任務を放棄して街へ帰れ。お前らの徒党の、クリムゾンムーンではどうだったか知らないが、ここでは俺がリーダーだ、従え」
クソガキは、喚くことを止めたが、目の奥に怒りのようなモノを宿している。
面倒なことになりそうだ……
しばらく経っても、追加のモンスターは現れなかったので、モンスターの死体の確認と、周囲の確認をすることになる。
この時点で交代の時間が過ぎていたのだが、俺たちの班は継続してここの調査をすることになり、その中で領域へ続く地下通路を発見する。
リーダーの経験上、モンスターたちによって作られたモノだろうとのことだ。モンスターとはいえ知恵はあるので、こういった作戦をとることが稀にあるそうだ。
ただ、どの段階化は分からないが、遠くない内に領域拡大をするために動き出す可能性があるだろうだってさ。
街の近くのモンスターの領域なので、注意深く調べているが、つい先日まではここに穴は無かったので、モンスターたちが動き出す全長かもしれないだとさ。
「本部に報告したところ、今から爆弾の専門家をこちらに寄こすとのことで、護衛に追加で3人ハンターが来るそうだ。俺たちは、先行してこの中の安全確保をする。可能な限り奥まで進み、爆破したいそうだ」
「はぁ? 俺たちに死ねって言ってるのか?」
「またお前か……嫌なら、任務を放棄して帰れって言ってるだろうが。どのみち、お前の戦闘能力には期待してない。クリムゾンムーンではどうだったか知らないが、今はギルドの任務中で俺が班長だ。黙って準備しろ」
てっきり尻尾を巻いて逃げるかと思ったが、その場に留まって悪態をついている。
出発する前に、装備の確認をしたいという事で、リーダーが俺の所に来た。
「通常弾のマガジンが30発を6つと、強化弾のマガジンが60発で2つ、手榴弾……センサーで相手を識別するタイプのを2つ、予備の弾丸500発ほどリュックの中に入っています」
「弾は十分だな。強化弾を持って来ているのは、助かる。今回は哨戒任務だからと言って、強化弾を持ち込まなかったの間違いだった。金は即金で払うから、強化弾のマガジンを1つ売ってくれないか?」
「マガジンの予備があるなら、強化弾の予備が100発あるので、それを売ります」
「こっちとしては助かるが、予備の弾丸の内100発が強化弾……どんなモンスターと戦うつもりだったんだ?」
「リーダーは気付いていると思いますが、アーマーの下に強化外骨格を着ているので、物資は多めに持って来ています。何かあった時のために、3食分の食料も入れてあります」
「ここまで準備してくる新人は、初めて見たな」
雑談は切り上げて、予備として持ってきた強化弾を売ることが決まった。
リーダーは、90発入りの拡張マガジンを使っているらしく、マガジンから弾を抜き出し素早く90発の強化弾を詰めていた。
準備をしていると、クソガキが近付いてきた。
「予備の弾丸があるんだろ? それを俺に寄こせ」
いきなり、俺の弾丸を奪うと言ってきた。
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