第25話

 当初目的としていた回復薬は、全部運びだすことが出来た。余裕がある時に、予備のシュラフやエアークッションも運んでいるので、ここから先は俺が快適に過ごすための道具を持ち帰るターンだ。


 荷物を持ち帰る間、結構際どい事もあったな。


 車の移動速度が普段より早く、下水道に入るところを見られそうになったり、下水で迷子になっているスラムの子どもに遭遇しそうになったり、もう少しで見つかるところだった場面が幾度かあった。


 多分、徒歩で移動している俺が索敵に引っかかって、気になるから移動速度を限界まで上げておったのだろう。だけど、下水道を移動することが分かって、スラムの人間だと分かり放置した感じだったな。


 荷物まで見られてたら、絶対に逃げられなかっただろう。下水とはいえ、向こうの方が機動力が高かっただろうからな。索敵範囲外に逃れられたとは思えない。


 迷子のスラムの子どもは、放置したよ。俺に余裕があるわけでもないのに、他の人間を助けてやる義理など無い。


 それに、子どもは悪気なく、仲間に俺の情報を喋るだろうしな。そうしたら、荷物を背負っていたことがバレ、スラムでも襲われかねない。


 リスクは極力減らすに限る。


 あの位置での迷子で、声を出しているのなら、その内誰かが気付くだろうとの判断からだ。まぁ、助からなかったとしても、監督していた奴が悪いからな。


「ナビィ、ナビィが持ち帰りたい遺物って何かあるか?」


『可能なら、携帯用デバイスを持ち帰りたかったのですが、全て現代の通信手段と隔絶しているので、旧世界を経由して、現世界に繋げないといけません。それなら今でもアクセス自体は出来ますので、必要ないかと。


 ハンターと遭遇した時に、持っているとリスクが生じる為、不要の長物だと判断します。書き換えに関しては、アジトにいる時や車を手に入れた際に、通信手段を確保すれば問題ないと思われます』


 旧世界からアクセスするだけなら、今でもできているから、余計なリスクを背負って遺物を持ち歩く必要はないか。


 それに、通信系の遺物は、リスクの割に買い取り価格が低くなるそうだ。


 スラムの人間では、絶対に交渉できない相手に売るため、安く買いたたかれてもこちらは文句も言えない……そういう仕組みだ。


 それならギルドに全部回収させた方が、余計なリスクを減らせるという事らしい。


『もし検討しているのでしたら、少し無理をしてでも少し高価なテントを持ち帰るモノありかと思います』


 テント? 前に話があったけど、それより高価ものが必要なのか? と思ったが、


『スラムにどれだけ住み続けるか分かりませんが、もし半年後の冬まであそこにいた場合、テントがあれば少なめの労力で暖が取れます』


 だとさ。


 確かに、リュウの記憶に残っている寒さをしのげるなら、その選択肢もありだろう。元々は、シュラフで対応するつもりだったが、テントの方が良さそうだしな。


 ナビィと相談して持ち帰るテントを決める。


 かなり大きめのものだが、リュックのように背負える仕様になっていたのが、選んだ大きな理由だ。リュックに刺して運ぶと不安定だし、それでリュックが1つ減ってしまうので、ちょうどよかったのだ。


 リュックの在庫は後9個なので、持ち帰るモノを厳選する必要がある。荷物を出してもう一度持ち込めばとも思ったが、期間が長引けばナビィの力でも失敗する可能性があるので、リュックの数だけと決めていたのだ。


 晴れた日に予備のシュラフやエアークッションを運んでいるので、それは今のところ必要ないだろう。


 缶詰は、かさばらない小さなリュックに入れて、運べる時には毎回運んでいたので、食料の確保は出来ている。食べる場所は、相変わらず下水道の中だけどな。


 缶詰用のリュックだけは例外という事だ。


 在庫は少なかったが、体調不良や病気になった時用に、治療薬もリュック1つ分持ち帰っている。


 旧世界の薬が優れているのは、ナノマシンが配合されており、薬としての半減期が無い事。ナノマシンが判断して、幹部に効果的に薬を投与してくれること、間違った薬を飲んでもリスクなく排出されることだ。


 現代の薬でも似たようなものはあるが、そういった物は上流階級の人間が使う最高級品だ。


「俺が発掘していることもハンターギルドは理解しているだろうけど、ギルドの人間が情報を売るようなことは無いのかな?」


 選別作業をしながら、ふと、思い付いた疑問を口にしてみた。


『リスクは何処にでもありますが、最後に全体を荒らしておけば、リスクは軽減されるかと。リュウが運び出した物を考えると、大半は旧世界の人間が持ち出したと判断されるでしょう。


 必要な部分だけ、整理整頓をしておけば、リスクはかなり軽減されます。それにリュウにゴミ捨てをしっかりするように伝えたのは、後で調査に入った時の事を誤魔化すためです』


 特に、持ち出した缶詰は、ハンターギルドも見向きもしないので、食べるのに困った人間たちが、衣料品と共に持ち出したのではないか? と結論付けられるようだ。


 俺が来る前に、すでに散らかっていた保管庫もあるし、箱の劣化具合を見ても、最近あけたのか昔にあけたのは、分からないというのが旧世界の代物だ。


 劣化が激しいケースだったら、リスクを背負ってもこちらの遺物を奪取する可能性があっただろうだとさ。


 後、俺のような子ども1人に、どれだけの量が運び出せたかという事らしい。


 なるほどね。確かに何の能力もないただのスラムの子どもが、大量の物資を運び出せる程、世の中は甘くないという事か。ナビィがいなけらば実際に無理だったしな。


 確保しておきたいのは、組み立て式のキャンプ用の椅子、大小含めていくつか欲しいところだ。いい生地が使われており、座り心地が良いそうなので是非持ち帰りたい。


 靴も何足か確保しておきたいな。見た目は最終的に汚す予定だけど、前に履いていた靴に戻れない位には、負担が少ない。


 靴の造りが関係しているようで、現代でも多少根は張るが、履きやすい靴はあるとナビィが言っているので、繋ぎとして使う予定だ。


 生地の関係で、耐久力は天地ほどの差があるが、ハンターとして働くなら必要経費だと思えと言われた。


 とにもかくにも、持ち帰った後にハンターギルドとの交渉が残っている。気を引き締めて対応しないとな……



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