第42話
『リュウ、今日からは射撃訓練もしに行くわ。午前中に座学をして、昼食を食べて午後一番で射撃訓練をした後に、下水倉庫で戦闘訓練をするわ』
とうとう、射撃訓練が始まるようだ。
男のロマン! なのかは分からないが、銃を撃つのって少し憧れがあったんだよな。自分で撃つのは怖いけど、リュウが撃ってくれるなら体験は出来るので、俺がしゃしゃり出ることは無い。
昼食は屋台で売られていた、大きなバゲットサンドだ。アルファが体に宿ったころは、食が驚くほど細かったが、今は普通の人と同じくらいは食べているだろう。
大きなといってはいるが、体が小さいので相対的に大きく見えるだけだ。
食べ歩きながら水分を取りつつ、ハンターギルドへ向かう。
お昼の時間帯は、ハンターは仕事で少ないのだろう。空いている受付へ向かい、射撃訓練のスペースを借りたいと申請する。ハンターライセンスの確認をすると、すぐに使用許可が下りた。
今日の格好は、強化外骨格も着込んでいるが、行動を補助するパワーアシストなどは入れていない。そこにアーマーも着込んでいるので、少し体が重い。
重量にすればそれなりにあるのだろうが、アーマーが重心に近いためか、重量ほどの不便さは感じていない。
パワーアシストを使っていない理由は、強化外骨格の使用を隔す為もあるが、 強化外骨格に射撃時の情報が無いためだ。下手にパワーアシストが勉強しないまま射撃をすると、反動を抑える力加減を間違え、肩の骨が折れたりするそうだ。
こういった事例は極稀なのだが、実際に起こりえる事故なのだとか。だから、始めはパワーアシストを入れないまま射撃するのが、一般的なんだとさ。
アーマーが射撃の反動の大半を軽減してくれているが、それを差し引いても俺より射撃が上手いのではないだろうか?
『アルファは、良く分からないこだわりがあるのか、射撃の姿勢が変だったから命中率が悪かったと思うわ。それに代わってリュウは、言われたまま愚直に射撃を繰り返すから、命中率がどんどん良くなっているわね』
なるほどな。銃を撃つ姿勢はなんとなくこういう感じ! というイメージがあるから、それが邪魔をしていたのか。
アーマーで射撃時の衝撃が軽減されていても、体の芯に響く振動があるな。
ランクで言えば、一番弱い銃弾なのだが……これ以上強い銃や銃弾となると、アーマーの衝撃吸収だけでエネルギーを使い切ったりしないよな?
100発目を撃ったあたりで、射撃訓練場に足音が聞こえる。
「おや、本当に着てますね。2週間ほど顔を見せていませんでしたが、問題なく過ごされているようで安心ですね」
声の主を見ると、そこにはハンターギルドマスターがいた。
「アーマーとその下の服も問題なさそうだな。分かっていても偽装だとは、すぐに判断できるモノではなさそうだ。射撃訓練をしているという事は、本格的にハンターの仕事を始めるのかな?」
「いや、もう少し先になると思う。今の状態では、5匹以上のモンスターに狙われたら、命の危険がある。ウルフ系は速いから、近付かれたらなぶり殺しにされる」
「ふむ……初心者講習には出ていないのに、しっかりと勉強をしているみたいだな。良い教本でも見つけたのかね? そこまで分かっているなら、しっかりと訓練をしてから街の外に出ると良い」
ギルドマスターは、俺の事を心配して様子を見に来たようだな。
クランの中にいれば、安全を確保しながら実践訓練を積めるし、指導も受けることが可能だ。俺のような存在は、お金が無ければすぐに自力で実践を経験する必要がある……お金のために。
矛盾点ではあるが、俺はお金を先に得ることができたので、訓練に重点を置いても何の問題もない。
『銃撃が上手くなるには、訓練しかないから頑張りなさい。頭脳担当のアルファは、訓練の間は情報収集とかしているといいわ。分からないことがあれば、私に聞けば答えるから』
リュウとアルファの特異体質とでもいうべきか、俺たちは2人同時に思考してもパフォーマンスが全く落ちないのだ。マルチタスクとは違い、2つの脳があるから完全に分けて考えることが可能になっている。
おそらく、多重人格が近い症状かもしれないな。
210発、マガジン7つ分が撃ち終わった。1発1発に時間をかけていたので、それなりに時間はかかったが、命中率は7割を超えている。アーマーが優秀なのか、リュウが優秀なのか……
最後に強化外骨格のパワーアシストを入れてからの射撃をするようだ。
注文が付けられ、トリガーを一度ひいたら撃ち切るまで離さないように言われた。
俺たちの使っているFLAR-11は、1秒で10発の弾丸を撃ち出す。マガジンが30発入りなので、3秒で撃ち切ることになる。その間に6匹の的を撃ち抜くように指示が出た。
かなり無茶な要求だが、中級を越えていくようなハンターは、30発で15匹のウルフ系モンスターを殺すことができると言われている。その3分の1に満たない事ができなくて、どうするのか? と、挑発してくる。
それでもリュウには、挑発が挑発になっておらず、それができなければ訓練すればいい、とだけ考えていた。
1つ目の的に照準を合わせると、視界の隅で次の的を認識していた。
結果は、4つの的しか撃ち抜けなかったが、落ち着いて撃てば1マガジンで10匹は倒せるだろうと、ナビィが太鼓判を押している。
強化外骨格のパワーアシストが優秀だったんだろうな。射撃精度が、恐ろしく上がっていた。ナビィがプログラムをリアルタイムで書き換えていたから、ここまでの事ができたのだろう。
リュウの動きに合わせた、強化外骨格のパワーアシストが完璧だったという事だ。
今日の振り返りをしながら、シルバーブレットへ足を運ぶ。
定位置に座っていたお姉さんが、笑顔で迎えてくれた。
「しばらく顔を出さないから、死んだかと思ったじゃない。今日は何の用で来たのかな?」
「銃弾を撃ってください。前と同じのを240発お願いします」
「240? 君、新人ハンターよね? そんなに銃弾を撃つような場面に出くわしたの? 中古のようだけど、しっかりと手入れされたアーマーを付けているとはいえ、少し無茶が過ぎるんじゃないかしら?」
「街の外には行ってません。ギルドの射撃訓練場で、訓練をしていただけなので、240発も撃っただけです」
そういうと、納得してくれたようで、銃弾を持って来てくれた。買った銃弾をカバンに入れようとして……
「その内、街の外に出るようになると思うのですが、リュックとか売ってたりしますか?」
お姉さんはニヤリと笑みを浮かべ、カウンターの裏にある棚へ向かった。
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