第6話

 あれから2日が経った。


 その日の作業の終わりに、目標としていた場所まで掘り下げることに成功した。


「開けられれば明日からは、中の探索ができるってことか?」


 少し浮かれる気分を押し殺しながらアジトへ帰っていると、高速で移動してくる生体反応が3つ。帰り道になることも分かっていたので、ナビィによる索敵を疎かにしていたつもりはない。


 それなのに、設定しておいた以上に早い移動手段を使っており、隠れる暇もなくそいつらに補足されてしまった。


 逃げられないのも、ナビィの能力で索敵用の道具があることを知り、ステルス性能に優れた装備を持っていないからだ。


 それでも何とか隠れようと、ちょっとした壁の裏に回るが……


「スラムのガキが1匹……近くに仲間がいる様子はねえな」


「なんで隠れたかと思えば、単なるビビりってところか」


「その様子を見るに、街の地下場で穴を掘って、掘り出し物を見つけられればいいってところか」


 3人の男が銃を構えながら、こっちを見て雑談のような物をしている。


「スラムのガキを殺すには、銃弾でももったいないから放っておいても問題ない。こいつらにナニカができるわけないしな。もしかしたら、何か見つけたのを奪えるかもしれない」


 そう言って、手間をかけさせやがって、と言われながら背中を強い力で叩かれた。


 本人たちにとっては大したことはない力だったと思うが、貧弱な俺にはかなりの力に感じられた。


 痛む体を何とか起こして、地下通路を通ってアジトへ向かう。


 帰る途中に、ナビィが警告を文字で知らせてきた。


 どうやら、先程のハンターたちが、俺に追跡装置のような物を仕掛けて、しばらく様子を見るつもりだという事を教えてくれた。


 先程の3人組は、評判の良くないハンターのようだ。ブラックなことをしているが、証拠がなく処罰することが出来ない奴らなんだとか。


 厄介なのに目を付けられたな……極小の追跡装置に気付けば、それはそれで疑われる可能性が高くなる。


 スラムの中の位置情報がバレたところで、あいつらは見向きもしないだろうが、俺が発掘している場所がバレれば、確実に確認しに来るだろう。


 実際、穴を掘って色々探すのも珍しい事ではないけど、疑問に思った俺の事を叩いた奴が使い捨ての追跡装置つけ、どこら辺を掘っているか確認しようとしているんだとか。


 そうなると、しばらくはあそこに近付けないな……少なくとも、追跡装置の電池が切れる1週間は、あの近くへは行けない。


 危険は重々承知していたが、危険な奴らに目を使られるのは違う……だけど、出来る事なんて何もないからな。


『ちょっとした通信機があれば、一方的に情報を送りつけられますので、使える通信機を探してみてはどうですか?』


「いくら犯罪の証拠だったとしても、誰かもわからない人間からの情報を信じて、警察やなんかが動いたりするもんか?」


『犯罪を犯している際の映像データもありますし、奴らの犯罪証拠がどこにあるかもわかっていますので、問題ないと思われます。誰か分からないとはいえ、映像データがあれば一応調べてみようと思います』


 排除したいと思っているのであれば、映像データを調べて作られたものでは無いと分かれば、一応犯罪の証拠がある場所も、調べる気になるか。


 通信機とは言うが、そんなに簡単に見つかるモノだろうか? スクラップ置き場に行けば、通信機が見つかるかもしれないが、使用できるモノが残っているとは考えづらい。


「ラジオみたいなのならあるけど、それはダメなんだよな?」


『シュウが言っているあれは受信するだけだから、駄目ね。こちらからも出力できる通信機でないと、情報を送れないのよ』


「情報が送れればいいのなら、追跡装置は利用できないのか?」


『調べてみたけど、専用の機械へ位置情報を送るだけだから、追跡装置だと情報を狙った場所へは送れないのよ』


「色々面倒だな……明日は通信機を探してみるか。監視されている間は、あそこにもいけないし、下手にあいつらに街の外で遭遇すれば、殺される可能性も高いしな」


 できれば早く扉をあけに行きたいところではあるが、死の危険をおかしてまで行く場所でもない。時間をかければ、何とかなる問題だ。


 何もすることのない俺は、日課にしようとしているストレッチを終え、じゃらだは疲れているので、さっさと寝ることにした。



 目が覚めると、まだ外は暗かった。アジトの中からは外が見えないので、いったん外へ出てから確認している。


 体の痛みは、やはりといっていいのか取れていない。


 これが筋肉痛なのか、それ以外の理由なのかは俺には分からない。ただ、丘の中を探検する前に、ちょうどいい休暇と思っておこう。


 アジトへ戻った俺は、ナビィを通して自分でも色々な情報にアクセスしてみた。見ること自体は、ナビィのおかげで何の問題もないので、不思議な感覚だな。


 サイト・ホームページのようなものでは無く、今起動しているアクセス可能な機械の中のデータを、全て覗けるので明らかにヤバいものなどもあったりする。


 ナビィには、俺が情報を探している間に、生きている通信機がありそうなところを探してもらっている。


 お金を持っていれば、ネットカフェのようなモノがあるのだが、スラムに住んでいる孤児には縁のない場所だな。


 どこかのグループに入っていても、ある程度貢献をしなければ機材などは使わせてもらえないだろうし、そういったグループに入れば、今より死ぬリスクは高くなる。


 マフィアやギャングのように、抗争があったりするので、下っ端は盾になるような物を持たされ最前線。防ぎきれるような高価なものは渡されないので、運が良ければ生き残れるという感じなんだとか。


 もっとも運が悪ければ、手足を失ってグループからの追放……っていうコースもあるみたいだな。


 こういったことは、治安維持組織のパソコンの中から引っ張りだした情報だ。スラムの事を調べていたら、そこのパソコンにたどり着いたので、色々と情報を見せてもらっている。


 何かあれば頼ろうと考えていたが、思った以上に腐敗していたので、絶対にあそこへ行くことはないだろう。


 スラムの孤児が治安維持組織の施設へ行けば、十中八九迷惑行為で捕まり、そのまま人身売買の組織へ売り飛ばされてしまうのだ。問題なのは、スラムの孤児への対応として、テンプレが存在していたことだろう。


 それを知ってなのか、スラムの人間は治安維持組織にはいかないんだな。


 スラムで自分たちの身を守るために、自分たちでグループを作っているのか。



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