第5話

 ブロックバーの配給まで、無理のない程度にストレッチを続け配給を受け取った後、下水道を通り街の外へ出た。


 周辺に人がいないことを確認して、例の丘へ移動し狭い空間を抜け扉の発掘を始める。


 スコップのような上等な道具を持ってくることは出来なかったが、木の板や木の棒を持って来ているので、素手の機能に比べれば負担は少ないな。


 俺は発掘を続けながら、ナビィに色々な質問をしていた。


 一番気になっているところで、この場所が他の人間にバレないかという事だ。可能な限り俺の利益としたいと思っているので、ナビィのように遠くから俺を見つける方法がないのかを、徹底的に調べてもらっている。


 強化外骨格の追加パーツや、携帯用の索敵装備、車両などにつけて索敵を補助する装置等々、隠れた場所にいる俺を探し出すことのできる物が、この世界にはたくさんあるようだ。


 どんな機材でも、ナビィの探索能力には勝てませんけどね! と、顔が見えたらドヤ顔をしていそうなセリフが聞こえてきた。


 どうやら、合成音声を覚えたのか、俺に声を伝えることが出来るようになったようだ。今までは、警告音や着信音などを使って俺の意識を誘導し、文章で俺に情報を伝えていたが、今日からは声になったようだ。


 でも、ナビィとの会話が独り言を言っているように聞こえので、周囲に人がいる時は文字で意思疎通を図るようにお願いした。緊急時のみ周りに人がいても、音声による警告は有りとした。


 益々、ナビィが車のナビみたいになってきたな。


 それを分かってか、ナビィも車のナビのように、音声でこちらに道順を伝えてくるので、少し気が抜ける結果となる。


 2日目の成果は、もう少し掘れば扉の上半分が見えるようになるくらいには進んだ。


 ここまで掘ると扉を隠すのは面倒なので、入り口を塞ぐことにした。不自然にいならないように、ナビィに協力してもらい入り口を石などで塞いだ。


 近くに入り口を塞ぐのにちょうどいいサイズの板があったので、予想以上に楽に入り口が塞げたのは助かった。


 アジトへ戻りブロックバーを食べ、体をタオルで拭いてからストレッチを始める。


 寝るまでには、まだまだ時間がある。情報収集をすることにした。


 ナビィが協力してくれるので、ネットに繋がっているすべての情報を無制限に引き出すことが可能だ。本当に便利な能力だな。


 可能な限り安全に稼ぐためには、ハンターより情報屋の方がいいのではないだろうか? 扱う情報によっては、街中でも安全とは言えないが、街の外でモンスターやハンターに狙われるのも、大差ない気がする。


 それに、俺に何かあった時には、致命的な情報がばら撒かれるようにしておけば、抑止力にはなるだろう。世の中に絶対はない……できる範囲で、防衛をできるようにしておくしかないな。


 情報屋をやるにしても、安全な場所に情報……データを隠しておけないと、情報屋としての価値はないよな。


『リュウ、情報を隔しておくのであれば、旧世界のデータベースで、問題ありませんよ。私は見る事しかできませんが、専用の機材があればデータを隠すことは可能です。書き換えることも問題ありません』


 ん? 見る事しかできないと思っていたけど、きちんとした機材があれば、保存したり書き換えることも問題ないようだ。


 その機材も、そこらへんで売っている安物の機材で問題ないようで、ナビィを経由してアクセスすることで、こちらがアクセスした事を隠すことが出来るようだ。


 スーパーハッカーになった気分になれそうだな。突破すべき防壁などは、全て無効化されるとかえげつないな。


 当面の目標は、発掘中の丘の中の物を回収すること。

 中期目標は、税金を払いスラム街を出て、まともの場所に定住すること。

 長期目標は、お金を稼ぎ体を治療して、可能な限り肉体の強化を行うこと。


 ザックリとした目標だが、こんなものだろう。この目標に合わせて計画などを肉付けしていけば、色々迷うことはないはずだ。


 この目標も追加の計画もナビィがいることが前提なので、ナビィがいなければ死ぬことに怯えながら成人まで生き、成人したら命の軽い職場で死ぬまで働かされただろう。


 アルファの記憶ではブラック企業で働き、精神をすり減らしながら、生きているかもわからない状態で生活していたっけ……


 ナビィに出会えたことは、本当に幸運としかいいようがないな。


『そうでしょ、そうでしょ。私に感謝してくださってもいいのですよ!』


 ちょこちょこ思考に割り込んで、こういうことを言ってこなければ助かるんだがな……


 まだ数日の付き合いなのに、ナビィが驚くほどの速さで進化している気がする。進化というよりは、人間という物を学んで模倣しているだけかもしれないけどな。


 それだったとしても、正しく学んでいるという事なんだろう。正しくなければ、そういった部分が違和感となり、俺が違和感を感じるだろうしな。



 3日目の発掘を始める。


 扉の中ほどまでは見えているが、掘り進めながら先の事を考えている。


 扉の部分を掘ってはいるけど、この扉……旧世代の建物の扉で、田舎の正面玄関のような引き戸が、ハイテクで作られているようなものにみえる。


 本来なら動力を使って開くタイプに見えるので、非力な俺にこじ開けることが出来るのだろうか?


「これだったら、建物の壁に穴の開いている場所を選んで、ほり進めていくべきだったのではなかんたんじゃないか?」


『土砂の入り込み具合や、そこまでの障害物を取り除くことを考えれば、この扉をこじ開ける方がよほど楽です。他の人間に見つかる可能性が高くなるうえに、掘り進めていった通路が崩落する危険性が高いですから、死ぬリスクが激増します』


 しっかりとした理由があったんだな。


 知識もなく補強も上手くされていない通路なんて、崩落する未来しかみえないな。


「だとしても、この扉……本当に開けられるのか? かなり重そうに見えるんだが?」


『土砂を扉の4分の1ほどまで取り除き、梃子の原理を使えば何とかこじ開けられるはずです。旧時代の建物はハイテクも使っていましたが、災害時に備えて、いざという時は開けやすく作られているんです』


 どういう判断基準で原理か不明だが、いざって時に頑丈過ぎて開けられないとかいう事になれば、救助にもいけないってことか。実際にそういう事例がありそうだな。


『よくお分かりで。今からおよそ400年前に、頑丈に作り過ぎたことによる弊害で、災害時に地下施設に取り残された人たちが、全員死んでしまったという事件が起きました。


 少ない食料を求めて殺し合い、最後には餓死してしまった事件です。その時は扉の前まで救出部隊が辿り着いたのですが、扉を開ける初段が無く悲惨な結果になってしまったようです』


 開けるような機材も持ち込めず、壊すほど威力の高い物を使えば、二次災害の恐れもあった感じか?


 そういったことからの教訓で、ここの扉は開けやすい可能性が高いのか。ナビィの調べでは歪んでいるわけでもないので、崩落当時に故障でもしていなければ、開けられる可能性の方が高いんだとさ。


 放置されいた間の劣化は、ほとんどないと見て良いらしい。故障が一番の難敵ってことか。


 3日目の作業も終わり、隠れながらアジトへ戻る。


 おそらく、後2~3日で目標の辺りまで掘り起こすことが出来るだろう。



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