第49話

 状況を確認しているが、一向にモンスターの姿が見えない……


 ナビィが警告をしないという事は、死に直面するような危機には陥っていないと思うが、敵の姿が見えないという危機がそこにある。


 まさかの事態だが、信頼のナビィさんが与えた試練だと考えれば、簡単ではないがクリアできる範疇か、死なないけどいい経験ができるくらいに調整しているであろう信頼感から、思っている以上に焦ってはいない自分がいた。


 まず、敵……モンスターの位置、姿を確認する必要がある。


 俺にできることは、何がある?


 音から位置を特定は……今の俺にはできていないから、できないと判断する。となればできることは、視認することしかできない。


 リュウとアルファは同じ結論に達するが、リュウは突っ込んで索敵し動くものがあれば銃を撃つ、アルファは少し距離を置き音を出して呼び寄せて叩く、と意見が分かれた。


 リュウは戦闘能力は高いが、頭の方が良くないので前進するしか考えていない。こういう時は、想像しやすいように説明すると考え直してくれるので、周囲を注意深く観察しながら説明をする。


 想定より多かった場合、すぐに自分がピンチになってしまう事、まだ探索していない通路、俺たちが探しきれていない隠し通路からの襲撃、などがあると考えれば、挟撃されない入り口の近くまで下がるのがベターだと、かみ砕いて説明する。


 しっかりと理解したリュウは、地図を確認し入り口から右手に移動して、1つ目の分かれ道までの距離を確認する。


 ここから500m程は距離があるようだ……思ったより、距離があった事に驚いていた。


 おびき寄せるにも、作戦が必要だな。


 荷物を持っていると走りにくいようで、荷物を入り口付近に置くとの事だ。荷物を背負っていなければ、最悪予想外の数でも入り口までは逃げられるだろうとの判断だ。


 逃げる時は、荷物を放置して安全を確保してから取りに来ればいいと考えている。弾や食料、リュックを失う可能性があるが、命には代えられない。


 それに、弾入りのマガジンはベストに4つで120発の普通の弾、太ももの外側に2つの120発の強化弾。戦闘をするには十分な数がある。


 これを撃ち切っても倒せないのは、スタンピードで大量にモンスターがあふれた時くらいだろう。全部で240発、10発で最悪で1匹倒せるとしても、24匹は倒せる計算なので、小規模の集団なら殲滅できるはずだ。


 荷物を置いた後は道順を確認し反響する音を考えれて、150m程モンスターのいると思われる部屋から離れて、おびき寄せることにした。


 150mも離れてたらどうやって? と思うかもしれないが、強化外骨格のパワーアシストでこの洞窟の広さであれば、100m先の壁に石をぶつけることが可能だったからだ。


 荷物を置いた後に、わざわざ外で石を投げて確認したくらいだ。


 その勢いで壁にぶつかれば洞窟という条件が無くても、50m先のモンスターの部屋まで音が届くはず。そうすれば、何かしらのアクションを起こしてくれるだろう。


 準備を整え、石を投擲する。それと同時に入り口へ向かって走り出す。


 破裂音が洞窟の中を反響した。


 反響音の中に、微かに違う音が聞こえる。


 おそらくこれが、モンスターの足音だろう。


 ナビィのアシストで、走りながら後ろも見えるように、視界のアシストを受け、後方を確認しているが追いつかれてはいない。


 ここでも力を発揮しているのが、強化外骨格のパワーアシストだ。


 俺の貧弱な体でも、100mを5秒ほどで走ることができている。もっと高性能になれば3秒台で走ることができるが、戦闘をするうえで走る速度はあまり重視されていないので、そのあたりが限界だとのこと。


 体も耐えれないし、もっと速く走りたければ、ナノマシンでの強化か体を機械にするかの2択だとさ。他にも超人になればもっと速く動けるらしいが、確実性がないので選択肢として排除している。



 目的の迎撃地点に到着すると、すぐに銃を構えてモンスターの発見に全力を注ぐ。


 反響音が無くなっても、足音のようなモノが聞こえているので、何かが動いているのは間違いない。


 不意に視覚アシストを受けているはずなのに、視線の先に一部違和感があるように見えた。


 ……リュウ、あそこを撃て!


 俺は、瞬時にリュウへ指示を出す。


 直感に従った、反射のような物だった。


 違和感を感じた瞬間に思い浮かんだのが、全身義体の少佐と呼ばれる女性が出てくるアニメだ。


 光学迷彩


 どうして小さい頃に動画サイトで見たあのアニメが浮かんだのか、まったくもって分からなかったが、命の危機に直面してるこの瞬間にはどうでもいい事だった。


 間違っていても、弾を消費するだけ。


 アルファの指示に従って、違和感を感じる場所をリュウが撃ち抜く。


 違和感を感じてから銃を撃つまでの時間は、1秒もかかっていなかった。後になって考えたが、恐ろしく時間が圧縮されていたのだろう。


 まずは5発を撃ち込んだ。


 その内1発が何かにあたると、何かがショートしたかのようにバチンと音をたてた。


 そして、姿を現す。


 ウルフ系のモンスターだ。2~3匹で行動するウルフ系……1匹という事は無いはずだ。


 まだ動いている光学迷彩を使っていたウルフに、リュウが銃弾を撃ち込み息の根を止める。


 リュウが次の敵を探している間に、アルファはナビィに指示を出して、倒したウルフの姿を確認する。


 武装などはしておらず、通常のウルフ系のモンスターより小さく感じる。


 この世界でも、ここまでレベルの高い光学迷彩は実用化されていないとナビィが教えてくれた。


 となると、人間の兵器などを吸収して進化したのではなく、自力で身につけたものか、変異して身につけたものか、動物から手に入れたものか……


 先頭のウルフを倒した後も、音が聞こえていたのでまだモンスターがいることは、確定している。


 10発ほど撃ったマガジンを取り外し、強化弾の60発入りのマガジンへ入れ替える。


 弾は撃ち切らなくても、マガジンを交換することができる。拡張マガジンがあるので、撃ち切ることを考えると、かなり無駄が多くなるのでそういうシステムになっている。


 マガジンを入れ替えた理由は、勘だった。


 ゲームと違って、中途半端に使ったマガジンは、そのままの弾数で残るので入れ替える時は注意が必要だ。


 ゲームだと、すぐにマガジンを入れ替えたりするが、実際にはあんなことは出来ない。弾の残っているマガジンは、付け替えたマガジンの入っていた場所に納めている。


 撃ち切っているか、残りが少なければ捨てることも考えたが、23発も弾が残っているので、念のため回収している形だ。


 それまでにモンスターが確認できれば捨てる予定だったが、そんな事もなく音だけが迫ってきている……



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