第10話

 ナビィが通信機を探している間、俺は視覚情報を頼りに周りを警戒している。水筒の水を飲みながら、ナビィが表示してくれた、動体物の確認をしている。


 ナビィが他の事をしていても、動くものを視界に表示してくれるので、突かれた振りをしながら周りをキョロキョロすれば、人の位置が分かるという事だ。


 問題があるとすれば、周りを見たからといって、遠すぎるとこちらを見ているのかそうでないのかを、判断できない所だ。


 スラムの人間が他人にどれだけ興味を持っていないか分かってはいるが、獲物となれば話は変わってくるので、興味ない雰囲気を出していても注意が必要だ。


 2分もしないうちにナビィが、通信機の在処を探し出してくれた。


『場所としては、かなり微妙な位置です。人は少ないですが建物の中ですので、かなりのリスクがあると思われます……』


 正面から建物へ入っていけば、殺してくれと言っているようなものだ。だからと言って、こっそりと入るには通信機のある位置が遠すぎる。


 一応、立体的な建物のマップを出してくれたのだが、往復で見つからずに出てくるのは困難だと思う。


 窓から入って窓から出るにしても、俺の身長と体力だとかなり困難だ。


 通信機のある場所は分かったので、まずは使われているかそうでないかを、ナビィに見張っていてもらおう。


「ナビィ、あの建物には下水道から入れる場所は無いのか? 俺のアジトみたいになっていれば、リスクが減るんじゃないか?」


 俺がそう質問すると、ナビィがスラムをスキャンして、正確なマップを映し出してくれた。


 街の作っている地図より、はるかに正確な地図だろうな。


 そう感心しながら、マップを操作して下水道の入り口がないか確認する。


『通信機から少し離れていますが、正面から入るよりはかなり安全そうですね。使われている形跡がないので、下水道の蓋をあけられるか分かりません。開けた時の音で気付かれるかもしれませんね』


 下水道の出入り口から通信機までは、かなり近く感じる。見つかる可能性もかなり低いと思う。


「帰ったら、下水道を通って帰ってくるやつらがいなくなったら、開けられるか試してみよう。ちょうど、スコップを手に入れたし、梃子の原理とかであかないか試してみよう」


 ガンガン叩くような開け方は無理だが、静かにゆっくりと力をかけていく方法なら、試すことは可能だろう。ナビィのおかげで、ライトのが無くてもある程度視界を確保できるので、試すには十分だと思う。


 街の外は危険なので、やはりといっていいのか、スクラップ置き場へ行っている孤児たちより、早く戻ってきている。


 下水道に人がいないことを確認して、目的の出入り口まで移動する。


 そういえば下水道は、俺がイメージしていたほど臭くなかった。多少の匂いはあるし、それなりに汚れてはいるけど、古臭い公衆トイレよりははるかにましだった。


 あまり掃除されていないとはいえ、俺の知っている時代から何百年もたっているので、汚れにくくなる工夫があったりするのだろう。


 小さな這いずり回るあの黒い悪魔もいるが、アジト内には出てこないので道端で遭遇するくらいの気持ちでしかない。


 目的の出入り口へ到着し、壁に打ち付けられている梯子を上っていく。


 一先ず、頭で押して開けられるか試してみるも、まったく相手にならなかった。次が本命なので、気にすることはない。


 ナビィの視界のサポートを強めてもらい、隙間が空いていないか調べていく。マンホールには、ほとんど隙間がないので強引に行くしかなさそうだ。


 足と左腕を梯子にひっかけて、体を固定する。


 右手でスコップをマンホールに当てて滑らせ、壁にぶつかるところで一旦動かすのを止める。


 その状態から、グッグッと力を入れマンホールが動かないか確認する。


 少し浮く感じはするのだが、何かに詰まる感じで隙間が空く気配はない。スコップの先をずらして、色んなところに力を加えていく。


 1周ほど力を入れて押してみるが、どうにもならないな。


 初めの場所にスコップを戻すと……あれ? さっきは爪の先分くらいしか刺さらなかったが、今回は1cmほど刺さった。もっと突き刺そうとしたが、おそらくこれがマンホールのはまっている場所だろう。


 となれば、梃子の原理を使って……少し持ち上げることが出来た。


 その際にマンホールが外れる音なのか、ガリガリと音が聞こえる。錆が浮かんでいるようには見えないが、長い間放置されていたのなら、変形している可能性もあるか?


 グイグイ動かしてみるが、マンホールが多少上下しても、マンホールが完全に持ち上がるほどではない。


 何か隙間に置きたいが、手が足りないし力も足りない。置こうとできたとしても、最悪マンホールと隙間の間に指を挟まれかねないな。


 疲れが溜まってきたので、下水道へ戻り腕や足を動かして、たまった疲れをとっていく。


 もう一度チャレンジするために梯子を上り、悩んだ。


 てこの原理も力の伝達は悪くないが、体勢が悪いのでこの体では限界がある。ダイレクトに力を伝えるには、やはり足の力が一番かな?


 首の後ろと肩をマンホールに当てて、上半身を可能な限り硬直させ、足を伸ばす力と腕の力を使って、マンホールを押し上げる。


 初めに試した時と違い、少し浮く感じがした。


 全身の力を使ってマンホールを押し上げる。てこの原理を使った時より持ち上がった。


 どのくらい持ち上がっているか確認すると、隙間が見えた。サッとスコップを差し込み、持ち上がった状態で固定される。


 少し音が響いてしまった。


「ナビィ、ビルの中のマップをすぐに出してくれ。動体反応も表示してほしい」


 小声でナビィにお願いすると、すぐに目の前に表示してくれた。


 音を聞きつけて動いているモノは……いなかった。さすがに人が集まっている部屋から、離れた位置にあるこのマンホールの音は聞こえなかったようだな。


 スコップが刺さっている状態なので、後は隙間を広げていくだけだな。



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