第7話『異常事態1』

 朝のリビングにて。

 今日は何とも物騒なニュースがやっていた。


 どうやら大規模な地震がもうすぐ起きるらしいのだ。


 幸い、この町は被害が少ない地域なのであまり気にすることもないのだが。


「圧樹~、しょうゆとってくれ。」


「わかった」


 やはり俺の妹はかわいい。

 どこに嫁をやっても恥ずかしくないな。


 飯を食べ終わり、身支度をして少しだらだらとする。

 時計を確認すると時刻は8時。


 そろそろ家を出たほうがよさそうだ。


「いってきまーす」


 先に圧樹は行ってしまったため、誰もいないが一応声に出しておく。


「よ。」


 少し歩くと量弥とばったり鉢合わせた。

 珍しいな。


「量弥にしては早くないか?」


「たまにはそういうときもあるんだよ。」


 そんな他愛もない会話をしながら学校まで歩く。


「そうそう、地震が近々起こるとか噂されてたよな。」


「あぁ~あれね、でも怖いのは正直マナ災だろ。」


「それもそうだな。」


 マナ災とは大気中のマナの割合が高くなることによる災害のことだ。


 下駄箱で靴を履き替え、教室に行く。


 ここまではいつもの日常だったのだ。

 事件はホームルームの時に起きた。


 ホームルームの始まりを告げるチャイムの代わりと言わんばかりに特徴的な警報音が鳴り響く。


『地震です。強い揺れに警戒してください。』


「まじかよ…!」「やべえって!」など周囲がざわつきだす。


『震度は6強。地震によるマナの二次的災害に注意してください』


 マナの二次的災害。マナ災とは。

 何らかの原因によって、地中のマナが噴出され、大気中のマナの割合が増加し、呼吸困難、マナ中毒。

 そして、マナが形を成し、魔物の発生が起こる可能性のある災害。


 津波や火事よりも恐ろしい二次災害だ。


 机の下に隠れ、マナで体を防御し、揺れが収まるまで待つ。


 マナ中毒への対策としては常にマナを使うことで、バランスが崩壊しないようにするというものがある。

 これが一番有効だと個人的には思う。


 担任がその場を取りまとめ、避難をさせる。


 避難先は訓練場、または体育館。

 どちらも空調が整えられており、マナが多くなりすぎない。


 俺らは訓練場に避難する。


 ハズだったのだが、どうやらはぐれてしまったらしい。


 いや仕方ないじゃん!!

 俺、背低いし!人の波に飲まれてたら必然的にこうなるんだよォ!!!!


 …いや、一度落ち着いて状況整理しよう。

 今はおそらくマナ災が起きてる。

 呼吸困難はない、マナ中毒も対策してる。

 一番の問題の魔物の発生は…ない。


 あれ、意外といけるか。




 そう思ってた時期が俺にもありました。


 案の定だよ、目の前でマナが見えるくらい集まりだしたからな。

 いま多分魔物の体が形成されてるとこだろう。


 俺は障害物に隠れる。


 このまま障害物伝いに逃げるか…


 そう思い、動こうとした瞬間。


「ア…エ?」


 目の前には化け物がいた。


「なっ!」


 鬼のような形相をした化け物。

 奴はその鋭い爪で俺の頭を裂こうとする。

 が、マナの防御と反射神経のおかげで掠るだけで済む。


「なんなんだよ!」


 火属性火球


 化け物の目と思しき部位に初級魔法である火球をあてる。不意打ちには対応できなかったようで、直撃する。


「アアアア‼」


 この世のものではないかと思うほどの声

 耳の奥から生暖かい液体が出てくる。


「痛っ!」


「ウエエ…エエ」


 謎のうめき声をあげ、化け物は口を開く。

 口元が裂け、牙が大量に出てくる。

 そこにマナが見えるほど集まる。


「んなっ!」


 その化け物がマナを放出しようとした瞬間。


 俺の体は横に飛ばされた。


「おいおい…どうなってんだよ…」


 声の主は俺の良く知っている男

 量弥だ。


「量弥!逃げろ!」


「なにいって…」

「は?」


 量弥の真横には化け物が立っていた。

 その化け物に殴り飛ばされる。

 ミシッと人間からはなってはいけない音が鳴っていた。


「っっ!りょうやああああああ!」


「ゴホッ…大丈夫だ…死んでねえ」


 死んではいないが骨は折れているだろう。立っているのが精いっぱいのように見える。


「…逃げるぞ蒼太」


 ゲホッと咳をしながら量弥は告げる。

 そして


『gravity』


 固有魔法を発動させる。


 すると化け物は壁に打ち付けられ、少しひるんでいた。

 そのすきに逃げ出した。


「ハァ…ハァ」


「ゲホッ、ゴホッ」


 お互い満身創痍だ。


「お前、何で来たんだよ…」


「探しに…いったんだよ…」


「…そうかよ」


 それにしても違和感がある。

 魔物、といっても種類や強度は多岐にわたる。

 しかし、先ほどの奴は一言で言うなら

「強すぎる」

 明らかに通常のマナ災で発生するレベルの魔物ではない。


「量弥…お前も感じたよな…あの違和感」


「ああ…絶対におかしい。何か人為的なものが介入したとしか…」

「…そうか」


 量弥も気づいたようだ。

 そうだ、これは自然に発生したものではない。

 人の手によって作り出されたものだ。


 これを知らせれば、テロへの対策として国が動く。


 だが、そうやすやすとことが運ぶわけがない。


 訓練場、そして体育館その二つの施設で、同時に爆発が起こった。


 訓練場は圧樹たち一年の避難場所だ…


 そんなことを思い出した瞬間、俺は駆け出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る