第41話

 どういう原理か分からないが、強化外骨格を着こんで訓練していると、何度も死んだ……と思うような攻撃をされた。それなりの痛みを感じる為、死を10回ほど体験するまでは、頭が混乱していた。


 その混乱が収まる間にモンスターの話とかを聞いたのだが、これまたどういう訳か、頭は混乱しているのに話の内容は、頭に刻まれるような感覚だった。


 生死に直面して、学習能力が上がったとでもいうのだろうか?


 良く分からない現象を経験して、死を体験すること30回目を越えたあたりで、俺の体に変化が現れた。


 痛みを感じても、その場で止まらなくなったのだ。動かなければ死ぬ……強迫観念にも似た感情に突き動かされ、何とか反撃を行ったりしている。結果は実らないが、痛みを感じても動けるようになっていた。


 基本的な体の動かし方を学んだ後に、いきなりこれは……どうかと思ったが、どんな状況でも動けることが大切だという事を、学ばせるための訓練だったらしい。


 即死をしなければ、回復薬で直すことが可能だ。腕が無くなってしまったりすると、どんなに頑張っても戦場で直すことは不可能だが、街へ戻れば再生治療ができるので金次第で何とでもなる、という事だ。


 何度も繰り返し痛みを受けることで、体は耐性を得ているのだろう。ナビィの話では、痛みは徐々に強くなるように設定しているから、俺の感覚が鈍っている可能性もあるが、痛みに強くなっている気がする。


 1週間ほど続けることで、やっと人形相手に一矢報いることができた。


『装備は同程度の物を想定しているので、もう少し早くクリアしてくれるかと思いましたが、思いのほか時間がかかりましたね』


「装備が同程度でも、戦闘の素人と初級上位~中級のハンターを戦わせれば、こんなもんだろ。俺は天性の才能があるわけでもないのだから、コツコツとできることを増やす以外に、出来ることがないんだよ」


『ハンターも決して強いわけではないはずです。同じ装備を身につけていれば、100回に1回はまぐれで勝ってもおかしくなかったはずですが……』


 これに関しては、理由はある程度分かっている。


「おそらくだけど、人形であっても人型のナニカを攻撃するのにはためらいがあった。それを考えていたら、この世界では生きていけないことも理解した。そういう部分は、リュウに任せることで解決できることが分かったからな」


 ナビィは、首をかしげている。


「ナビィやリュウには分からない感覚なんだろうな。アルファである俺が住んでいた時代の日本では、人型への攻撃をためらう人間がほとんどなんだ。


 職業として人と戦っている人たちでも、常に人を攻撃したいと思う人の方が少ないからね。相手を攻撃しなくても、何とかなる世界だったんだよ。一部を除いてね」


 納得は出来ていないようだが、理解はしてくれたみたいだ。


 アルファがこの身に宿ってから、主導権はアルファが握っていた。おそらくだが、リュウには強い意志のようなモノがなかったのだろう。生きながら死んでいるような状態だったからな。


 そんなリュウが相手なら、アルファのような惰弱な存在であっても、主導権が握れてしまうのだろう。


 最近は、リュウがアルファに感化され、変わってきている。主導権を争うような形ではなく、適材適所で動いているような感じだ。


 そうやって分担したことで、2つ判明したことがある。


 リュウはアルファより、体を動かすのが上手い。

 アルファはリュウより、頭を使った作業が得意。


 この2点だ。


 特に意識はしていなかったが、リュウに体の動きを任せたところ、今回の結果につながったのだ。


 リュウは、戦闘の才能があるというわけではない。だけど、アルファと人形の闘いを体の中で見ていて、自分で動いた時の事を考えていたようだ。


 肉体の主導権を握ったからといって、すぐに動けるようになるものなのかは謎だが、結果が示している通り、俺より優秀だったという事だ。


 アルファであれば、退屈で同じことを続けるのは苦痛だが、リュウはコツコツとした単純な作業でも、ずっと続けるだけの忍耐力がある。その忍耐力が良い方向に向いて、今回の結果に繋がっている。


 苦痛に強いのもリュウであり、戦闘という面ではリュウの方が圧倒的に優勢なんだろうな。


 ナビィはすぐに対応を変え、リュウにあった訓練を始めた。


 体の中から見ていると分かるが、リュウにはアルファがしていた訓練は合わなかったのだろう。それでも色々吸収していたのは、一種の才能だと思うが、しばらくしてそういった話ではないことに気が付くこととなった。


 リュウのようなスラムの孤児で、徒党を組んでいないような奴は、生きるのに必死で、行きたいとか死にたいとか考える暇がなかったのだ。


 アルファには始め理解できなかったが、リュウの動きや考え方を知ることで、ただ必死になって生きていただけだったのだと気付かされたのだ。


 死ねば楽になれるのに、とか考える頭もなかったのだ。ただただ必死に生きていただけ、本当にそれだけだった。


 俺が主導権を奪えていたのは、これが関係したいたと思う。リュウが何もしなくても、勝手に生きてくれるから、自分が必死になる必要が無かったというだけ。


 自分の意思を持ち始めたリュウは、考えることはすぐに止めるが、体を動かすことは好きなのだろう……俺に主導権を返すことはせずに、吸収できることはすべて吸収していた。


 体の主導権をリュウが得てから1週間、人形との対戦成績の勝利数が8割を超えた。


 俺から言わせたら才能があるのだと思うが、ナビィが言うには大したことは無いそうだ。素人でも、多少の訓練を積んで同等の装備があれば、リュウと同じことは可能だってさ。


 ただ俺に才能がなかっただけなんだろうな。


 それと意外なことに日常生活では、リュウは体の主導権を主張せずに、アルファに任せている。重度のコミュ障なのは理解しているけど、簡単に治せるものでもないし現状で満足しているみたいなので、変わることもないだろう。


 訓練を始めて2週間、次の段階に移ることになった。



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