第25話

母性溢れるヘレナ、そんな彼女を愛している家族を大切に思うヴェヒテ。

言動は棘がある時はあっても家族愛溢れるリネー。

ユスティは、まあ、お察しで。


そんな領主家族に家族の様に扱われていたハイルは、春になったこの頃ではシュピーラドは特別、ヴァールストレーム辺境伯爵一家は家族の様な人たち、と思う様になった。

やはり精霊王と愛し子なのか。家族や恋人とは全く違う特別な存在だとハイルはそう思っている。

決して裏切らず、自分を傷つける事もなく、愛して守ってくれる王様。シュピーラドへの信頼は固い。

ユスティはそこにべく闘志をメラメラと燃やすが彼の中にある『唯一』という特別さがそうさせるのか、どこかで二人の絆は特殊で自分は同じ舞台に上がれないんだろうなとも感じていた。

だからシュピーラドとハイルが立つ舞台とは違う特別な舞台にハイルと一緒に上がりたい。ユスティはその気持ちがどんどんと増していっている。

その気持ちに比例して自分もハイルが『エングブロム公爵家の三男ハイル・ロルフ・アスペル』だと知られた時に守れる人になるのだという益々気合も入り、このところ鍛錬に余念がない。

父親譲りか武の才能はあり、兵士ら軍の鍛錬に混じる以外にもグスタフには彼の得意な剣に魔法を纏わせ戦う方法を、ニコライには精霊魔法を教えてもらい強くなろうとしている。

シュピーラドからも精霊魔法について教えてもらったりもしていたが、“難しいところ”に踏み込み始めると人と精霊の隔たりが生まれるのか、ユスティが「え?どうして?なんで?無理じゃない?」というような説明が入り始めた。

「それは精霊だからわかる感覚では?」と首を傾げるユスティに、「なぜ理解出来ないのだろうか」と不思議そうなシュピーラド。

お互い理解出来ずに首を捻る時間が増えたため、ユスティはニコライに教えてもらう事が多くなっていた。

自分を鍛える時間はハイルから離れる事になり、それが寂しいとユスティは強く思うけれども今の寂しさよりもこれから先で彼を守る力をつける方が大切だとグッと飲み込んでいる様だ。

これを見て「ぼっちゃま、大人になられましたな」とニコライは涙ぐんだと言うが、ユスティの“この変化”についてグスタフは「大人になったわけではないような?」と思っている。


そう、それともう一つ大きな事といえば、本来なら冬になる前にユスティを学園に戻そうと言う話があったのだがそれは無くなっている。

ヴェヒテとヘレナが休学のまましばらく様子を見ようと、休学期間を延ばす事にしたのであった

表向きの理由は王都から広がる“婚約破棄”──────精霊の加護が相次いで消滅する事件がいまだに起きているから、とした。

王都に近ければ近いほど加護を失う、とまことしやかに囁かれる様になり休学し領地へ避難する生徒も多い。ならばユスティが戻らなくても不思議ではない。そういう“大義名分”が今はある。これに乗っかった形だ。

本当の理由は今何か起こりそうな王都に突っ走りかねない性格も持っているユスティを送るのが不安だから、である。貴族の次男らしく、はいくらでも出来るのだが、ハイルと知り合った今のユスティがどこまで我慢出来るか全く読めない。そう不安がった親心という事である。


さてこの婚約破棄だが、関係者たち──ユスティはどう思っているか誰も確認していないが──はこれがシュピーラドによるものではないかと考えている。

口には出していないが、そうなのではないか、と。

確認するのが一番いいと思うが、藪を突いてという事態はごめん被ると思うのも人間。

静観しようと考えていた。

一人、ドンを除いて。

彼はシュピーラドと“謁見”した。

いつもとは違う、と話し合いたいと言う意味でドンはを願い出たのだ。


「なるほど?つまりわたしが愛し子にした迫害を恨み、加護を失わせていると思っているわけか……」

深く頭を下げたままのドンの隣には、同席を願った司祭がいる。

場所はあの神殿。

今ではしっかりとした木の扉と天窓も復元されている。

「わたしはまだ、自分がという、平和ボケしていた己の罪もあると思いしていない」

「では、どうして?」

「愛し子が迫害されていた、虐待されていた、それ知った可愛いしもべたちが……そうだ最近ユスティので面白い言い回しを知ったのだがそれを使うと“こう”だ。我が可愛い僕たちは『そんな人間を助ける義理はなくね?』『愛する必要とかないんじゃねーの?』と言ってお前たちが言うをしているのだろうよ。いちいちそのような事をあれらはわたしに報告せぬ。だから本当のところはどうだか知らぬが、仮にそうであってもわたしはそれを止めるつもりはない。いくらわたしの僕とはいえ、あれら精霊は全てわたしの可愛い僕たちよ。害がないのであれば止める必要はあるまい」

「精霊王様の意志なのかを知りたかったのです」

「あれがわたしの意志?加護を失わせるでわたしの怒りが収まるはずもなかろう?しかしまあ、ハイルは今、幸せを感じている。だから何もしないさ。今のままであればな?」

ホッとしていいのかよくないのか、迷う様な言葉にドンと司祭は難しい顔を互いへと向けた。

「しかし隠そうとしても無駄である事を忘れるな?精霊は愛し子の味方でありわたしの僕。不穏なものを察知したら真っ先にわたしに知らせ、行動を起こす。わたしも怒りで何をするか、まあ分からん」

これでしまいなら、わたしはいくぞ。と言うシュピーラドに再び頭を下げると彼はふわりと空気と溶け込む。

ハイルと共にいる時は歩く事ばかりのシュピーラドも、愛し子ハイルがいなければ“あれ”だ。

二人きりになった神殿でドンと司祭は王都でこれ以上の異変が起きない事を、まさに祈る事しか出来なかった。

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