第2話

 腹を満たし、改めて状況を確認する。


 視界に現れた警告は、リュウの記憶にはない物だった。という事は、アルファの記憶がリュウに流れ込んだ影響によるものだろう……


 だが、それがどんな意味を持っているのかは、まったくわからない。


 ただ、前世の記憶を元にして考えれば、このブロックバーにはナニカ俺に害のあるものが入っているという事だろう。


 ……うん、分かったからといって、これ以外に食べるものが無いのだから、考える意味はないな。


 それより、俺の知っている物と近いシステムなのであれば、おそらくアクティブ使うこともできるはずだ。


 1週間ほど、アジトと配給所を行き来して、この謎のシステムについて調べてみた。俺が生きるためには、リュウの記憶にないこのシステムを頼るしかない。


 分かった事は、俺の目はこの世界のシステムに繋がっているらしい。


 思考操作型のデバイスらしく、頭の中で念じることでこの世界のシステムにアクセスし、情報を引き出すことができた。


 問題なのは、アクセス権がない場所にも、フリーパスで侵入できるという謎仕様だ。


 知りたい情報や最適解などを導いてくれるので、俺はこの謎システムをナビィと呼ぶことにした。名前を付けたのは、念じる時も名前があった方が念じやすいからだ。


 これ以外にも機能があり、透視に近いようなことが可能だった。正確には投資ではなく、世界のシステムが把握している情報にアクセスし、どこに誰がいるという事が、手に取るように分かる機能だ。


 これは、壁越しでも人やモノを見ることが可能で、もし戦闘をすることになれば、かなり有利に物事を運べるようになるだろう。


 戦闘するにしても、武器もない。武器があったとしても、この体では銃の反動を抑えることなど無理だろう。戦闘なんてできるわけがない。


 銃や弾薬の中には、無反動で撃てる物も存在するが、そういった銃や弾薬は高く、俺の手の届くようなものでは無い。


 俺に社会的信用度があるなら、情報屋をしてもいいのだが、信頼度も力も権力も金も何もかも足りていない。


 俺がこの世界で生きるには、ハンター以外の選択肢はない。ただ、ナビィを使った情報収集で情報屋になることは可能だ。


 こんな世界だ、情報屋も危険がつきものだ。ナビィで拾った情報では、敵対組織に情報を売ったために、恨みを買い殺された情報屋のニュースがあった。


 こんなことでもニュースになるんだな……とか思ったが、危険な仕事には変わりはない。情報屋になるにしても、力が無ければどうにもならない……


 便利なナビィがいても、利用できるだけの状況が整っていないので、やはり詰んでいる状況だな。


 ナビィの力なら、情報の書き換えなども出来るかと思ったが、情報を見ることは出来ても、改ざんする能力は無いらしい。


 それでも、クローズドエリアの中であってもこの世界のシステムに繋がっていれば、見ることが出来るぶっ壊れ機能なので、本当に情報屋に向いていると思っている。


 詰んでいる状況でも、何かできることがあるはずだ。金を稼ぐ方法……モンスターは倒せないけど街の外に出て、落ちている物を拾う方法もある。


 見える位置にある価値のあるものは、根こそぎハンターが持っていくし、ハンターになりそこないのルーターが、価値は低くても売れる物は回収していくので、専用の装備の無い人間には向いていない。


 だけど、俺にはナビィがいる。街の外に出てもどれだけ使えるのか分からないが、ナビィの能力があれば安くとも売れる物を見つけられる可能性はある。


 スラムの人間は、正規の出入り口を利用できないので、裏道を使って外に出る必要がある。ルーターの取り残した物を回収する、スラムの人間も多いので公然の秘密となっている裏道だ。


 ここを通った物と分かれば、買い取り屋へ売りに出しても、通常の半額ほどの買い取りになってしまう。街のシステムの1つだと思って割り切るしかない部分だな。


 スラムの人間が拾ってくるものでも、物資はあって困ることはないので、街も容認しているからな。実際に、そういった文章が極秘ファイルの中にあるのを見てしまっている。


 ルーターのようなことをするかどうかは、一旦街の外へ出てみないと分からない。ナビィが使えなければ、ただの子ども……よりはるかに弱い俺では、何もできないだろう。


 ナビィによって、裏口の通り方は分かっているので、後はいくだけだ。


 待ちの外へ出るのは、明日の配給を貰った後がいいだろう。これを貰わなければ、すぐにまともに動けなくなってしまうはずだ。本当は朝一で、他のスラムの人間の後を追っていきたいが、腹が減っては戦は出来ぬからな。


 次の日、配給を貰った後すぐにアジトへ戻り、食料を隠してから裏口へ向かう。


 裏口というが、いつ作られたか分からない下水道を通って、街の外へ出るルートだ。


 下水道を通る際は、他の人間と遭遇しないようにするのが鉄則だそうだ。相手が銃を持っていなければ問題ないが、相手が持っていた場合は撃ち殺されても文句は言えないんだとさ。


 命が軽い世界だな……


 下水道でもナビィの能力は問題なく発揮できるので、人に会わずに外へ出ることは簡単にできる。


 20分ほど歩き続け、街の外へ出ることが出来た。


 初めて外へ出た俺は、荒廃した大地を始めて目にした。


「俺の知っている地球じゃないみたいだな……そもそも、地球のどこなのかもわからないし、元々こんな感じだったかもしれないよな」


 アメリカで周りに何もない荒野だってあるしな。まぁ、俺が今目にしているのは、もっとデコボコした世界だけどな。


 所々、建物が風化したような地形もある……俺がいた街は、新しく作られたのか、元々ある街なのか分からないが、風化する前はここにも建物があったのだろう。


 さて、余計なことを考えている暇はないぞ。


 ナビィの能力で、俺の視界にはコメ粒ほどの人がマークされている。


 街の外でも問題なくナビィは機能しているな。後気になるのは、どこまで行けば使えなくなるのかってところだな。


 俺は、初めて見る光景に少し心を躍らせながら、お金になる物を探し始めた。



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