第17話

 体を拭きながら、大きな野望を持ってしまった。


 リュウならお風呂に入った事がないので、お風呂の気持ち良さを知らず、体をぬれタオルで拭くだけでも十分だと思っているだろう。だけど、アルファの記憶があるので、考えたら無性に入りたくなった。


 水に関しては、旧世界の遺物を使えているので、一生困ることはない。遺物といっても、しっかりと理論が研究されており、遺物を修理できるため制限なく使えるという事だ。


 下水処理と浄水を兼ねている遺物であるため、スラムの人間でも水を制限なく使うことが出来る。お湯にするためのエネルギー確保は、今の俺には難しい。


 でもその内、問題なく使えるだけの家に住んでやる!


 お昼の配給を受けた俺は、久しぶりに街の外へ……相変わらず下水道は、微妙に臭いが呼吸が辛いほどは臭くない。


 この下水の流れに乗って行けば、遺物にたどり着けるのだろうが、そこへ行くには何重もの警備をすり抜ける必要がある。


 そんなことを知っているのも、水について調べた時に、ナビィが見せてくれたからだ。


 街を存在させるための要である遺物だ。それだけに警備が厳重なのは当たり前の話だな。


 どんな世界でも、自分の事しか考えない馬鹿がいて、水の利権を得るために壊そうとしたりするらしい。


 遺物が壊れれば、俺の住んでいた時代よりはるか昔の衛生環境になるのに、なんとも恐ろしい話だ。


 お金の事しか考えていない馬鹿なんだろうな。子どもでも分かることを理解せずに、遺物の襲撃って……衛生環境の前に、飲み水が無くなって殺し合いが始まるのが分からんのかね?


 最終的に直せる人間がいなくなって、街を捨てるか街と心中するかのどちらかになるだろう。


 まぁ、襲撃に成功した事例はあるそうだが、近隣からハンターや兵士の集団が押し寄せて、壊滅させられるまでが1つの流れらしい。


 体力の尽きた頃に、一気に攻め潰すのだとか。放っておけば弱体化するのが分かっているから、理にかなった戦法だな。


 この時代の建設技術であれば、100人単位で住める集合住宅を、1週間もあれば作ることが可能だ。


 重機だったりそれなりの設備が必要ではあるが、それを移動させることも問題ないので、到着次第建設が可能になるんだとか。


 うん、すごいな。


「ナビィ、感知範囲は5kmくらいにしておいてくれ。注意は2km、警告は1kmでよろしく。ナビィも気になる奴がいたら、マークしておいてくれ」


 そう伝えると、いきなり50個ほどのマークが現れた。


 何事かと思ったら、調べた範囲で不良ハンターにマークを付けたそうだ。50km以上離れている奴にもマークがついているのには、ビックリした。


 ん~、帰り道にここを通るハンターは、そんなに多くなさそうだな。今日は、こっち方面にあまり着ていないってことだろう。


 ナビィの話では、大きな音もたてない方がいいらしいので、静かに作業を始める。


 隠していた穴を掘りあて、外からは分かりにくいように偽装しておく。


 扉まで到着すると、スコップを使い少し掘り下げたところで、扉の隙間に先を突っ込み、てこの原理!


 マンホールをあけた時に比べれば、かなり楽な作業だった。すぐに俺が通れるくらいのスペースがあいて、長年埋まっていた建物の中へ……


 明かりになる物はないがナビィのアシストで、暗視のような状態になっているため、鮮明に見ることが可能だ。


 ナビィの事前情報で、通路の形などは把握できていたので、特に気になる点はなかったが、造りを見る限りここは、荷物を置いておくエリアではなく、荷物……商品を店舗などに出す前の一時的な保管庫のようだ。


 結構大きなお店だったのだろう。倉庫までは自動で荷物が運ばれてくるが、倉庫から保管庫は人の指示で自動で運ばれてきて、保管庫かわ売り場は人の手で……って感じで作業していたらしい。


 売り場へは、アンドロイドを使うこともあるようだ。レジに関しては、専用の機械が設置されていて、人間の何倍も速く会計が終わるんだとさ。


 それはさておき、保管庫という事は、売り場に出す前の物が運ばれてくる場所……なら、色んな種類が置いてありそうだな。


 一番手前の部屋は、開いてなかった。鍵が閉まっているようで、開けられそうにない。壊すにも時間がかかりそうだし、部屋の大きさからすると、そこまで大きくないんだとか。


 ん~、荷物じゃなくて、人が待機する場所かな? 休憩とかなら、このくらいの広さで十分だろうし、ここはいいか。


 次の部屋も同じような広さだったが、こちらは開いた。


「ソファーとかあるんだな……自分の部屋とかに置いてみたいけど、絶対に運べないな。まぁ、お金が稼げるようになれば、これより良いのをかえるよな。ここはやっぱり、休憩室みたいなところっぽいな」


 同じような部屋が、何故か5室あるのは良く分からないが、おそらくコーヒーの粉だったものや、砂糖だったものがあったので、休憩室だろうと判断できるかな。


 電子ケトルのようなモノもあったし、欲しいなと思ったが、全部壊れていて持って帰る優先度は低そうだ。


 次の部屋からは、保管庫と思われる場所だ。


 扉は休憩室っぽい所とは違い、かなり大きめのモノを使用している。部屋によっては大物があるのか、シャッターのようなものもついているところがある。


 鍵は無く、簡単に部屋に入ることが出来た。荷物を集めておく場所に鍵は必要ないのだろうか? そんなことを考えていると、


『おそらくですが、休憩室は休憩中に邪魔が入らないように、鍵がかけられるようになっていたのかもしれません。アルファの住んでいた時期より、警備体制が優秀であったのなら、保管庫から盗むことは難しいでしょう』


 なるほど。盗みに対する対策が完璧だから、人の出入りの多い所には、余計な機能を付けないのかね?


 扉を調べていると、鍵の多くは扉についているのだが、この扉には窪みだけがついていて、扉に接している場所に、何かが飛び出るような場所があった。


『ずっと開いているのではなく、必要な時間だけ開いていたのかもしれませんね。緊急事態に陥ったこの施設は、全部のカギがひらいた可能性があります。管理室などで鍵開閉管理をしていたのかもしれません』


 何となく謎が解けたところで、中へ入る。


「……ナビィが言ってた遺物の中で、ハズレを引いたかもしれないか?」



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