第44話

 射撃訓練が始まってから4日目の終了時間付近。


 アルファは、リュウの訓練風景を見ながら、衝撃を受けている。


 初日から命中率は良かったが、アーマーの反動軽減を理解してからは、その命中率が95%を超えている。それでも、動いていない的を狙うだけなので、ほぼ100%当たらなければ、意味がないそうだ。


 慣れたせいもあってか銃を撃つ時間より、マガジンに銃弾を詰めている時間の方が長かったりする。


 マガジンをセットすれば、自動で給弾される機械もあるそうだが、ギルドには置いていないので自分の手で弾を込める必要がある。


 昔はそういった機会があったそうだが、利用する低ランクのハンターの大半は、素行が悪いのですぐに壊してしまい、それ以来おかなくなってしまったのだとか。


 ったく、不良ハンターどもめ……この時代の機械なのだから、それなりの耐久力は持っているはず。それなのに壊れるって、どれだけ乱暴な扱い方をしたんだか……


 ここ4日間同じ道を通って帰っている。シルバーブレッドに寄り、訓練で使った銃弾を補充し、家に帰るという形だ。


 だけど、今日は少しだけ雰囲気が違う。シルバーブレドに入る前から、この違和感は始まっていた。


 リュウは、お店のお姉さんに銃弾の話をしているが、アルファはナビィと違和感について話していた。


『その様子だと、気付いたみたいね。ノーマークだった人間が、こちらを見ているわ。過去の映像をさかのぼっても、不良ハンターの関係者ではないようです。戦闘ができる人でもないようですが、どうしますか?』


 どうするって言われても、こちらからは何もできないだろ?


『いえ、こちらから何かをするのではなく、ギルドマスターに連絡してみたらどうですか? ギルド員が監視されています、とかどうですか?』


 さすがに、そこまでVIP扱いすると、変な勘繰りが増えそうだから勘弁してもらいたいな。


『過去の映像を見ても、戦闘を生業としている者ではありませんね。義体をしているわけでもナノマシン改造をしているわけでもないので、強化外骨格を使用すれば、問題ない相手ですね』


 過去の映像がどこまでさかのぼったか分からないが、これまで隠していた人間が、わざわざ俺程度を狙う確率はかなり低い。そう考えると、問題ないのだろう。


 問題はないのだが、何で俺を監視しているのかは気になるところだ。


 対応に出る前に、相手の容姿を確認しておくべきだった。ナビィに言えば確認できたのに、それをしなかったことに少し後悔する。


 気付かれないように店の裏側から出て、監視相手の背後へ回る。


「おい、こんなところで何してるんだ?」


 路地に隠れて明らかに怪しさ満点だったので、ついつい声をかけてしまった。


 振り返った男は……身なりはよく、線は細いが俺よりは身長が高かった。


「な、なんでお前が!?」


「ん? 俺がここにいて、何か悪いのか?」


「だってお前は、あの店に入って言ったじゃないか……あっ!」


「俺の事を見ていたのか?」


 分かっていたが、こいつの口から監視していたことの確認が取れた。


「どんな理由で、こっちの事を監視していたのか、聞かせてもらおうじゃないか?」


「ひ、ひぃ!!!!!」


 近付こうとすると、違和感を通り越して危険を察知したリュウは、慌ててその場を飛びのく。


「お客様。それ以上、お坊ちゃまに近付くのは、止めていただいてよろしいでしょうか?」


 目の前に現れた女は、ハンターのような恰好をしているが、護衛のような立ち位置だ。


「了解した。だけど、そっちの坊ちゃんが、俺の事を監視していた理由は聞かせてもらいたい」


「…………それは出来かねます。お坊ちゃまが話さないのであれば、私から言えることはありません」


「よく来た、お前! そいつを捕らえろ! 俺に無礼をしやがったんだ」


「私は、お坊ちゃまの護衛であって、召使いではありません。明確に犯罪を犯していない人間を捕らえますと、私と命令したお坊ちゃまが犯罪者になりますので、ご了承しかねます」


『リュウ、その女と絶対に戦ってはダメよ。ハンターのランクで言えば、上級に匹敵する強さを持っているわ。今は、天地がひっくり返っても、その女には勝てない』


 アルファもそれを理解している。今、体の主導権を握っているリュウも、多少体が震えていることを考えると、かなり強い相手なのだろう。


 お坊ちゃまは、護衛の女が来てからは終始ギャーギャー言っているが、俺と護衛の女はそれを無視して、にらみ合いを続けている。


 こっちの要求を呑む気はないな。それに、戦っても勝てない。あのお坊ちゃまに口を割らせる方法は、今の俺にはない。


 後、目の前の女以外にも、嫌な雰囲気がこの場に漂っている。少なくても、俺たちより強い奴がこの場を見ているのだと思う。それは向こうの仲間で、目の前の女同様に俺たちの脅威となりえる相手だろう。


 にらみ合いを続けたまま、来た道を戻り家へ帰ることにした。


 その場から離れると、ナビィがリアルタイムの映像を視界に映し出した。


『おい、お前! 何であの小僧を逃がした! 私が命令しているのに、何で逆らうんだ! 親父に言いつけるぞ! むぐっ!?!?!?!?』


 そうやって騒ぎ出したお坊ちゃまの口を、護衛の女は前から鷲掴みにして黙らせていた。


『どうぞ、ご主人様にお話しください。私は護衛の仕事をしているだけで、あなたの子守りをしているわけではありません。ご主人様から依頼されているのは、あなたの身の安全を守ることだけです』


 思いっきり睨みながら顔を近付け、お坊ちゃまの顔が引きつると同時に、股間の部分から湯気が立っていた。



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