第51話

 準備が終わり、注意しながら通路を進んでいく。


 手榴弾を使った場所まで戻ると……


「思ったより崩れてはいないけど、通路がボロボロだな」


 手榴弾はダイナマイトと違い、破壊するためのものでは無いから、これだけの被害で済んだともいえるか。


 そもそもダイナマイトも、今回の手榴弾のようにどこかに埋めて使わなければ、壁や天井の強度によっては、爆風が発生するだけなんだけどね。


 さらに進み、銃弾でモンスターを殺した場所は、手榴弾の所よりキレイではあった。


 強化弾で体の一部が吹き飛んではいるが、死体が綺麗ではある。


 全身が機械であれば死体にも価値が出るのだが、生物……ウルフ系のモンスターで価値があるのは、兵器を身に着けている強化種以上だからな。


 今回であれば、光学迷彩の奴と仲間ごと殺しに来た強化種だけだな。


 モンスターの死体を放置しても、モンスターの中に入っているナノマシンやシリコン生命のナニカが、死体を綺麗に消してくれるので、死体を処理する必要がないのは良い事だな。


 光学迷彩のウルフがいた部屋まで来た。音を聞いても全くの無音、俺の呼吸音と服などの摩擦音くらいしか聞こえない。


 銃を構えながら中へ入り、隅々までしっかりと確認する。ここまでは洞窟タイプの通路や部屋だったが、もう1つ先に見えた空間は、明らかに人工物だった。


 中を覗くと、しっかりとした部屋の造りだが、長年放置され風化を始めている部屋だった。


 俺の知識では、百年も放置されていれば、この程度の風化では済まないだろう。むしろ、形をたもっているだけでも奇跡だと思う。


 でも、旧世界の技術であれば、これが普通だったのだろう。そう考えると、すごい技術だな。


 旧世界の技術は平和的なことに使われているのに対し、今の世界の技術は戦闘に傾倒している感じだろうな。


 現代の兵器などの一部は、旧世界の技術を凌駕しているが、全体的に見ると圧倒的に低い水準なのだろうな。


 ナビィの話では旧世界の通信システムは、崩壊した後でも全世界を網羅している。今の世界では、隣街への通信すらままならない地域がおおいからな。


 電波はシリコン生命の仕業か、街の間でも通信できる場所が少ないと言ってたっけな。


 そう考えると、旧世界の通信システムって、何で出来ているのやら?


 アルファが旧世界の技術について考えている間にも、リュウは隙なく探索を続けている。


 部屋は全部で3つあったが、その先は崩落していて進むことができなかった。明らかな人工物ではあるが、部屋に残っている物を見る限り、人が住んでいた建物の地下……といった感じだろうか?


 掃除用具のような残骸や、水をためていたであろう大きなタンクが1部屋を占拠していた。


 日用品ですら原型をとどめているのだから、本当に凄い技術だな。




 壁をくまなく叩いたりしてみるが、空洞のような音はしなかった。目に見える範囲では、隠し扉のようなものも見つからないし、ここの探索は終わりだな。


 残りの通路の探索をしよう。


 車が来るまでの期限は2時間ある。どのくらい広いか分からないが、全部調べるまでにそう時間はかからないだろう。


 特に何もなく、最後の分かれ道を進んでいく。


「ふ~、あの部屋以外は特に何もなかったな」


 全部を調べ終ると、リュウは体から力を抜いて警戒を解いた。


 入り口へ戻る間は、簡易的な地図の確認をしながら歩いていた。


 それを発見したのは、本当に偶然だった。


 凝り固まった首を左右に振り、その方向に目をやったからだ。


 視界の端に違和感を感じたリュウの体は、一気にトップギアへ移行し違和感を感じた方向に銃を撃った。


 ばら撒くようにマガジンの半分、15発も撃って違和感の原因を確認する。何もなければ、15発の弾を撃っただけで済むが、何かあれば……


 余りにも動きが早く、アルファが認識したのはこの瞬間からだろう。


 リュウが違和感に感じていた場所から、ウルフが1匹現れた。他にいる様子はないが、横っ腹に弾が撃ち込まれたのか、光学迷彩が無くなり姿を現したようだな。


 姿を確認したリュウは、問答無用でそのウルフの頭を撃ち抜き、止めを刺した。


 リュウの適応能力は、尋常じゃないな……初めは俺が気付いた違和感だが、今回は視界の端に違和感を感じただけで、光学迷彩を見破った。


 それより問題なのは、1匹だけだと思っていた光学迷彩持ちのウルフが、2匹いたことだ。特殊個体や特殊な進化ではなく、通常でも起こりえる進化という事だ。


「ナビィ、確認だが、ナビィの調べた範囲では、光学迷彩……透明になるウルフの情報は見つけたことはあるか?」


『答えは、イエスです。先ほど2件確認しましたが、その報告は50年以上離れており、特殊な個体だと結論が出ているモノですね』


 事例は存在していたのか。10年も期間があいていれば特殊で済ませられるが、同じ場所に2体もいれば偶然、特殊では済まされないな。


 洞窟の報告より、こっちの方が重要な気がするな。


 死体を回収して移動を開始する。3匹目がいないとも限らないので、2人の警戒度は極限まで高められていた。


 無事に入り口まで到着する。残り30分か……


「ついでに、強化種の死体も回収してくるか。時間もあるしな」


 安全を最大限に確保して、強化種の死体も回収する。解体するナイフがあれば、価値のある兵器の部分だけを運べばいいのだが、強化外骨格のパワーアシストもあるし、全部を持ち帰る方が早いので全部持ち帰った。


 迎えの車に死体を乗せ、帰還をする際のボタンを押すと、自動で走り出した。


『お疲れ様。訓練は成功だと言っても過言ではないです。リュウは、訓練より本番の方が力を発揮するタイプみたいですね。訓練の時であれば、70%くらいの確率で、危機に陥ると思っていました』


 危険にはなるが、死ぬことは無い危険だったからと言っていたが、正直心臓に悪いわ。


 疲れた俺は眠たい気持ちをこらえて、何とか街へ着くまで意識をたもることができた。



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