第26話
半日かけて厳選した結果、大半は生活環境の充実と、未来への投資という事でアウトドア用の丈夫な衣服を持ち帰ることにした。
ハンターギルドが喜ぶほど高価ではない衣服を、自分のために持ち出したと分かるように細工もしながら、必要そうになりそうな物を選んだ。
生地によっては目が飛び出るほど高い衣服もあるが、ここにはそういった衣服は無く、実用性があり安価で丈夫な服しか置いてなかった。
旧世界では安価でも今の時代で考えると、それなりに値段の張るモノだ。
現代、化学繊維は兵器に使われている。一般的に使われているモノは、天然由来の物だ。
この技術は旧世界のモノが流用されており、拙いながらも形になっているのは、研究の成果なのだろう。
天然由来のモノに頼っても問題ないのは、旧世界で物資の枯渇に対応するため、植物の生産性を向上させる技術が発展したためだ。
日本の人口が4億人ほどになっても、問題なく国内生産が追いつき、備蓄もできるだけの生産量といえば、どれだけのものか分かるだろう。
アルファが生きていた時代、2030年代の食料自給率は40%を下回っていた。それが人口が約3.5倍になっても、生産が追いつくというのだから、異常に感じてもおかしくない。
自分たちで食べる食料が余るので、家畜に回す餌が増える。そうなれば、肉を食べる機会も増える。(普通の市民であって、スラムの人間には無縁)
大量に生産されているがそれなりの値段になる理由は、食料生産工場を守るのに高いランクのハンターと契約しているからだ。
普段は、ランクの低いハンターにモンスターを間引かせているが、いざという時のために条件を決め、お金を払いある程度行動の制限をして、非常時に守ってもらうという契約に、お金を使っているのだ。
専属で守るわけではないので、飛び抜けて高額では無いが、スラムの人間に施しを与える以上の資金的余裕は、街には無いという事だな。
そういえば50年ほど前に、契約していた高ランクのハンターが契約を破った際、終身奴隷のような扱いを受けることになったとか。
家族も親戚も全て全身義体にさせられ、死ぬまで行動制限を受けながら、街の言いなりになって働かされたそうだ。
全身義体にしたのは、外から行動制限をかけられ、命令を守らないと苦痛を与えられるため、反逆をすることもできずにただ従うだけの人形にできるからだそうだ。
非人道的という話もあったが、契約違反によって生じた損害額を考えれば、これでも甘い対応だったと他の街の司法機関も納得していたそうだ。
ただ守り切れなかったというだけでは、契約違反にはならない。何があったかといえば、自分たちでは対応できないモンスターが襲ってきたので、契約を無視して逃げたのだ。
本来なら、もっとランクの高いハンターが来るまで守るのが、高ランクのハンターたちの役目だったのだが、戦いもせずに放棄したため、工場への被害もバカにならなかったんだとさ。
俺が荷物を運ぶ際のお供として、色々話してくれた。
この内容は、ハンターの講習でも受けることになるのですが、早めに知って損はないので、雑談として放してくれたみたいだな。
荷物の運び出しは、明日で終わる。交渉については改めて考えるとして、2~3日は偽装工作に時間を費やすことになるだろうだってさ。
荷物を運び出し終えた次の日、改めて遺跡へやってきた。
散らかしすぎたところは、片付けきれないと判断して、余分に汚す方針をとった。多少汚れたところで、遺物としての価値は変わらないので、散らかっていたモノを踏んで歩いたように偽装する。
他には、多少散らかしただけの場所は、不自然にならない程度に片付けて、俺が中身を確認したと分かるように、少し物を出したりしておいた。
クリニックの医療品に関しては、鍵のしまっている棚や金庫の中に入っているモノ以外は、ダストシュートに突っ込んでおいた。
値段が高い物はあると思うが、俺が回復薬を持ち出していないと印象付けるために、不要なものは全部捨てたのだ。
点滴用の薬液だったり、注射器だったり、消毒液だったりと、今でも大した価値のない物ばかりだったので、気兼ねなくダストシュートに入れたけどね。
ナノマシン配合の錠剤は少なく、大半は確保したので大丈夫だろう。点滴用の薬液にもナノマシンが入っているため、劣化をしていないようだが、これをわざわざ使う人間はいないので、捨ててもいいんだとさ。
たまたま見つけたハンターが、緊急時に使うことはあっても、好き好んで昔の物は使わないようだ。缶詰と一緒だな。
そういえば、缶詰の大半の肉が鳥と豚だったので、理由を聞いてみたところ、
『牛は生産効率が悪いので、高級品として生産されているだけです。鳥や豚は効率がいいので、家畜として優秀です』
牛は出産する時に1体ずつだけど、豚は複数産むし、鳥は卵をたくさん産むので、植物以外の栄養として、主に食べられているのは鳥と豚なんだとさ。
魚も高級品なのだが、牛とは理由が違う。
海にもモンスターがいるので、こちらの領域に入ってこないと、漁獲できないのだとか。モンスターの領域で生まれ育っているので、根こそぎ漁獲しても減ることは無いそうだ。
運搬するのも大変なので、俺の住む町では魚の流通は缶詰なようだ。生で食べれるのは、港のある街だけだそうだ。
地形的に恵まれていれば、養殖をしているんだとか。
かつての首都である東京の近く……東京湾は、旧神奈川県横須賀市久里浜から旧千葉県富津市萩生を、巨大な金網で塞き止めて、モンスターは入ってこれず、魚はある程度の大きさまで入れるようにしているのだとか。
小さなモンスターもいるが、金網を通れるようなモンスターは、脅威にならないので駆除が簡単なのだとか。アマゾンに生息しているカンディルという魚の方が、よっぽど危険だったという新聞記事をナビィが出してくれた。
日付が今から約80年くらい前だな。情報共有のために、回ってきた情報っぽいな。
カンディルの生態であれば、生物系モンスターすらも攻撃していそうな気がする。アマゾンには、機械系のモンスターは少なそうだけど、シリコン生命には関係ないのかね?
『シリコン生命体であっても、生産工場が無ければ、大量のモンスターを生産することは困難なはずです。時間をかけたとしても、変異だけではとても対応できないかと』
炭素生命みたいに寿命が短くないため、進化することが稀なんだとさ。モンスター騒動は、シリコン生命体が地球の生命体を取り込んだことによる、イレギュラーだとか。
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