「セーリオ様」「カムヴィ様」共通の話
彼の、空気が読める小さき友人
第1話
この国において、精霊魔法──契約した精霊に対価である魔力を渡し使役する──と魔術魔法──自身の魔力で魔法を使う──の二つを扱うのは天才とされている。
しかしそれはあくまで“この国において”である。
国によって信仰や言語が異なるのと同じく、魔法や精霊に対する考えも違い、その積み重ね──国の歴史、ともいう──で国によっては精霊魔法が異端である場合や逆に魔法を使う事が異端になる場合、そして両方こなす事が当然のように出来る国、と様々である。
面白いのは、人は──────たとえ王族であっても生まれの国の影響を強く受ける事だ。
この辺りはいまだに原因不明、研究も進まない難しい分野なのだが、生まれた国の違いで努力しても精霊魔法が使えない場合や魔法が使えない、はたまた精霊が見える見えないなんていう違いも生まれる。
生まれの国を離れ別の国で暮らしていても、この“生まれた国の特徴”からは逃れられない。
昔あったどこかの国では精霊を悪魔と同一視していたために国民は精霊魔法が使えなかったと言う。しかしその国から亡命した女性が別の国で精霊と契約するまでに至ったという話が残っているが、これは本当に珍しいケースで彼女以外このような特殊なケースは報告されていない。
それだけ、生まれた国の“存在”は大きい。
驚く事に精霊魔法や魔術魔法などの呼び方すら違う場合もあるというのだから、驚く事だ。
この話ではこの国に則って、精霊魔法と魔術──もしくは魔法──という形で進めようと思う。
他にも国ごとの違いをあげるとキリがないのだが、何が言いたいかというと、このトリベール国では両方使える人間は天才だと言われるのである。という事だと思って欲しい。
突然だが、王族というものは国のために采配を振るい、時に心を殺しても国を守る。
他のものの上に立ち、恵まれた環境に見合った責任を持つ。
恵まれた環境だからなのか、それとも国のために心を殺すからか、責任──────つまり国のためになる相手との婚姻が第一だったからなのか、王族には“優秀な能力”の男女が嫁いでいたし、見目のいいものが嫁いだ。
昔より婚姻に対して多少緩やかになったこの時代にあっても王族の婚姻はそうした傾向も強く、またその結果王族には“優秀な能力”や見目の良さが受け継がれた。
その一つが天才とされる精霊魔法と魔術魔法を操れる子供が生まれる確率の高さだろう。
高位貴族の中にも、また下位貴族でもごく稀に、この“優秀な能力”の男女が嫁いでいた事もあるので、そうした天才がいる事があるが、王族の確率は桁違いだ。
さて、なぜこの様な話をしているかというと、この天才にあたるのがこの話の主人公の一人でもある、怖がりで泣き虫な素顔を涼しい美人顔の下に隠したカナメであるから、である。
こんなふうに彼を天才と言うと、彼が万能でありそうに受け取られるかもしれない。怖がりで泣き虫だが万能、のように。
しかし彼は残念ながら万能ではない。怖がりで泣き虫の時点で万能感がないと思われる可能性もあるが、彼は全てにおいて天才では決してなく、精霊魔法も魔術魔法も使えるのはただ単に、他の両方使える人間と同じく才能があっただけだった。
そもそも“両方使える天才”と言われるのは両方を使いこなす努力をしていたからこそ得られるようなもので、それになるにはまず才能が必要である。
つまり天才になるための才能、とでも言ったらいいのか。そういう事だ。
そしてカナメにはその才能があった。
ここで“普通の貴族”であればこの才能でのしあがろうとかそういう野心を持っていいだろうが、そこはカナメ、一切そんなものは生まれなかったしそもそも──────いや、せっかくの機会、この話は時間を過去に戻して示していこうと思う。
あれはそう、カナメがこの国の第一王子殿下マチアス・アルフォンス・デュカスことアルと友人になった頃に遡る。
二人は五歳になっていた。
魔法の勉強はもう始まっている。
一般的な貴族からすると随分と早いが──魔法という物はなにかと危険であるので、一般的な貴族はもう少しあとからはじめている──マチアスは第一王子殿下だ。早すぎる事はない。
それに付き合うカナメからすれば早かっただろうが、これはもう机を並べ共に勉強もする友人となってしまった今仕方のない事だろう。
5歳になった二人には魔術の教師が別についた。
彼は平民から王宮魔術師団に入った凄腕の魔術師である。
平民でも能力があれば雇用されるが、それでも王宮魔術師団に入りなおかつ王子殿下の教育係になるなんて“とんでもない偉業”だった。
この魔術師ヘインツは最初の頃は“いかにも殿下の教育係”といった授業をしていたのだが、二人が思いの外魔術に対して才能がありそうだと思ってからはそれをやめ、室内よりも屋外で楽しく遊び半分で体に覚えさせていくと言う方法に切り替えている。
もちろん教育内容についてはマチアスの両親である国王陛下と王妃殿下の了承を得ているし、屋外での“授業”に護衛騎士をつけるのだって忘れていない。
このヘインツがいれば護衛騎士はいらないかもしれないけれど、何事も存在しているというのは大切なのだ。
この日も屋外で魔術の勉強をしている二人と見守るヘインツの姿が、王城の奥まったところにある先々王妃の作った庭園にあった。
庭園を作った当時の王妃は楽しい事が大好きで、彼女がデザインした生垣の迷路がこの庭園にはふたつある。
ひとつは薔薇の花が咲くと見事な白い迷路になり、もうひとつは年中緑色が美しい迷路だ。
今日はその緑色の迷路内に騎士をきちんと配置し、二人に探索魔法を使わせお互いを探すと言う“授業”をしている。
この探索魔法をはじめ、魔法というのは──とりあえずこの国では──魔法が使えるからと言っても必ずしも全ての魔法が使えるというわけではない。これも相性や能力、才能もあるだろうし、他にも何か判明していない原因もあるに違いない──面白い事に、精霊魔法や魔術魔法は各国研究をしているにもかかわらず判明しない事が多すぎる──だろうけれど、魔法で火を使えても水は使えないなんていう事もあるので、使えないものがあったとしてもそれを恥じる必要はない。
ただ一部の貴族は「これが使えないなんて、我が家の恥晒しだ!」なんていうのもいるそうだが、この国では魔石を使い魔法を使うのが一般的。そんなにも恥だと喚くなら質のいい魔石を与えればいいじゃないか──魔石の質で魔法の質が違う、と言う“迷信”だ。因果関係は不明だし、魔石の質で魔法の質が上がると言う明確な証拠はない──と白い目で見られる事も多かった。
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